情報源の身元を力ずくで明らかにしようとするApple Computerの試みは、ブロガーやネットで活動するジャーナリストなどはしょせん劣った人種であるとの偏見を明らかに示すものだ。
従来のメディアの記者と、Apple関連の3つのニュースサイト--Think Secret、Apple Insider、 PowerPageの運営者らとの間には、ニュース収集テクニックの点で大きな違いは存在しない。しかし、両者を隔てる法的な溝はとても深い。情報源の保護について定めたカリフォルニア州法は放送メディアや「定期刊行物」にしか適用されず、ウェブは対象に含まれていない。
Appleは、未発表の製品に関する詳細を公にした3つのウェブサイト運営者が「正当なマスコミのメンバーではない」と主張する。しかし、こうした行為は、まさに優れたジャーナリストがしていることだ。彼らは読者のために記事を書くのであって、一企業の偏狭な利害などは気にしない。
ウォーターゲート事件を追跡していたWashington Postの記者Bob WoodwardとCarl Bernsteinは情報源を保護できたからこそ、同紙にあの有名な記事を連載することができた。その記事が引き金となり、Richard Nixon大統領は失脚へと追い込まれた。当時、大統領再選をねらっていたNixon側は、WoodwardとBernsteinを相手に裁判を起こし、情報源を明らかにさせようとした。
それでも、情報源は明らかにならなかった。1973年3月に、連邦地裁判事のCharles Richeyは次のような判決文を著している。「当法廷は、これらの召喚状を発行することにより、メディアやひいては一般への情報の流れが『冷却効果』の影響を受ける可能性を黙認できない」
Apple Computerは、Richard Nixonでも勝てなかった議論に勝とうとしている。同社は米国時間4日にカリフォルニアの法廷で自説を展開し、3つのニュースサイトに対して情報源を明らかにすることを求めるよう判事を説得してしまったようだ。
この訴訟の結果によって、カリフォルニア州の憲法自体が問題となるかもしれない。この憲法には、現在もしくは過去に「新聞、雑誌、または他の定期刊行物もしくは通信社」に雇用されたことのあるすべての人間を保護の対象とする、と書かれている。この法律の盾によって、News.comやSalon.com、Slate.comなど、元新聞記者が働いていることの多いオンラインメディアは守られる。だが、おそらくブロガーやApple関連のニュースサイトにはこの条項は役に立たないだろう。
全米の30以上の州がこうした法律を設けている。しかし、具体的にオンラインメディアを保護するとしたものは1つもない。ニューヨークの州法は対象の範囲が最も広いが、しかしその法律でさえも「利益もしくは生活のために、このようなコミュニケーションメディアと職業上の関係を持つ者」という制限付きである。
ここでは一言一句が大きな違いを生む。昨年、連邦地裁判事のC. Lynwood Smithは、アラバマ州のメディア保護法では、Sports Illustratedは守られないとの判断を下した。同州の条文には、対象の範囲について新聞と放送としか書かれていないからだ。この対象のなかに雑誌を押し込もうとすれば、「これらの言葉について、広く理解されている意味合いがそこなわれることになる」とSmithは記している。
オフラインメディアへのえこひいきか
Vigdor Schreibmanは、公式に認知されたジャーナリストと、オンラインの「似非」ジャーナリストを隔てる法的な壁があることを、自分の体験から学んだ。
10年前、 Federal Information News Syndicateというオンラインメディアを発行していたSchreibmanは、議会の記者クラブに対して自分の会員証の更新を求めた。同氏は通常の更新手続きになると考えていたが、これといった理由も明かされないまま、結局1996年1月にこの申請は拒否されてしまった。
「Schreibmanは、記者のつくるカルテルを相手に苦闘していた。この連中は新しいテクニックを使うジャーナリストを受け入れたがらないという感じだった」とSchreibmanの弁護士を務めたMarc Rotenbergはいう。「これは従来のメディアがもっと寛容な精神を示す必要のある分野だ。伝統的なメディアは与えられた特権をあきらめ、ほかのみんなと同じ『言論の自由の保障』を求めているブロガーの支持にまわるべきだ」(Rotenberg)
Schreibmanは、記者クラブのこの決定を覆そうとした。記者クラブは既存のニュースメディア各社がつくる委員会が運営していた。彼はまず下院議長に訴えを起こし、後には憲法修正第一条をめぐる訴訟を起こした。結局、連邦最高裁までを巻き込んだ訴訟合戦の末に、同氏は敗訴した。
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