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ソニーの期待を集める元QuickTimeエンジニアの課題

文:John Borland(CNET News.com)
翻訳校正:坂和敏、尾本香里(編集部)
2006年02月17日 12時08分
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 ソニーのソフトウェア部門を新たに率いることになったTim Schaaffには、過去にも混乱の渦中にある企業で働いた経験がある。

 Schaaffは1997年前半に、Apple Computerで「QuickTime」の開発チームを指揮していた。当時のAppleでは、新たに復帰したSteve Jobsが社内の整理を進めるなかで、同社の没落に加担したと感じた社員を解雇したり、製品の取り扱いを打ち切ったりしたことで、社内はゴタゴタとした状況にあった。

 QuickTimeの開発グループは、それまでにほぼ完全に独立した存在になっていたため、表面的にはJobsが新たに敷いた中央集権体制に最も適合しない部門の1つのように見えた。しかしAppleの元社員の話では、Shaaffが自らの「禅(僧)」にも似た影響力を使ってなんとかJobsをなだめ、QuickTimeグループの解体や再編を免れることに成功したが、それほどうまくいった例は全社を見回してもほとんどなかったという。

 「Jobsがお気に入りの人間を引き連れてAppleに乗り込んできた時、QuickTimeグループを動かしていたエンジニア連中は独自の決定を下せる状態に慣れきっていた」とCharles Wiltgenは言う。かつてQuickTimeのエバンジェリストをしていたWiltgenは、現在Qualcommで製品マネージャとして働いている。「Appleの人間はとても頭が良くて、しかも頑固だった。そうしたグループ間の仲を取り持てた人間が何人かいた。Timもその1人だった」(Wiltgen)

 そんなSchaaffは今、ソニーのなかでも最も期待される人物の1人となっている。46歳になった彼は2005年末にAppleから引き抜かれ、ソニーで新たにつくられたソフトウェア開発担当のシニアバイスプレジデントに就任した。Schaaffはいま、ソニーグループ内のさまざまな事業部で進められているソフトウェア開発の取り組みを横断的にコーディネートする立場にあるが、同社がこうした役職を設けるのは初めてのことだ。

 一部の人間の目には、いまのソニーが1990年代中頃のAppleとよく似た状況にあるように見える。当時のAppleと現在のソニーには、いくつかの共通点がある。まず、過去にハードウェア分野で華々しい実績を上げながら、ソフトウェアのポートフォリオが手薄という点。また社内の各製品グループはクリエイティブだが内向きで、グループ間のコミュニケーションはほとんどないか、あってもうまく行っていない場合が多い点。そして、市場での首位陥落以来、長期にわたって続く凋落傾向を押し戻そうと実施された歴史的な変革のさなかにある点などだ。

 ソニーは、Shaaffを雇い入れたことを2005年のクリスマス前に発表した。同社CEOのHoward Stringerはその数週間後、このニュースについて同社が少し神経質になっているものの、Schaaffの能力に対する同社の信頼はとても大きいと述べていた。

 Stringerによると、ソニーの各事業部--「サイロ」と呼ばれることも多い--はこれまで音楽プレイヤーやテレビ、ゲーム機のようなさまざまな製品向けに、それぞれ独自にソフトウェア開発を進めていたが、このことから生じる重複や非互換性の問題を回避する手段を同社は初めて手に入れることになるという。

 「日本人はソフトウェア開発が得意でない、というのは迷信に過ぎない」と、Stringerは1月のConsumer Electronics Show(CES)での記者会見のなかで述べていた。「しかし、われわれにとって、すべての事業部をまたいでソフトウェア開発をコーディネートすることは困難だった。そのために、多くのリソースが浪費されていた」(Stringer)

 この記事に関して、Schaaff自身からのコメントは得られなかった。ソニーのある関係者は、Schaaffは現在新しい職場に慣れようとしているところで、取材に応じられる状態ではないと説明した。またAppleの関係者からもコメントは得られなかった。

「人あしらいに長けたエンジニア」

 ソニーで各事業部間の調整にあたる役目はもともと難しい。同社には、非常に独立色が強いことで悪名を馳せたさまざまな事業部がある。これらの事業部は、過去の経営陣のもとで進められた組織再編の取り組みに頑なに抵抗してきた。

 ソニーにとって初めて、日本人以外のCEOとなるStringerは、2005年秋に現在の組織再編を開始したが、Stringerはこの計画を発表した際に、これらのサイロの壁を打ち壊し、各事業部や製品グループ間の調整について改善を図ると約束していた。ただし、この約束を実現するには、外交官のような洗練された社交術とエンジニアとしての信用が必要とされる。

 そして、Schaaffはこの両方を備えているというのが、彼を知る人々の一致した見方だ。

 われわれの取材に応じたSchaaffの元同僚らは、彼は物静かで頭がよく、ソフトウェアの仕組みだけでなく組織や人間の動き方に対する理解力にも優れていると評した。Schaaffは他の人の話に耳を傾け、情報を吸収し、判断を下す前に深く考え、自分自身が目立ちたいとはまったく思わない人物だという。Wiltgenは彼のことを「Steve Jobsとは正反対の人物」と呼んだ。

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