NRI、日米ITアウトソーシング事情を解説

藤本京子(CNET Japan編集部)2003年12月24日 17時07分

 10年以上前、米Kodakが自社のIT部門をIBMに売却した。システム部門が丸ごと売却されるなど日本では考えられなかった時代だ。これがアウトソーシングブームの走りとなり、その後IT関連事業を外部の企業に任せることがさかんに行われるようになる。この波は日本にも押し寄せ、大和銀行、日産自動車、神戸製鋼などもIT部門をIBMに売却している。野村総合研究所(NRI)は24日、日米のアウトソーシング事情についてのセミナーを開催し、両国における現状を説明した。

 説明にあたったNRI営業開発部上席コンサルタントの袖山欣大氏はまず、アウトソーシングの種類について解説した。その種類とは、運用のみをアウトソースするハウジング・ホスティングサービスや、保守部分も含めた運用全般をアウトソーシングするケース、そしてKodakとIBMのケースに見られるように、新規開発までを請け負うフルアウトソーシングだ。さらに最近の動向として袖山氏は、CRMや物流、人事、会計部分まで業務全般をアウトソースするBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)、また新規ビジネス提案や事業戦略部分までアウトソースするBTO(ビジネス・トランスフォメーション・アウトソーシング)なども登場していると説明した。

NRI営業開発部上席コンサルタント、袖山欣大氏

 「米国ではすでにアウトソーシングを利用するか否かを問う段階から、アウトソーシングを適切に導入するためのノウハウを習得する段階に移りつつある。アウトソーシングを提供する側も、単純なアウトソーシングから、より戦略的で付加価値の高いBPO、BTOへとシフトしてきている」と袖山氏。IBMがコンサルティング会社のPricewaterhouseCoopersを買収したのも、この流れに沿った動きだといえる。また同氏は、アウトソーシングベンダーが技術や価格で差をつけることが困難となりつつあり、料金モデルで差をつけようとしている点も指摘する。現状での主な料金モデルは、固定料金制、従量課金制、および固定料金と従量課金を組み合わせたタイプの3つが主流となっているが、今後はパフォーマンスベースで、業績に見合った料金体系が取り入れられるケースが中心となるだろうと袖山氏は指摘する。

 袖山氏は、これまでと違った新たなアウトソーシングの例として、Merrill Lynchが富裕層向け財産管理プラットフォームの新構築を、Thompson Financialと契約したケースをあげた。Thompson Financialは市場情報を提供する企業であり、IBMのようなシステム構築を専門とする企業ではない。サブコントラクターとしてMerrill Lynchでは、IBMやDell、Microsoftなどとも契約を結んでいるが、あくまでもこのプロジェクトの中心となるのはThompson Financialである。契約期間5年間で約10億ドルものコストが見込まれている非常に大規模な契約をThompson Financialと結んだことで浮き彫りになるMerrill Lynchの戦略は、ファイナンシャルアドバイザーの生産性とサービスの向上を図るにあたって重要となるのは、システムそのものではなく市場ナレッジの部分だと考えたことである。このように、「顧客がアウトソーシングベンダーに求めているものが変化しつつあり、SI主導の時代から業界スペシャリストの時代へと移ってきている」と袖山氏はいう。

 いっぽうの日本では、IBMが多くの企業のIT部門のフルアウトソースを請け負うケースが目立っていた。このIBMに加え、2002年からはNTTデータも目立つ存在となっていると袖山氏は指摘する。各企業の戦略を同氏は「IBMは、顧客を囲い込む方法としてIT部署を人材ごと買い取っている。1999〜2000年頃は金融、鉄鋼、自動車といった業種を中心に、2002年は製造業、地銀、流通業などターゲットをシフトさせてアウトソーシング事業を行っている。NTTデータは、同社があまり強いとはいえなかった民間SI事業の強化を図るため、民間企業の技術力を買収し、NTTの営業力を付加して外販を増加させている」と分析している。いっぽうNECや富士通といった他の競合企業については、「はっきりした戦略があまり見えない。これまでの顧客から案件が入り、それをそのままやっているというイメージがある」と述べている。

 アウトソーシングといえばNRIも手がけている分野だが、同社の戦略について袖山氏は、「証券、金融、流通など業界特化型のパッケージを提供している。これらパッケージで実現できる業務の見直しを、コンサルティングとシステムの両面からサポートしており、顧客のシステム部門が戦略的業務に特化できるようにしている」と述べている。またNRIでは、今年3月よりシステムソリューション事業における提携契約である「eパートナー契約」を取り交わしているが、24日には中国のシステム開発企業上海中和軟件有限公司およびSinoCom Software Groupとの契約を締結したと発表している。NRIとeパートナー各社はプロジェクト運営面で協調しつつ、システムソリューション事業にとって重要な人材、品質、情報セキュリティの3分野について計画的に強化し、共存共栄が実感できるビジネスモデルの構築を図るとしている。

 ITアウトソーシング市場全体を金額で見た場合、2002年の世界市場規模は685億ドル。シェアはIBM(売上高153億ドル)が22%でトップとなっており、次いでEDS(111億ドル)、Computer Sciences(38億ドル)、富士通(33億ドル)となっている。世界のITアウトソーシングサービス市場は今後5年で7.7%の成長が見込めるとのことだ。日本における市場規模は2003年で2兆8489億円。成長率は2002年が前年比3.9%であるのに対し2003年では2.1%と低下しているものの、「ITサービス市場全体が0.1%の成長であることを考えると、確実に伸びているといえる」(袖山氏)としている。

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