Bruce Schneierは、世界でも最も高名なセキュリティ専門家のひとりとして、大げさな言動が目立つこの業界で、理性の声をあげ続けてきた。
Counterpane Internet Securityの創業者であり、セキュリティに関する著作もあるSchneierは、サイバーテロを重大な脅威と見なす人々を批判してきた。
そこで、ハッカーが戦略を転換しつつあるとする警告がSANS Instituteから出され、また英国の重要インフラにとって最大の脅威は外国政府だと、政府のセキュリティ対策機関NISCCが主張しているいま、セキュリティ問題の展望について、Schneierに意見を聞いた。
--英国の重要インフラにとって、外国政府は最大の脅威であり、ハッカーを使って英国を脅かそうとしているという主張についてどう思われますか。
総じて、これらの脅威は大げさに語られていると思います。外国政府が英国の重要インフラに対してスパイ活動を働いているという人もいますが、この手のレポートを厳密にみていくと、その内容が非常にあいまいなものであることが分かります。
--サイバーテロは依然として、必要以上に問題視されていると。
その通りです。米国政府はテロとの戦いに巨額の資金を投じています。サイバーテロが大げさに語られているのはそのためです。人々は重要インフラがサイバーテロの標的となる危険性を論じていますが、危険なのはテロリストより、むしろ犯罪者です。
しかし現時点では、犯罪者はテロリストほど「目立つ存在」ではありませんが、だからといって犯罪者の脅威を軽視するべきではありません。またテロ対策に比べて、ネット犯罪への対策は不足していると思います。個人情報の不正取得や恐喝行為は依然として横行しています。犯罪者たちは金儲けの機会を虎視眈々と狙っています。
--金銭目的のハッキングが増えているようです。SANSがいうような「悪意ある市場」は存在するのでしょうか。
脆弱性、悪用ツール、古いコンピュータなどの市場は確かに存在します。残念なことですが、ハッカーと犯罪者を結ぶルートは確実に存在します。
(NISCC所長の)Roger Cummingsは先ごろ、犯罪者とハッカー、ハッカーとテロリストのつながりが今後さらに強まっていくだろうと述べました・・・これが映画の中の話なら、そうなるでしょう。しかし実際には、テロリストの脅威は過大に評価され、逆に犯罪者の脅威は過小評価されています。
--政府がテロの脅威を利用して、国民の情報を集めていることについて、またそれが警察権力に及ぼす影響についてどう思われますか。
大変恐ろしいことです。これは非常に複雑な問題であり、私の本でも何度か取り上げてきました。われわれはひとつではなく、複数の脅威に直面しています。心配なのは、ひとつの脅威(テロ)から身を守ろうとすることが、結果的に、人々の安全保障を脅かしていることです。人々は怯えています。怯えているがゆえに、政府に権限を委譲し、自由を手放そうとしています。英国ではテロの脅威をきっかけに、Eカードやバイオメトリック(生体認証)パスポートに関する議論が全国で巻き起こりました。
--バイオメトリクスに関してはどうお考えですか。
バイオメトリクスはある分野では効果的ですが、それ以外の分野では有害です。バイオメトリクスの使用に適している分野と、そうでない分野があります。何よりも問題なのは、人々が「自分たちは危機的な状況にあり、バイオメトリクスを使えば、たちどころに安全になる」と考えていることです。バイオメトリクスを使うのは、それが適している場所に限定するべきです。
--IDカードについてはいかがですか。
一般的にいって、IDカードは金の無駄遣い以外の何ものでもない--これはMI5(英国の保安部)の元長官Stella Rimingtonの言葉です。私もこの意見に全面的に賛成で、Rimingtonが同じように考えていることを知って、うれしく思います。
英国では、IDカードをめぐる議論が人口管理の問題にすり替わっています。議論がテロではなく、移民の統制に終始しているのです。英国で正しい議論が行われていないことを残念に思います。
--このままいくと、社会はどうなるのでしょうか。
自由は大幅に侵害されることになるでしょう。われわれは将来を見失いつつあります。これは朗報ではありません。不愉快なことですが、これが事実です。その結果、人々は以前ほど安全ではなくなります。テロの脅威が、さらに高まるからです。テロリストの危険性はさらに声高に語られるようになり、人々は警察に国家権力を委ねることになるでしょう。
われわれは目前の安全保障に使うべき金を--情報活動や緊急対応の改善に使うべき金を、選挙活動に浪費しているのです。
George Bushが作りあげた世界では、誰一人として、身の安全を感じることはできません。
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