今年になって急速に連結会計基準の整備が進み、その適用が本格化し始めた。が、この基準、最近の流れである企業間のアライアンスや、有限責任事業組合(LLP)の設立といったリスク分散などの経営手法の多様化と逆方向のベクトルを持ちかねない。特に、リスクの大きな技術革新やコンテンツ制作といった今後日本の注力する成長領域に与える負の影響は大きい。
今秋、中間期決算発表を遅らせたり、大幅な業績下方修正を行ったりした企業が多数現れた。業績そのものは決して下降線にはない投資ファンド、特にベンチャーキャピタルファンドなどの運営会社やアニメーション制作会社などが、共通の理由で業績修正を迫られたのだ。その原因は、9月以降に発表される決算に適用されることになった連結会計基準の新ルールにある。
新ルールとは、2006年10月11日付けで企業会計基準委員会が公開した「連結財務諸表における子会社などの範囲の決定に関する監査上の取り扱い」と、それに先行して発表された「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取り扱い」(2006年9年8日付け)のことだ。これら新ルールは、これまで曖昧だった連結会計の対象を法人だけではなく事業組合や投資ファンドにまで広げ、金の流れの透明性を高めたのが特徴だ。
背景には、近年発覚した幾つかの企業不祥事を受けて、企業会計制度に関連したルールの厳格化の要請が生じたことがある。これは日本だけの事情ではなく国際的なもので、たとえば記憶に新しい米国におけるエンロン、ワールドコム、AOLタイムワーナーなどの問題が、内部統制基準の厳密化を求めるサーベインス・オクスレー法(企業改革法:通称SOX法)などの整備につながっているのと同様だ。
日本においては、不明瞭な金の流れを許さないという目的の下、1)J-SOX法とも呼ばれる金融商品取引法における内部統制の徹底と、2)会計監査における連結処理の厳格化--がなされることになった。前者については、先行した米国における内部統制ルールが極めて厳しいために問題視されていた点を、日本にあった形で見直し、適用対象も公開企業としている点など、比較的柔軟なものとなった(最近、米国でもSOX法の見直しが決定している)。が、後者については、冒頭掲げたように大きな問題を生じさせている。
冒頭の話題のように上場しているファンド会社やアニメ制作会社ばかりが大変なのではない。なぜなら、新ルールの対象がJ-SOX法のように公開企業だけに限定されているのではなく、世の中のほとんどを占める未公開企業を含めた全企業であるためだ。中小企業で、特にリスク分散のために事業組合のような仕組みを多用する企業には大きなインパクトが生じる。
たとえば、コンテンツ領域では中小企業がほとんどだ。これまではメディア企業や大手制作会社の下請けが中心だったが、自主的な作品の制作機会を数多くつくろうということでコンテンツ産業における資金調達を容易にする制度が近年整備され、権利保有機会の拡大を促進するLLPなどの活用も促進されてきた。が、これらの手法が連結会計の厳格適用により大幅に制限を受ける可能性が大きい。
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