インキュベーターの新しい姿:Cambrian Houseの「クラウドソーシング」ソフトウェア - (page 2)

文:Rafe Needleman 翻訳校正:吉井美有2006年08月22日 21時06分
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 この評議会はまだ設置中だが、初期のガイドラインはすでにいくつか決められている。例えば、プロジェクトを立ち上げるきっかけとなったアイデアは、最終的に分配されるすべてのポイントの5%に相当する。もしも同じアイデアが5人から提案された場合、最初に提案した人にポイントが与えられることになる。

 最後に、Cambrian Houseは製品のマーケティングと販売を行い、貢献した人々に利益を分配する。分配されない利益はCambrian Houseに渡る。Sikorsky氏によれば、同社の目標は、製品ごとに25〜50%のロイヤルティポイントを保持することだという。これが同社の営業利益と、市場テストを行い、製品をリリースするというリスクを冒すことに対する手数料ということになる。

すべてをアウトソーシングで

 アイデアに対して資金を拠出するのではなく、従来のインキュベーターのようにチームに出資する方が理に適っているという見方をすることもできる。実際、若手のプログラマーたちがそのプロジェクトに取り組んでいる間、家賃やインスタントラーメンといった最低費用を負担するという新しいタイプのインキュベーターであるY Combinatorは、最近リリースされたInkling MarketsやFlagr、YouOSといったいくつかのたいへん興味深いサービスを支援してきた。これに対してCambrian Houseは、オンラインコミュニティ全体の知力を利用しようとしている。

 Cambrian Houseが幾ばくかでも利益を生み出そうとすれば、あらゆる面において成功する必要がある。そのためには良いアイデアが必要だし、優れた市場テストを行う必要があるし、質の高いコーディングも必要であるし、そしてもちろん、優れたマーケティング(これは市場テストよりも大変だ)や高い売上も必要だ。本質的に同社はデザイナーとして「クラウド」(群衆)に資金を提供するものの、オンラインのアイデア生成システムによって生み出されたアイデアをマーケティングするために単一のチームを運営することになる。

 Cambrian Houseの手法をコンセプトとして捉えた場合、特に強力に思われるのがアイデア生成システムである。楽して金を稼ぐ(アイデアを出せば金持ちになることができ、自分では他に何もしなくてもよい)という誘惑によって、アイデアの提案を促すことができる。しかし、類似のアイデアが提案され、権利の主張がぶつかりあった場合にはどうなるのだろうか。Cambrian Houseは特許管理団体ではない。すべてをオープンにしている。アイデアが同社のプロジェクト(「ブランチ」と呼ばれる)に流れ込んでくる間も、すべてのユーザーはプロジェクトの進展状況を知ることができる。「それは自分も考えた」と思ったユーザーは、プロジェクトに貢献することによって、すでに進行中のプロジェクトであっても途中から参加することができる。

 大量に寄せられるアイデアを絞り込むには、投票システムも少しは役に立つだろうが、インキュベーターとしての成功を実際にもたらすのは同社の内部的な市場検証プロセスである。もっともこれは、同社のクラウドソーシングという開発モデルによって、きちんと動作する製品が完成すると仮定しての話である。

 Cambrian Houseのプロジェクトによって生み出され、世に出たものとしては、Prezzleがある。これは、プレゼントの送り手に代わって、そのプレゼントの受け取り手に電子メールで「プレゼント」を配達するというお茶目なサービスである。普通のギフト券やe-グリーティングカードとの違いは、ある特定の日まで、そのプレゼントを見ることはできても「開ける」ことはできないという点にある。同サービスはAmazonのアフィリエイトを利用して売上を計上するようになっており、すでにキャッシュフローを生み出し、その一部を貢献者に還元している。

知の時代

 PrezzleのおかげでCambrian Houseの創設者が大金持ちになるということはないだろうし、同社がカナダのアルバータにあるAdventure Capitalという、新しくて小規模なベンチャー企業から調達したベンチャー資本250万ドルを返済できるということもないだろう。しかしこれは、同社がベンチャー投資先としてよくないということを意味しているわけではない。それどころか、Prezzleのようなうまいアイデアは、短期間で、そして(Cambrian Houseにとって)非常に低価格で実現化できるのである。さらに同社は、利益が上がるまで貢献者に一切支払いを行わない。こういった利益はコミュニティに還元され、より多くのアイデアや開発が促される。このような小規模な製品を受け入れる市場がある限り、Cambrian Houseはおそらく長期にわたって存続するだろう。

 Cambrian Houseの小さなアイデアが大きく育った時には、利益の大きな還元が可能となる。もしもこういったことが実現すれば、同社はその製品に特化した会社を設立するだろう。これによって、ベンチャー資本はその役割を終えることになる(その製品のポイントを保有しているコミュニティメンバーも、新たに設立されるこの会社に参画することになる。ただし、新会社における彼らの資本保有率はかなり低くなるだろう)。

 Cambrian Houseは、従来のインキュベーターモデルを非常に巧妙に修正したものであるが、昔からあるポートフォリオに基づくベンチャー投資とまったく違うわけではない。大きな違いは、Cambrian Houseの製品開発に対する投資が少なくて済むという点である。これは、コミュニティがその取り組みの多くとリスクの一部を担うためである。Cambrian Houseがもたらす付加価値は、同社の巧妙なアイデア生成システムに加えて、市場性の検証と販売に関するシステムにある。同社はこの点に関して、従来のインキュベーターと大変よく似ている。あるいは、素の製品に対して熟練したマーケティング技能を適用するテレビショッピング会社と似ているとも言える。Cambrian Houseそのものがその製品それぞれから得る利益は、従来のベンチャーキャピタル会社が各新興企業から得る利益に比べれば少ないだろう。しかし、Cambrian Houseが本当にオープンなアイデアおよびコーディングの工房に成長することができれば、長期的には健全な見返りが期待できる。その一方で同社は、ホームランを打つことなく、ちょっとした利益を上げる一連の(Prezzleのような)小さな製品をサポートするだけに終わる可能性も大いにある。

著者紹介
Rafe Needleman
Rafe Needlemanは何年にもわたってクールなテクノロジや新興企業を追いかけてきており、Red Herring、Business 2.0、AlwaysOnにて執筆した後、現在はRelease 1.0で執筆している。

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