監査人が見たライブドア事件の舞台裏:後編 - (page 2)

構成:西田隆一(編集部)
写真:梅野隆児(ルーピクスデザイン)
2006年06月22日 13時20分

小池:なるほどね。でも、宮内さん以外の人たちは別にそんな義理も……。

田中:いやあ、そこはよくわからないんですよね。

小池:ファイナンスグループは、宮内さんが親分でみんなを引っ張ってきたようなところもあるのかな。

田中:そうですね。

小池:宮内さんへの忠誠心がけっこうみんなあったんだろうね。

田中:そうだと思います。

小池:実際にそれでも堀江さんを随分かばいながらやっていて、逮捕された瞬間、みんな洗いざらいしゃべっちゃったのは何かあるのかな。

田中:堀江さんが、宮内さんとか岡本さんとか中村さんを失望させたんでしょうね。「僕は知らない」と言ったとか、報道されているようなことがあって、失望した宮内さんたちは真実をありのままに話すほうがいい、ということだと思います。

行き過ぎてしまった市場への警鐘の意味も

小池:堀江さんも本当にまだまだ若いし、非常に優秀なことは確かだし、あれだけビジョンを持っていろいろやろうとする若い日本人もなかなかいないだろうから、今後どういうふうに出直せるかという問題はあるかもしれないけど、悪いことは悪いと認めて、気持ちよくけりをつけて出直したほうが、僕はいいと思うけどね。

 すごく無駄な時間もお金も使っているしね、税金でやっている話だしさ。あとはやっぱり日本の資本市場に与えたインパクト、あるいはいろいろな会社や業界に与えたインパクトはすごくデカい。その辺を踏まえてね、特にライブドアショック以降、上場株なんかも低迷して新興株がめちゃめちゃになっていますよね。やっぱり、資本市場に与えた影響もでかいと思うんですよね。

 ただ、2000年の日米のネットバブルのクラッシュで学んだことをみんな忘れて、またもうイケイケドンドンでバブルになっていたところだから、僕自身はこの事件による新興企業の見直しによって、ベンチャー企業がコンプライアンスを重視し、地に足を着けた活動を行うきっかけになったという意味で大きな意義があったと思う。あのまま行ってしまっていたら本当にバブルで……。

田中:私の立場からは言いにくいですね。ただ、明らかにバブルと見られる現象が見られましたし、警鐘というか、この事件によってそういう効果は実際にあったかもしれません。

小池:法制度も変えている最中ではあったし、いろいろなことにチャレンジできるいい場ではあったんだけど、それを悪用ではないが、スキームにおぼれていろいろやるような風潮も確かにあったと思うんだよね。そこは業界全体、特に経営に携わる人間が一度見直すという意味では非常にいいタイミングだったと思うけどね。

 そこら辺を踏まえて今の資本市場、あるいはガバナンスとかコンプライアンス、取締役会・監査役会の位置づけ、監査法人について田中さんが企業の内部で見てきて、気づいたこと、学んだこと、あるいはいま実際にベンチャーでやっている経営者の人たちに、何か言いたいことはありますか。

田中:こういう立場なので説得力はないと思いますが、別にライブドアに限らず、ガバナンスというか経営の在り方みたいなところ、それからベンチャー企業を巡る市場全体、そして会社の取締役会であり、監査役、監査役会であり、会計士であり、それからもっと大きな所でいうと証券取引所だったり、証券会社だったり、ベンチャーキャピタル、投資家、それぞれがそれぞれの立場からこういうマーケットを担っているのだと思うんですが、それぞれがみんな脆弱だと思うんです。

 日本の場合は、まだまだいろいろな意味で甘さもあるし、やっぱりそういうもののひずみが出てしまった象徴としてライブドア事件があったと思うんです。今言ったようなプレイヤーそれぞれがみんな弱かったというか、有効に機能していなかったということだと思うんです。その結果、出たのが多分ライブドア事件だと思います。

 これだけ日本の経済社会というか、マーケットの中に資本の論理みたいなものが浸透して、奇しくもライブドアないし堀江さん、宮内さんというのはすごくお茶の間化しましたよね。それはそれですごく効果があったと思いますが、「健全にチャレンジすること」と「道を踏み外すこと」の峻別ができていなかった。本来あるべきリスクマネジメントとかガバナンスとかという発想が麻痺してしまったんでしょうね。

 ただ、ライブドアとかわれわれ監査人が今回陥ったような罠は、けっこう口を開いて待っていると思います。今ちょっとゆるんで、バブルの予兆を感じさせるような状況ですよね。

小池:ライブドアのやったことのキーワードとして、株式分割であるとか、時間外取引であるとか、M&Aであるとか、そういったキーワードが多く使われていたと思いますが、それぞれについてはどう思いますか。

田中:よく考えたなというのはあります。知恵というか、頭の働かせ方は、純粋に感心する部分はありますよね。

小池:目的が不健全だという問題もありますよね。

田中:株式を100分割することに関して大義名分は当然あると思うんです。あるとは思うんですが、おっしゃるように、やっぱり動機が不純というか、不健全な使い方だったということですよね。

小池:株式分割については、経済産業省がプライベートエクイティファイナンス事業環境整備研究会というのを2000年ごろに作ったんです。その時に僕は委員で入っていたんだけど、欧米なんかだと、特定のお金を持った人しか買えないこと自体が不公平だという考え方だから、株価が100ドルを超えると、1株数ドルとか、せいぜい十数ドルに収まるように、それでみんなが買えるように、取引所が「適正な株価に分割しろ」という指導をするわけです(2001年2月経済産業省寄稿文) 。

 ところが、日本の場合は1株あたりの純資産が5万円を切る株式分割が認められていなかったので機動的な株式分割ができずに1株何百万円という株価がまかり通っていた。それは制度によってできなかったというのもあったので、それを変えましょうということでその委員会で提言を行い商法を改正していった経緯がある。株式分割も含めてストックオプション制度や種類株についても改正していった訳だけど、そもそも商法を改正した理由と目的があり、そこをうまく利用して別の目的に使われてしまったというところに問題があった(経済産業省プライベートエクイティーファイナンス事業環境整備研究会提言2000年11月)。

田中:そうですね。分割すると制度の不備で株価が上がるというところと、あの時はやはり専門家も含めて「分割銘柄に注目」とかやりましたよね。意図的に上げている部分もありましたよね、群がっていって。そこに便乗、悪用してということだと思いますね。

小池:ファイナンスの専門でないテレビのコメンテーターとか本当に訳のわからない人たちがよく「株式分割がいけない、悪だ」みたいなことを言ってるけれど、それも全く根本は違う話でね。

 時間外取引だって、ちゃんとした理由があって導入している仕組みだし、あとはM&Aが悪いみたいな風潮はね、一時は欧米型のM&Aをはやし立てておきながら、今は何かM&Aが悪いみたいなことになっているけれど、やはり成長戦略としてM&Aは必要だし、もちろん敵対的というのは支持されないけれども、やっぱり目的にあってそういうスキームがあるんだということ自体は、もうちょっと正確に伝えていかなければいけないと思うんだよね。

 ただ、確かにライブドアが買収していた企業は、本当に事業の成長戦略上必要なのかどうかはちょっとわからないのもあったのかもしれないけれど。

小池聡氏

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