Schaaffは、Dartmouth Collegeで数学と社会科学を専攻。1982年に大学を卒業すると、そのままNew England Digital(NED)というバーモントの小さな会社で働き始めた。同社は「Synclavier」という強力なデジタルシンセサイザーを開発したことで、メディア関係者の間ではよく知られた存在だった。
Synclavierは当時、映画の効果音作りなどに幅広く利用されており、NEDはLucasfilmなどの映画製作会社と密接な関係にあった。NEDを創業したCameron Jonesは、Schaaffが映画作りの実際の仕組みを理解しようしていたことを覚えている。プログラマと映画製作者とを隔てる文化的なギャップを乗り越えることができる人間が彼のスタッフのなかにも何人かいたが、若き日のSchaaffもその1人だったという。
「Timは、われわれのような技術系の人間が浸かっていた環境から抜け出して、とても人間的でオープンなアプローチでサウンドエンジニア連中と気持ちを通じさせることができた」とJonesは言う。「彼はほかの人間との関係作りが本当に上手だが、そうしたことが苦手な技術系の管理者は大勢いる」(Jones)
1990年代初めに、NEDの経営は傾きつつあった。同社はAppleのコンピュータを自社の製品に使用していた関係から、社員をAppleに派遣していた。Schaaffは1991年にAppleに移り、スピーチシンセサイザーの開発を振り出しに出世の階段を昇っていき、ついにはQuickTime開発チームの責任者となった。
このポストに就いたSchaaffは、まもなくMicrosoftと密接な関わりを持つことになった。Microsoftは1990年代半ばにマルチメディアソフトの開発を独自に進めていたからだ。その後、SchaaffはMicrosoftの独禁法訴訟に関連して、1998年に宣誓供述書を提出した。このなかで彼はMicrosoft幹部と行ったミーティングの様子を詳しく述べている。それによると、同社の幹部らはSchaaffに対して、QuickTimeプレイヤーのWindows版開発を中止するよう圧力をかけてきたという。
「QuickTimeをメディア再生の標準にしようとする取り組みについては、本当に考え直したほうがいい。われわれはとても手強い競争相手で、通常こうしたことには勝ちを収める。だから、いま諦めたいと考えているかもしれない・・・というような話だった」と彼は検事に語っていた。
Schaaffの証言のなかには、ほかにも痛烈なものがある。Microsoftの幹部らは彼に向かって、政府の動きがあまりに遅すぎて効果的ではないことから、独禁法違反の訴訟は怖くはないと述べたという。またこの幹部らは、Microsoftの社員が後で(証拠として)法廷で使われそうな電子メールを削除するのはよくあることだと語っていたという。
Appleの経営状態が上向くにつれて、業界内でのSchaaffの影響力も高まっていった。彼はオープンな業界標準を支持することを早くから社内に強力に訴えていた。そして、Moving Picture Experts Groupの標準策定プロセスにAppleを参加させる上で重要な役割を演じた。
「Timはオープンな標準の持つ優位点を確信していた」とKevin Marksは言う。QuickTimeの開発に5年間携わったMarksは、現在Technorati.comの主任エンジニアとなっている。「QuickTimeがMPEG 4のコーデックを採用し、QuickTimeのファイルフォーマットがMPEG 4に採用されたが、これがオープン標準に向けた大きな動きとなり、Appleに大きな見返りをもたらした」(Marks)
Appleが最近出したマルチメディア技術は、HD(高品位)動画に対応した「QuickTime 7」や「iTunes Music Store」で使われているオーディオ/ビデオフォーマットを含め、そのほとんどがこれらのオープン標準を元に開発されている。
Appleの社内では珍しく、Schaaffは業界全体にまたがる団体でも積極的に活動し、社外パートナーとの協力も活発に進めていた。彼は「Internet Streaming Media Alliance」の創設にも力を貸したが、この団体の目標はさまざまなオンラインメディア技術に互換性を持たせるというものだ。
こうした作業を通じて、Schaaffはソニーのさまざまな部門と密接なつながりを持つことになった。これらの事業部は、デジタルカメラやコンピュータなどの機器にQuickTimeを採用していたからだ。このつながりから、やがてSchaaffに白羽の矢が立つことになる。
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