すなわち、ゼロベースから普及を狙う必要がなく、すでに携帯電話などに組み込まれたハード=FeliCaにソフトとしてセブン&アイの電子マネーアプリを導入促進するという選択肢が現れてきているのである。結果、NTTドコモやau、ボーダフォンのおサイフケータイでも、共にFeliCaを採用しているためセブン&アイの電子マネーサービスが利用も可能になるのだ。
加えて、すでに提携を発表しているJCBがカード関連業務を委託することで運用コストの軽減を狙うことができる。JCBはポストペイ(利用後にまとめて決済をするクレジットカード的な形態)方式のQUICPayを展開しており、今後、同サービスの採用もセブン&アイとして検討するということもあり、電子マネーの導入と運営に伴うコストを圧縮するだけではなく、先行する2つの電子マネーサービスとの差別化を狙うことも可能になってくる。
すなわち、数年前に電子マネーを導入しようとすると、ゼロベースからの普及を全て自身で行う必要があったが、既存のおサイフケータイやICカードをすでにクレジットカードで運用している事業者の支援を得て、事業を開始することができるようになってきているのだ。ましてや、多くの顧客を有する市場のリードプレイヤーであれば、参入リスクはより小さくなっていくに違いない。
自らが提供するパスに付加価値を加え、置換することによる普及を成功させたJR東日本のSuicaも電子マネーの利用展開を積極的に進めている。自社資産である駅ビルのテナントやエキナカのショップに加え、セブン&アイのライバルであるイオン・グループやローソン、ファミリーマート、デイリーヤマザキ、スリーエフなどのコンビニ、ジョナサンやロイヤルホストといったファミリーレストランでSuica決済が可能になっている。加えて、大学生協やビックカメラ、ENEOS、大丸ピーコックなど、多様な業態を押さえることに成功している。
同様に、FeliCaの生みの親であるソニーの関係会社にあたるビットワレットが展開するEdyも、オンライン決済系を中心に多種多様なアライアンスを実施し、決して見劣りする状態にはない。
しかし、複数の電子マネーが市場に存在することは、決して利便性が高まるとは言いがたい可能性がある。少なくともFeliCaというプラットフォーム互換性(=同じおサイフケータイで複数の規格を利用できる)は存在するものの、A社の電子マネーやポイントをB社で利用することはできないし、ましてや併せて利用することはできない。そのため、少なくとも電子マネーという機能を見る限りには、結果的には3種の規格が合従連衡を起こし、2種、あるいは1種へと統合されていく可能性は否定できない。
もちろん、規格自体の統合が起こるとは言い切れないが、少なくとも複数の電子マネー規格間での価値流通・交換を行うサービスは生まれてくるのではないか。そうなると、本格的な電子マネーの利便性が高まってくるに違いないが、その際には囲い込み効果は半減するに違いなく、予めポイントというマーケティングのための貨幣を更に「隠し玉」として埋め込んでおくことが必要になってくるであろう。
果たして、セブン&アイの電子マネーは、他の規格を巻き取るハブになるのか、それとも巻き込まれるプレイヤーとなるのか。興味深く見守っていこうと思う。
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