「恵まれない子供のための慈善団体に、Hewlett-Packard(HP)のコンピュータとモニタを1000台出荷してくれ」というその注文には、これといって怪しげなところは見あたらなかった。
しかし、HPの調査員が出荷先の住所を訊ねてみると、そこには恵まれない子供も教室もなく、あるのは倉庫だけだった・・・。
グレイマーケットへようこそ。この合法市場と闇市場の中間にある世界では、流通チャネルがメーカーの支配を逃れ、消費者が破格の安値で商品を手にし、利幅は減少し、カスタマーサービスは被害を受け、そしてブランドが傷つけられている。この市場がIT業界に及ぼす被害の合計は、年間50億ドルという無視しがたい金額になっている。
「eBayでは、実に多くの商品が仕入れ価格で売られている」と語るのは、グレイマーケットでの製品流通と戦う企業を支援するNet Enforcers(本社:フロリダ州コーラルスプリングス)のセールス/マーケティング担当バイスプレジデント、Joseph Loomis。「インターネットの登場で小売価格と卸売価格の差がなくなった。これが、店舗を構える小売企業やメーカーにとって大きな問題となっている。小売店は仕入れ価格で販売する業者と競争しなければならず、またメーカーでも利幅が減っているからだ」(Loomis)
インターネットを使えば、ある商品を最安値で販売している業者を簡単に見つけだせる。そのため、バーゲンハンターはインターネットが大好きだ。しかし、国ごとに異なる価格で製品を販売している企業にとって、インターネットは大きな損害をもたらす原因になっている。
国ごとの価格差につけ込み、輸入業者が不正に利益を得ることは、複雑極まりない貿易ルールによって不可能なはずだった。しかし、この戦いのなかで、メーカー側はますます勢いを失っている。国境をまたいで売り手と買い手を結びつける各種の技術がさらに普及しており、こうした取引に対する監視もほとんど行われていないためだ。
メディア業界では、インターネットがもたらす破壊的な経済効果が、いっそうはっきりした形で現れている。この業界では、違法な流通チャネルを通じて製品がタダで出回っているため、利益が取れなくなっている。それと同じように、電子機器メーカー各社もこの問題と戦ってきており、独自の取り締まりを行ったり、訴訟を起こすなどの対策を講じている。
このままでは、違法な輸入品や他のグレイマーケット商品をめぐって、電子機器メーカーとオンライン小売企業とが衝突する可能性も考えられる。
eBayを例にとってみよう。同社では、自社の製品が違法に販売されてしまった企業に遡求権を与えている。またeBayのVeRO(Verified Rights Owner)プログラムでは、ロゴなどの知的財産を不正に利用した出品をメーカーが撤去できるようになっている。
またeBayは、同社ウェブサイトが、メーカーにとって再生品や過剰在庫を処分できる最高の場所だとしており、同社のオークションはメーカーの既存チャネルを補完するものであって、決して脅威を与えるものではないと主張している。
だがeBayは、インターネットの力によって外国市場向けの安価な製品が米国内で買えてしまうことを弁解する様子はない。
「それこそまさにeBayの目指すところだ。eBayはもともと市場の非効率性を取り除くために考えられた。そして、地理的な差異から非効率性が生じている。この問題をどうするかは、結局のところ消費者が決めることだ」と同社広報のHanni Durziは述べている。
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