「日本の競争力は、バブル期に世界ランキングで5年連続1位となって以来徐々に順位を落とし、2002年には30位まで下落した。それは投資効果の出ていない情報投資を行い続けた結果だ」。こう述べるのは、ワークスアプリケーションズ代表取締役最高経営責任者の牧野正幸氏。牧野氏は、同社主催のCOMPANY Forum 2004にて講演を行い、競争優位性を獲得するための情報投資について語った。
牧野氏が言うには、競争力が下降傾向にあるにもかかわらず、日本の情報投資額は増え続けており、その金額は現在アメリカに次いで世界第2位、バブル期の1.5倍にものぼるという。しかしその投資でROI(投資対効果)の出ているケースはほんの1割程度であることを同氏は指摘、「投資効果の出ていない情報投資の総額が7兆5000億円にのぼるとの試算もある」とした。その原因として牧野氏は、「欧米では一定の基準値でROIを試算したうえで投資を行うが、日本ではそのような投資が行われていない。また、欧米では主に競争力につながる投資を行うが、日本では主にバックオフィスへの投資を行い、しかもそれがコスト削減につながっていないケースが多いからだ」と語る。
情報投資には、バックオフィスのコスト削減と競争力向上という2つの目的があることはこれまでにも多く語られてきたが、どちらにおいても重要なのは「投資に対するリターンが明確であることだ」と牧野氏は言う。特に、「バックオフィスのコスト削減を目的とした投資は、どれだけのコストが実際に削減できるのかわからなければ意味がない」と同氏は言い切る。
ワークスアプリケーションズ代表取締役最高経営責任者、牧野正幸氏
この分野への投資は、海外ではパッケージ商品の導入が進んでいるという。他社と差別化して競争力をつける部分ではなく、コスト削減がメインだからだ。欧米では人事会計分野においてほぼ100%パッケージソフトの導入が完了したとの声もあるが、牧野氏は「日本でパッケージソフトを導入するケースはまだ2割程度。海外ではほとんどカスタマイズなしに導入している部分の多くを、日本ではSIerなどに依頼している」と指摘する。
競争力向上のための投資は必須
いっぽう、競争力向上のための戦略的な投資の最終目的はシェア拡大や収益向上だ。これは「日本ではあまり行われていない投資だが、研究投資やマーケティングコストと同様、企業体力の範囲内で必ずチャレンジすべき投資領域である」と牧野氏。ここは差別化がすべてとなるため、パッケージ導入は通常行われない。
この分野の投資で重要なこととして、牧野氏は「どこに的を絞るかがポイントだ」という。自社のコアコンピタンスが製品力であれば研究開発につながる仕組みを導入し、品質がすべてというのであればクオリティコントロールのためのシステム導入を行うなど、「どの部分をコアコンピタンスとするのか、経営者が判断し、それに直結した差別化のための投資を行うべき」と牧野氏は語る。
同氏は、過去に海外の先進的企業の視察ツアーに参加した際、十数年前の米国で数百億円はかかりそうなシステムに戦略的投資を行っていた企業の例を挙げる。それほどの金額を投資できたのは、「その企業が大企業だったということもあるが、そこでは情報投資の8割をそのシステムに費やしていたからできたことだ。日本ではバックオフィス系のシステムに8割を投資しているため、戦略的投資ができていない。それが競争力低下にも表れている」と牧野氏は言う。
「米国における情報システム部門は、経営に直結していることが多く、情報投資の意志決定を行っている。人件費やコスト削減、売上アップが目に見えることを前提に投資を行っているのだ。しかし日本での情報投資はあいまいで、情報システム部門の役割も、ユーザーの利便性に合うものが作れるかどうかのみに注力しがち。リターンを明確にするはずの部署が、単にシステムを作るだけの部署と化し、利便性重視のシステム構築という消極的な開発ばかり行っている。利便性だけを考えていても、リターンの出ないシステムとなるだけだ」(牧野氏)
牧野氏は、「これからの情報投資は、数字で表すことのできる目標を定め、ROIを明確にすべき」と語る。また、「会計や人事システムなどは、パッケージを導入することで投資コストを5分の1程度に下げることができる。そこで浮いた金額をコアコンピタンスへの投資へと回せばよい」という。「すでに多額の投資を行っている日本企業に対し、これ以上投資を増やせとは言わない。バックオフィスへの投資をいかに削減してコアコンピタンスに回すかが重要。これをうまく改善すれば、日本の潜在的な競争力が衰えていないことを証明できるはずだ」(牧野氏)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」