医薬品のネット販売14社が厚労省へ要望--「薬事法改正の審議は乱暴で不十分」

別井貴志(編集部)2006年01月19日 22時05分

 ケンコーコムが発起人となって結成された「インターネット販売のあり方を考える薬局・薬店の会」(ネット薬局の会)は1月19日、厚生労働省に「薬局・薬店による医薬品インターネット販売に関する要望書」を同日10時に提出した。

 ネット薬局の会は、インターネットを活用して医薬品を販売している14の薬局・薬店で構成されている。会員は、(1)薬局もしくは薬店(薬剤師を有し、医薬品の小売が認められている)であること、(2)インターネットを活用して医薬品を販売していること、(3)今回提出した要望書に賛同していること、という3点をすべて満たした有志らだ。

 要望書では、安全性の確保を前提としつつ購入者の利便性に配慮した医薬品の販売方法として、インターネットの利用を容認する検討を求めた。要望書を提出したことについては、オールアバウトやサイバーエージェント、GMOインターネットなど20社のインターネット関連企業が趣旨に賛同し、支持を表明している。

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対面販売と同等の議論や審議を求める後藤氏

 ケンコーコムの代表取締役社長である後藤玄利氏は、「薬事法の改正は1960年以来のことで、十分な審議を経ずに、また消費者へパブリックコメントを求めたり事業者にヒアリングしたりしないまま、今後5〜10年の医薬品流通のあり方や体系を決めてしまう法案がいままさに提出されようとしていることに相当な危機感を持ったので要望書を提出した」と、背景を説明した。

 厚生労働省は、3月の通常国会に薬事法改正案を提出する予定で、2006年度中にも施行される見込みだ(以下参照)。

医薬品インターネット販売の歩み
 1960年  現行の薬事法制定
 医薬品の通信販売が開始
 1988年  医薬品の通信販売に関する通知
 1994年  インターネットが出現し医薬品のネット販売開始
 2004年  医薬品のインターネット通販に関する通知
 2004年4月  厚生科学審議会開始(医薬品販売制度改正検討部会)
 2005年12月  厚生科学審議会報告書
 2006年3月(予定)  改正薬事法案提出予定
出典:ネット薬局の会

 この法案は大衆薬の販売方法を見直すことが骨子だ。同法案の報告書では、薬局で販売する大衆薬(OTC薬)を副作用の程度や主要成分などによってA〜C類の3つに分類し、A類にあたる高リスクの薬は、薬剤師が消費者に直接手渡しする対面販売を義務づけた。消費者が自由に商品棚から手にとって購入できなくなる薬も出てくるわけだ。

 こうした中で、報告書ではC類にあたる低リスク薬についてのみ、電話相談窓口の設置などを条件に、インターネットなどでの通信販売を認めている。後藤氏は「この法案がそのまま通ってしまうと、現在インターネットで販売している医薬品の8〜9割を販売できなくなる可能性がある」と危機感を募らせた。

 薬局・薬店によるインターネット販売が可能な医薬品は整腸剤やビタミン剤などに限定するとも読み取れる報告書になっていて、最悪の場合は、風邪薬や解熱鎮痛薬、漢方薬、妊娠検査薬、大半の胃薬、水虫薬などは薬局・薬店であってもインターネット販売を認めない方向で法案化される可能性があるとの主張だ。

改正薬事法案報告書による医薬品の分類
分類 内容 販売方法
A類 一般用医薬品としてリスクが特に高い成分を含む 胃腸薬「ガスター10」
発毛剤「リアップ」など
対面販売が必須
B類 まれにではあっても、日常生活に支障を来す恐れのある成分を含む 風邪薬「ルル」
便秘薬「タケダ漢方便秘薬」
排卵検査薬「ドゥーテスト」
痔の薬「ボラギノール」など
対面販売が原則
(TV電話利用は検討)
C類 日常生活に支障を来すほどではないが、副作用などにより身体の変調や不調を生じる恐れがある成分を含む 便秘薬「3Aマグネシア」
ビタミン剤「アリナミン」
整腸薬「ビフィーナ整腸薬」
うがい薬「イソジン」など
対面販売原則
(通信販売は認める)
出典:ネット薬局の会
医薬品のリスク分類と販売方法の例
分類 薬局・薬品 テレビ電話 通信販売 コンビニエンスストア
A類 × × ×
B類 × ×
C類 ×
出典:ネット薬局の会

 これに対してネット薬局の会は、(1)安全性や利便性の面における判断基準に偏りがある、生活インフラの1つとして社会に浸透しているインターネットに関する配慮が欠けている、(3)既存利用者の利便性ならびにその利用実態を把握せず、生活者の視点に欠ける、といった点などから、報告書を作成した検討部会そのものを批判している。

 そこで、提出した要望書では、ネット販売は対面販売に準じるものという観点からの法案検討を要請し、以下の点をその骨子としている。

  1. ネット販売は対面販売の趣旨にそった安全性の確保が可能
  2. ネット販売ならではの利便性がある
  3. 既存の薬局・薬店とは競合しない
  4. 自主規制など秩序維持の取り組み
  5. 事業者や利用者の実態や意見を把握するべき

 ただし、今回要望書を提出した行動は、ネット販売を対面販売と同じにしてほしいと主張しているというよりは、審議を十分にしないまま報告書がまとめられて、法案が提出されてしまうことに憤りと危機感を募らせているといった意味合いのほうが強いようだ。

 後藤氏は「ネット販売と対面販売を同等に議論してほしかったが、あきらかにネット販売が誤解されており、不法なネット販売もきちんとしたネット販売もすべて一緒に扱われた」と声を強めて語った。まずもって、検討部会にはインターネット技術やネットの活用事例に精通した人が不在で、「すべての審議を傍聴したが、乱暴な審議のままだった」と言う。

 そこで、後藤氏は規制改革会議に対して3回ほど「審議に参加させてほしい」と要望してきたが、ことごとく「報告書ができるまで待ってほしい」と返答があるだけだったという。そこで、報告書の発表を受けて行動に出たわけだ。

 もう1つ、ネット薬局の会が強く求めているのは、医薬品のネット販売の実態をまずは把握するべきだということだ。後藤氏によれば、ネット販売には大手というものが存在せずに、街角の薬局が行っている場合が多いという。そのために「実態の把握は難しく、ネット販売している事業者数や売り上げ、市場規模はわからない」としている。

 それでも、OTCの薬局の規模が8000億円といわれている中、ネット販売を推測すると、事業者数は100者以上あり、売り上げ規模は数十億円程度ではないかと見ている。この一方で、経済産業省がまとめた「2004年度電子商取引に関する実態・市場規模調査」によれば、「医薬・化粧品・健康食品」のBtoC EC市場規模は2220億円で、EC化率は4.05%だという。後藤氏は「あくまでも推定だが、医薬品だけを抜き出すと販売者側が自主規制しているためにEC化率は1%未満と低く、そのためネット販売の市場規模も非常に小さい」と嘆いた。

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