現在、韓国の携帯電話でもっとも人気のサービスといえば、モバイル用放送サービスの「DMB(Digital Multimedia Broadcasting)」だ。
DMBには「衛星DMB」と「地上波DMB」の2種類がある。前者は日本で言う「モバイル放送」で、運営者は韓国1位のキャリアであるSK Telecomの子会社TU Mediaだ。後者は日本の「ワンセグ」に該当するもので、現在、民放局やケーブル放送局、地上波DMB専門局など計6社が放送を行っている。
2005年5月に本放送がスタートした衛星DMBの視聴料は1万3000ウォン(約1580円)/月。一方、地上波DMBは、2005年12月と遅いスタートであったものの、視聴料が無料であることも手伝い前者より速い速度で会員を増やしている。
ただ一つ、全国で視聴可能な衛星DMBに対し、地上波DMBはソウルを始めとした首都圏のみで視聴が可能というのが難点ではあったが、ここ最近、全国化へ向けた動きがあった。
これまでソウル以外の地域では国営放送のKBSが、全国計4カ所の主要都市を対象に試験放送を行ってきたのだが、ここに来てそれが計8カ所に拡大されたのだ。これを機とした市場拡大に、業界では大きな期待を寄せている。
ただし放送局同士は葛藤している。それは1つに地上波DMBを地方で提供する際の方法に起因する。まだ確定ではないが、もっとも有力な方法として全国を6つの区域に分け、そこに3つずつの事業者を選定するというものがある。3社のうち1つは全国放送の事業者で、他2つは地域ごとの事業者となる。地方での事業権は今後、韓国政府の情報通信部傘下にある放送委員会が、話し合いのうえ決定していく予定だ。
重要なのはもしこの方法に従えば、試験放送とはいえ現在全国放送を行っているKBSが有利ではないか、というのは大方の見方が強いことだ。
業界では地方での事業権競争に関する不満の声が根強く残っている。業界のとある関係者は「(KBSは)正式な事業権を得たわけではないが、情報通信部による試験局許可は事業権をあらかじめ与えたようなもの。これから地方の事業者の選定を形式的にも行うだろうが、KBSは既に決まったも同様だ。結局3社ではなく、2つの椅子をめぐる激しい競争が起こるだろう」と述べた。
さらにたとえ地方での事業者問題が解決したとしても、放送局はもう1つ、大きな課題を抱えている。収益モデルだ。
衛星DMBとは異なり、無料で提供される地上波DMBの唯一の収益源は広告だ。しかし最近、地上波DMB特別委員会によって発表された6事業者の8月の広告収益は1億2000万余ウォンと、FIFA ワールドカップ期間である6月の2億6000余万ウォンの半分以下に急落している。
一部ではこのワールドカップ特需が終わったことが収益不足の理由と見ているが、理由はもっと根本的なところにある。
韓国政府の文化観光部傘下にある韓国放送広告公社が、最近作られた新しいコンテンツに対してのみ広告挿入を認めているということは、未熟な市場を活性化させる段階において、大きな障害となっている。業界では地上波DMB事業は、情報通信部、文化観光部、放送委員会が主体となって進めているが、事業許可権や試験局許可権といった実効的な役割を持つ放送委員会や情報通信部とは異なり、広告以外にこれといった役割のない文化観光部は、事業に否定的だという見方をしている。
一方で視聴者は下手な新番組よりは、出来の良い再放送を見たがるという調査結果も出ているようだ。これでは広告の意味がないだろう。
実は地上波DMBの本放送は当初の計画より数カ月遅れて開始したのだが、それは収益モデル不在のため業者がためらったという点が大きかった。それを完全に解決できないまま開始してみた結果、後でこのような問題が沸きあがった。韓国は世界でもDMB放送が早く開始した国の1つだが、他国は見ておくべき点がさまざまな面で多いと言えるだろう。
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