時流に迎合しない投資と経営が成功の鍵 - (page 5)

永井美智子(編集部)、田中誠2006年09月07日 08時00分

勝屋:鮫島さんは、どういった点を投資の基準にされているんですか?

鮫島:投資の基準は、ものすごくシンプルに言ってしまうと、ちゃんと売り上げが上がるビジネスかどうかということですね。それから、当然、経営者です。その人と一緒にやっていける人かどうか、対話ができる人かどうかですね、感性として会ってみて分かることなんですが、その部分が大きいですね。だから投資するかしないかは、最初に会った時にほとんど決めていて、あとはそれを社内で通すためにどうやって資料を作るかということです。

 最初にビジネスモデルを聞いて、経営者に会って話をしたら、もう自分の中では決めていますね。あまり良くないかもしれませんが、もし個人でやっていたらすぐに決めて動いてしまうかもしれません。実際は社内調整をするのに時間がかかったりしてご迷惑かけることも多いですけどね。ただ、デューデリジェンス(投資時の評価手続き)で問題点や課題がはっきりしますから悪い事ばかりではありません。

勝屋:組織型VCの難しいところですよね。投資先候補はどのように探してくるのでしょうか?

鮫島:今は投資先が多く、深く関わっているところも多いので、自分で新規に面白いビジネスを探しに行く時間がないのが現状です。でも、おかげさまでネットワークができているので、その中の紹介で見つけることができます。これは価値観をお互いに共有できていて、信頼関係があって、紹介者がどんな人なのか、或いはお互いどんな会社に投資しているかなども分かった上での紹介ですから安心ですよね。

 あと、後藤さんのようにIPOした経営者の方とも、IPO後も色々な紹介を含めてずっとお付き合いしているので、その会社からM&Aをやるんだけど参加しませんかと言われたり。おかげさまでいろんなところから声をかけて頂けるようになりましたので、常に新しい案件はあります。

勝屋:VCをしていてどんな時に嬉しいと思いますか。また、将来的にどんなベンチャーキャピタルを目指していますか。

鮫島:嬉しいのは最初に聞いたビジネスモデルが少しずつ現実になっていくことですね。ずっと付き合っているので、IPO後も含めて会社や経営者自身が大きくなっていくのも嬉しいです。それから、やっぱり投資会社ですから、IPOが承認された日ですよね。関わり具合にもよると思いますが本当に涙が出ます。経営者の人はそこからが大変なんですが、一応我々の仕事はそこで一旦終わる事もあって泣けますね。

 今は組織型のVCにいるのでいろいろ制約も多いんですが、やっぱり日本は新しいサービスや技術を提供できるベンチャー企業が出てこないと成長はないと思うんですよ。そうでなければ今ある会社が海外に出て、海外のマーケットでシェアを取るしかないわけですから。月並みな言い方かもしれませんが、微力でもそこで貢献できたらいいなと思っています。単純に金儲けだけではなくて、キャピタリストとして尊敬される仕事をしたいですし、そのためには日頃の行動も大事だと思います。先ほども言ったネットワークですよね。これに尽きると思います。

転機となるような出会いは常に探しているからこそ見つかるという意見で一致した

勝屋:後藤さんにもお伺いしたいんですが、経営者側としてVCとのつき合い方はどうしたらいいか、アドバイスがあったらお願いします。

後藤:そんなに多くの人と付き合っているわけではないので分からないですけども、ひとつはVCなのか、ベンチャーキャピタリストなのかということですよね。つまり、鮫島さんや上田谷さんという個人なのか、組織のVCなのか。どっちを取るかといえば、まず人が先にあるべきだと思うんです。ブレがない、芯のある人と一緒にやらないとまずいんじゃないでしょうか。

 事業をやっている側はどこかにフォーカスしてそこに突き進んで行こうとしているので、ベンチャーキャピタリストがお金の流れに合わせてなびいてしまうと、結局はロスにつながってしまうと思うんです。きちんと信念をもっていて、こちらがフォーカスしていることに共感してもらえる人であれば、全体が大きくブレることはないと思います。

 組織のVCの場合はいろいろ組織としての力学が働くと思いますが、そういった時にも信念を持っている人であれば、ある程度は同じ舟に乗って来てくれるだろうなと思いますしね。僕の場合はうまく行きましたが、うまくいかなかったケースの話を聞くと、そのあたりがネックになるようですね。

上田谷:VC側からも同じようなことが言えますね。うまくいってない会社は会社の方も外部の状況に流されてブレてしまう経営者がいたりするようです。

勝屋:やっぱり、大事なのは“人と人との信頼関係”ですね。そういう出会いというのは偶然でしょうか、必然でしょうか。

後藤:お互いのネットワークの問題なんだと思います。僕たちの場合は、上田谷さんも鮫島さんも、企業と金融業界の両方にすごいネットワークを持っていたし、僕もできる限りネットワークを持とうとしていました。

 僕は出資を受けるまでに10〜20人のベンチャーキャピタリストと会って、相性が合わなかった人とは2度と会ってないです。そんな中で、たまたま上田谷さんのネットワークの中で上田谷さんが投資してもいいかなと思ったところに僕が入っていて、僕のネットワークの中で僕が出資をお願いしたいなと思っていた中に上田谷さんが入っていた。しかも上田谷さんがインキュベーションの会社を立ち上げるタイミングと僕が資金を強く欲していた時期が一致していた、ということなんですよね。

 それはお互いのネットワークが広くあったから、というのが前提だと思います。しかもネットワークの質も良かったということでしょうね。

鮫島:意識するしないにかかわらず良質のネットワークを作る努力と、そのネットワークを維持、拡大させる努力を常にしていないとダメだということでしょうね。お金が欲しい時だけ誰か出してくれと言っても、いい結果が得られるわけがありませんから。ケンコーコムは、必要な時に必要な人が必ず現れたんですよ。投資してからもそうなんですが、IPOをどうしようかという時に後藤さんが昔から知っているその道の専門の人がぱっと入って来たり、経理のマネージャーをどうしようかと思っていたら優秀な会計士さんが入って来たり・・・。

 それは常に求めているからなんですよね。結果として、偶然たまたま現れたというように見えても、本当はそれまでの努力があるはずだと思います。成功した会社に共通している事ですね。

後藤:あと、ネットワークを作るにしても、自分の得意な方面だけでなく、いろんな方面に作っておく必要はありますね。そうじゃないと、足りないところはいつまで経っても足りないということになりますから。

IBM Venture Capital Group ベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当
勝屋 久

1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。1999年ITベンチャー開拓チーム(ネットジェン)のリーダー、2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation,Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。7年間で約1800社のベンチャー経営者、約700名のベンチャーキャピタル、ベンチャー支援者の方々と接した。Venture BEAT Project企画メンバー、総務省「情報フロンティア研究会」構成員、ニューインダストリーリーダーズサミット(NILS)企画メンバー、大手IT企業コーポレートベンチャーキャピタルコミュニティ(VBA)企画運営、経済産業省・総務省等のイベントにおけるパネリスト、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の中小ITベンチャー支援事業プロジェクトマネージャー、大学・研究機関などで講演、審査委員などを手掛ける。ベンチャー企業−ベンチャーキャピタル−事業会社の連携=“Triple Win”を信条に日々可能な限り多くのベンチャー業界の方と接し、人と人との繋がりを大切に活動を行っている。

また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ 機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、 ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」 のプランニングメンバーを務める。

趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)

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