「2004年を音楽配信元年に」--交錯する音楽レーベルと配信事業者の思惑

永井美智子(CNET Japan編集部)2004年08月19日 17時00分

 米国におけるApple iTunes Music Store(iTMS)の成功を受け、日本でも音楽配信サービスをめぐる動きが活発になってきた。レーベル各社が出資するレーベルゲートが配信事業を強化したほか、エキサイトやNTTコミュニケーションズなどもサービスに乗り出した。ただし各社が提供するサービスの内容は、米国のものとはやや異なっている。この背景には日米の音楽市場の違いがあるようだ。2004年は日本市場にとって音楽配信元年となるのか、配信事業者と音楽レーベルの動向を探った。

相次ぐ新規参入

  まずは今年前半の配信事業者の動きを見てみよう。最初に動いたのは国内レーベルなど18社が共同出資するレーベルゲートだ。4月1日付けでサービス名をMora(モーラ)に変更し、東芝EMIとプラティア・エンタテインメントの楽曲を追加した。Moraとは、「すべての音楽を網羅する」という意味を込めた造語だという。参加レーベルはエイベックス、ソニー・ミュージックエンタテイメント(SMEJ)など29社。7月末時点で約6万曲がダウンロード可能で、2004年度末までに15万曲をそろえる予定だ。

  音声圧縮方式はソニーが推進するATRAC3を、著作権管理(DRM)技術はOpenMGを採用している。今後は他の配信技術にも対応していく方針で、音声圧縮方式にはAppleが採用するAAC(Advanced Audio Coding)やMicrosoftのWMA(Windows Media Audio)、DRM技術にはWMT(Windows Media Technologies)を導入する予定だ。ただし具体的な時期は未定。間口を広げることで、ユーザーの拡大を図ろうとしている。

  5月にはエキサイトとNTTコミュニケーションズが揃って音楽配信事業への参入を表明した。エキサイトは5月20日より、同社のポータルサイトにおいてExcite Music Storeというサービスを開始した。同社は以前より音楽コンテンツに力を入れており、Excite Musicでアーティストのインタビューやライブ映像の配信を行っている。Excite Musicの月間ユニークユーザー数は約30万人(2004年3月時)といい、音楽配信事業はこのサービスの延長線上にある。

  音声圧縮技術はWMAを採用した。クリエイティブメディアと提携し、簡単にポータブルプレイヤーに転送できる仕組みを作って利便性をアピールしている。楽曲コンテンツはNECのBIGLOBEや日本テレコムのODNなどに提供し、利用者の拡大を図る。 現在参加しているレーベルは東芝EMI、ワーナーミュージック・ジャパン、コロムビアミュージックエンタテインメントの3社。8月中旬時点で約1万5000曲がダウンロード可能で、9月末には7万曲となる見込みだ。「(サービス開始から)1年で月間30万ダウンロードを目指す」とエキサイト代表取締役社長の山村幸広氏は意気込む。

  NTTコミュニケーションズは6月7日より、OCNのOCN MUSIC STOREを開始した。現在はOCN会員しか利用することはできないが、今後はクレジットカード決済によって会員以外でも利用できるようにする方針だ。参加レーベルは日本クラウン、東芝EMI、ポニーキャニオンなど9社。配信楽曲数は現在約2万曲だが、2004年度内に30万曲を目指す。

  NTTコミュニケーションズはレーベル等のコンテンツホルダに対して、配信プラットフォーム「Arcstar MUSIC」を2000年から提供している。著作権保護や課金・決済機能、サーバ・ネットワークインフラ、カスタマーサポートなどを一括して提供するもので、ビクターエンタテインメントや徳間ジャパンコミュニケーションズ、コロムビアミュージックエンタテインメントなど20社以上の顧客を持つという。ここで蓄積したノウハウをOCN MUSIC STOREで生かす考えだ。また、楽曲の独占配信などで他社との差別化を図りたいとしている。

  6月にはリッスンジャパンが運営するListen Music Storeや、NTTデータ・コンテンツプランニングのLOVEMUSIC、8月には有線ブロードネットワークスのOngenといったサービスも始まった。今後は、米国ですでにサービスを行っているAppleのiTunes Music StoreやRoxioのNapsterなど、複数の企業が音楽配信市場に参入すると見られている。

表1.各社のサービス比較(配信楽曲数は2004年8月現在)

ファイル交換とAppleの成功が新規参入を後押し

  なぜ今年に入って各社が音楽配信に力を入れ始めたのか。背景には大きく2つの出来事が挙げられる。1つがファイル交換ソフトを使った楽曲ダウンロードの急増、もう1つが米国におけるAppleの成功だ。

  ファイル交換の被害はレーベル側にとって深刻な問題だ。コンピュータソフトウェア著作権協会の推計によれば、ファイル交換ソフトを利用してダウンロードされた楽曲総数は1億6124万件。このうち92%は著作権者の許諾なしにダウンロードされているという。この不法ファイルがもし1曲270円で販売されていたとしたら、400億5201万円の売上になった計算だ。

  このことは、音楽配信に大きなニーズがあるということを気付かせる結果になった。レーベルはオンライン上で合法的に音楽を買える機会をユーザーに提供し、ファイル交換に奪われた売上を回復しようとしている。

  さらに米国におけるAppleの成功が、これまで慎重だった各社の動きに火を付けた。Appleは2003年4月に米国でiTMSのサービスを開始し、2004年7月に累計1億ダウンロードを達成した。6月にサービスを開始した欧州市場でも、開始後1週間で80万ダウンロードがあるなど、順調に推移している。

  同社はiTMSの売上について公表していない。しかし、iTMSと連携して音楽を楽しめるHDDポータブルプレイヤーのiPodが業績向上に大きく貢献し、2004年第3四半期(4〜6月)の売上高は前年同期比約30%増の20億1400万ドル、純利益は同3倍の6100万ドルとなった。Apple CEOのSteve Jobs氏によると、「音楽ベースの売上は162%増で推移している」という。

  米JupiterResearchの予測によると、2004年の米デジタル音楽市場規模は2億7000万ドル、2009年には17億ドルに達する見込みだという。

なぜ米国では音楽配信がヒットしたのか

  なぜ日本でさほど広まっていない音楽配信サービスが、米国ではヒットしたのか。この裏には日米の音楽市場の違いと、その結果として生まれたサービスの違いが挙げられるだろう。

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