米SCO Group幹部は8月中旬に開催されたSCOフォーラムにおいて、プレゼンテーション時間の大半を新商品説明ではなく対Linux論争の話に費やした。
それには十分な理由がある。同社は今年3月に米IBMを提訴し、SCOがライセンスを持つUnixコードの一部をIBMが違法にLinuxに移植したと主張した。それ以降、SCOは知的財産権を行使することで収益の大半を得るようになり、知的財産は特に急成長中の収入源となっている。
SCOの訴訟は大きな論争の種となった。SCOの目的はLinuxユーザーに揺さぶりをかけることで、同社の要求に法的論拠は全くないと批判するものもいる。そこで、顧客と批評家の両方に自社の言い分を示すため、SCOは先週ラスベガスで開催された年次ユーザー向けのカンファレンス、SCOフォーラムで、論争の的であるコードを一部の参加者に開示した。
それでも、これは単に人々を興ざめさせただけだった。外部者にもコードの分析ができるように開示を行った途端、Linux界の面々はSCOを激しく攻撃し、開示されたコードはそもそも一般に公開されていたもので、共有化を許可されたものだと主張した。
CNET News.comはSCOフォーラムにて、Boies Schiller & FlexnerのパートナーでSCOの代理人を務めるMark Heiseにインタビューを行い、今回の訴訟がSCOやオープンソース界、そしてGPL(一般公有使用許諾)などのパブリックライセンスに与える影響について聞いた。
---今回の訴訟が重要である理由は何でしょう。
この訴訟は、ソフトウェア業界の今後の方向性を決める可能性を秘めています。誰でも自由に利用できるオープンソースを推し進めるのか。プロプライエタリなものだけでいくのか。それとも、両方の組み合わせでいくのか、ということです。
---この訴訟はGPLに対する攻撃と見られています。
我々は、今回の訴訟にGPLの話を持ち出してはいません。著作権と特許権から膨大な利益を上げているIBMがGPLの擁護に回ったことに多少驚いています。GPLはIBMにも影響を与える可能性がありますから。例えば、IBMの著作物がGPLで公開されたら、IBMの権利は突然失われるのでしょうか。我々は、この場合GPLは適用されないと考えます。米著作権法が優先しますので。
Free Software Foundationも明らかに反対しています。GPLと著作権法の内容を検証すると、著作権法のほうが適用されます。著作権法は著作物の使用、配布などに関する唯一の権威です。GPLには、GPLが利用時と配布時のみ適用される、と特に記載されている条項があります。言いかえれば、著作権法が独占的にカバーしているのと全く同じ内容がGPLでもカバーされているのです。しかし著作権法の301条は、著作権法は著作物の利用、配布、そして複写に関して適用される権利の全てに優先すると言っています。今回の論争にGPLが持ち出されたとしても、連邦政府による著作権法が優先すると考えています。
---SCOが勝利した場合、GPLに穴があくことになると思いますか。
著作物をGPLで公開している企業とSCOの違い、それは、SCOが著作物をGPLで公開してはいないという点にあります。SCOは派生物もGPLで公開していません。そしてその派生物とはSCOの管理下にあり、ほかの企業にはライセンスを主張する権利がないものです。SCOは、SCOの著作物であるSystem 5のコードをGPLで公開してはいません。ほかのUnixライセンス受諾者がライセンス合意に違反して公開を行ったのです。つまり相違点は、SCOは「ここにある我々の著作物を、承諾の上で、自発的にGPLとして差し上げます、さあどうぞ」とは言っていないことにあります。
LinuxにもSCOが了承の上で自発的に著作物を提供した跡は見られません。そこには「著作権:SCO Group」の文字はありません。そこにはIBMやほかのUNIXライセンス受諾者の著作権が見られるだけです。ほかの企業は自社の著作物を承諾の上で提供していますが、それは各社の自由です。しかし、他社の著作権物を勝手にGPLで公開し、突如として皆のものにしてよいわけではありません。
---もし、調査の過程などで、これらのコードはもともとGPLで公開済みだったということが分かったらどうしますか。
その仮説に基づいて、Caldera (International)がその著作権の帰属とともに何かをGPLで公開したとします。全てを公開した場合、Calderaは一度公開したものについて、それは自分が公開したものだと権利を主張することはできません。しかし、今回は状況が違います。つまり、例えば、100個のファイルがあって、その中の1個をGPLで公開したとしても、残った99個のファイルに対する権利を放棄したことにはならないのです。ですから、それが裁判に影響するとは思えません。
---公開されたコードをどのように収拾するのかという疑問を多くの人が抱いています。
SCOは、慎重な検討を重ね、ビジネス上の解決策はライセンス合意にあるという結論に達しました。SCOも米国のほかの全ての企業と同じで、常に、ビジネスによる解決のほうが法による解決よりも好ましいと考えています。SCOは、SCOにとっても、業界一般にとっても、公正な条件で問題を解決したいと考えています。それが叶わない場合、法廷に赴き、Linuxの2.4版カーネルに不法に使用されたコードに対する損害賠償を受けとる権利があります。賠償を負うのがIBMであろうと、ほかの数百人の顧客であろうと、SCOは大切な知識と著作権の代償を確実に手にしなければなりません。
---なぜ、コードを公開したのですか。
なぜコードを公開したか。なぜ契約内容を公開したのか。それは、SCOに所有権があることを一般の人々に教え、また自らの目でコピーされたコードを見てもらう必要があるからです。「この訴訟には意味がない、コピーされたコードは全くない、SCOはあると言っているが、信じない」といった内容の出版物がオープンソース界から数多く出回っていることに応えたのです。我々は世間一般に対し、実際に権利を侵害しているコードがあること、それはそっくりそのままコピーされたものや、分かりにくい形でコピーされたもの、派生物の形などで存在すると伝えています。オープンソース界以外の人々に、コピーされたコードなどない、これは作り話だとは思われたくないのです。事実はそうではないからです。
---コード公開の決断に至った経緯は何ですか。当初、SCOは多くを公開する計画ではなかったように見うけます。訴訟の手の内を明かすことや、公開したコードを批判する人が現れることを恐れなかったのでしょうか。
私は弁護士ですから、何かを見せることについてはいつも消極的です。ですから、私に質問するべきではないかもしれません。SCOは世界に事実を知らせる必要を感じていたのだと思います。「何の根拠もない、ばかげた話だ」という言葉を何度も聞いていますから。
今、「問題のコードを見せてくれれば、それを修復する」と言う人々がいます。しかし、もう遅すぎます。コード80行分だけの問題であれば、そもそも訴訟にはならなかったでしょう。それなら単に話し合いを行って修復することができます。今回の件は違います。ありとあらゆるものが移植されています。
---SCOのCEOであるDarl McBrideが言及した「静かな多くの支持者たち」というのは誰のことですか。その支持者たちが立ち上がり、声明や訴状でSCOを支持するのでしょうか。
様子を見る必要があります。訴訟は始まったばかりで、まだ控訴趣意書はありません。しかし、それは全く意外ではありません。今回の事件の様々な問題は、この狭い世界だけでなく様々なところにも適用されるからです。
---それはどういうことですか。
我々は、著作権と、このインターネット時代に人々が著作権物を入手したり自由にアクセスできるようにする方法、そして、ポタンひとつで数百万の人々がアクセスできるようにする方法について話をしています。それは、今まで耳にしたことのない話です。レコード業界はNapsterとの戦いを経験しました。Napsterなどが無料のファイル交換という方法を編み出したことには驚きました。そんな方法をどうやって思いつくことができたのか、私には決してわからないでしょう。昔はそんなことは明らかに無理でした。David BoiesがNapsterの代理人となって訴訟になりましたが、レコード業界が勝利しました。
(SCOの訴訟は、)インターネット時代における著作権の意味を問うもので、それは1つの側面です。しかし別の側面では、類似した多くの問題が20世紀中にも問題となりました。例えば、映画にまつわる著作権問題です。ある演劇公演のライセンスが与えられたとします。ところがその後に誰かが映画を発明したことに気付き、演劇の代わりに映画を製作したら、もっと儲かると考えたとします。
しかし、法廷では演劇公演の権利はあるが、映画化の権利はないという判決を受けます。同じことが今起きています。各社には、独自のUnixを開発する権利があり、しばらくはその開発を進めてきました。その後、新しいもの、つまりオープンソースが生まれました。そこで各社は、オープンソース化を進めました。しかし、これらの企業にオープンソース化の権利はないのです。今回の件にはインターネットという新しい視点が入り込んではいますが、20世紀の著作権侵害問題とよく似ています。
---音楽業界や映画業界を震撼させたラジオやビデオについてはどう思いますか。音楽業界や映画業界はラジオやビデオが彼らのビジネスを破壊し、作品を盗んだと非難しましたが、誰にとっても都合の良い新しいビジネスモデルの構築を徐々に進め、顧客を提訴する必要はなくなりました。
SCOは全ての顧客を訴えたがっているわけではないと思います。レコード業界も全ての顧客を訴えたがっていたのではありません。そして(AppleのiTune Music Storeなどの)ほかの手段を用いた音楽のダウンロードが可能になってきています。無料ではないかもしれませんが。いまレコード業界は、無料の音楽を求める人だけでなく、全ての人のために機能するビジネスモデルを見出そうとしています。新しいビジネスモデルが生まれ、それが、知的所有権の保有者とそのソフトウェアを入手したいと思っている人々の双方にとって公正なものであれば、それは素晴らしいことです。しかし、公正さに欠ける場合、SCOは公正さを求め、知的所有権を確実に保護できるような選択をせざるを得ません。
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