マイクロソフトに襲いかかる新たな課題

Mike Ricciuti(CNET News.com)2004年03月18日 10時00分

 マサチューセッツ州ケンブリッジ発---競争は激化し、IT予算は削られ、独禁法をめぐる訴訟は継続中。それでもMicrosoftがソフトウェア業界を支配していることには変わりがない。

 しかし、同社の会長兼チーフソフトウェアアーキテクトであるBill Gatesには、新しい問題の兆候が見えている。それは、コンピュータ科学を専攻する学生数の減少傾向だ。

 Gatesは2月下旬、求人ツアーを開始した。これはコンピュータの歴史に深い関わりを持つ5つの大学を訪問し、約1時間の講演をして回るもので、訪問先はイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校、カーネギーメロン大学、コーネル大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、そしてハーバード大学だ。Gatesの講演は、若すぎてコンピュータ業界のルーツを知らない学生のための歴史の授業でもあり、米国で最も優秀かつ有望な学生に対するIT業界への参加要請でもある。

 Gatesは今、重要な局面にある。Microsoftは年間68億ドル程度の研究開発予算を使っているが、加速するPCソフトウェア市場のコモディティ化に巻き込まれないために、ますますイノベーションに頼らざるを得ない状況にあるのだ。Gatesの講演には、コンピュータ科学プログラムへの興味を再燃させることでMicrosoftなどのテクノロジー大手に興味を持つ優秀な卒業生の数を増やそうという意図が込められている。

 Gatesは、MITのキャンパスでCNET News.comのインタビューに応じ、コンピュータ科学プログラムの人気が低下した理由、海外にアウトソーシングを進めるオフショア現象についてのMicrosoftの考え、そして優秀な人材を集めるためにMicrosoftや業界全体が取るべき方策について語った。

---今、この大学ツアーを行うのはなぜですか。何を急いでいるのですか。

 コンピュータ科学は、今まで以上に経済に貢献できる段階に来ています。ビジネスを進める上でも、長年議論されてきた大きな問題の解決にも貢献できます。大きな問題というのは、音声認識のほか、セキュリティや信頼性に関する非常に困難な問題のことです。セキュリティと信頼性は、今までの成果から最大限の可能性を引き出すために重要です。

 こういった課題はもうすぐ解決されます。ですから、とにかく多くの優秀な人材が必要なのです。昔に比べて人々の評判や期待は低くなっています。世間は、そんなに難しい問題は存在しない、さまざまな問題は一晩で解決されると考えています。業界で1990年代末に起きたすべての事柄が、次の段階に移行する必要性を示していると言っても良いでしょう。

 ですから、私はコンピュータ科学専攻の学生に話をする中で、私自身が興奮を覚えるものや、私自身の楽観論を示しながら、この仕事が天文学や生物学などの分野の発展にどれほど重要かを説明しています。同時に、これから起こることを企業が理解して、準備や決断を行う過程で、コンピュータ科学が果たす役割についても話しています。また、人々が誰かと連絡を取り合うときや創造的でいるために、コンピュータ科学がいかに役立つかを話しています。

 Microsoft Researchの中で上がっている成果は、ご存知の通り、これらの実例のようなものと言えるでしょう。Microsoft Researchにいる人材の忍耐力と質の高さが、他社との大きな違いを生みだしています。私が将来のブレイクスルーについて非常に楽観的なのは、最高の大学と共同研究を行っているからです。

---コンピュータ科学の授業や教育課程を選択する学生が減っているのはなぜでしょうか。

 複数の理由が絡み合っていると思います。コンピュータ関連の仕事が社会的なものだということを、我々はあまりうまく説明できていません。たくさんの人と関わりながら働くこと、そして協調的スキルが非常に重要であることです。プログラム管理など、コンピュータ関連の仕事の多くは必ずしも席に座って中核的なコードに取り組むだけではありません。もちろん、そういう性格の仕事もたくさんありますが。

 学生は世の中に影響を与える仕事を望んでいると思います。そこで我々が明確に示さねばならないのは、コンピュータ科学が、生物学以外では世界で最も大きな影響と変化が起こる分野だということです。世の中の変化のうち、約90%はコンピュータ科学か生物学の分野で起こっています。

 我々にはヒーローが必要です。障害者が利用できるコンピュータを作る人物や、セキュリティを進化させる人物が必要なのです。大学の教授陣と話をする際には、彼らがチューリング賞(コンピュータ科学分野で優れた功績を残した人に贈られる賞)の受賞者を知っているか、そして、目に見えた進歩が現在起こっていると思うかどうかを尋ねます。

 学内やMicrosoft Research内にいる優秀な人材を、模範とする試みもしています。確かにコンピュータ科学の人気低迷の裏には、ドットコムブーム時代にあった自由な資金が手に入るという考えが終わったことが挙げられます。しかし、中国やインドはまだ成長段階にあります。

 依然として、最も優秀な労働力と重要な研究は米国にあります。しかし20年後には、この点も多少怪しくなってくるでしょう。それでもMicrosoftは開発業務の中で最も大事な部分を米国で行っていきます。なぜならここに最も優秀な労働力がいるからです。そして、コンピュータ科学が提供する人材の雇用の機会は、今後も膨大な量となるでしょう。

 ご承知の通り、優秀なコンピュータ科学者は世界的に不足しています。彼らのスキルは非常に多くの活動や科学の分野をまたいで、創造的な役割を果たすからです。米国が「他国より先行し続け、米国の優秀な大学と、長期的研究に投資する数少ない企業を確実に取り込むためにはどうしたらいいのだろう。それをさらにうまくやるにはどうするのか」と自問した際には、その疑問が未来に進む鍵となることを理解すべきです。その鍵とは、独自性を再び重視するということです。

---Intelの最高経営責任者(CEO)であるCraig Barrettは、米国の教育制度では学生が科学や数学を十分に学べないと言っています。弁護士やコンサルタントの養成に偏っていると。この意見をどう思いますか。

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