SCOがIBM提訴を決めた本当の理由

 数年前のClaldera Systemsは、Linux界での成功を収めようとしのぎを削るソフトウェアメーカーのひとつで、IPOにより7000万ドルという資金を調達するのに成功した。

 その後Linux業界は度重なる整理統合の波に襲われ、SCO Groupと名前を変えたCalderaは今、Linuxとの絶縁を誓った。そして自らがその成長に一役買ってきたはずのLinux界から爪弾きにされている。

 SCOが嫌われた理由、それは同社がコンピュータ界の巨人IBMを相手に起こした訴訟にある。今年初め、同社はIBMが配布しているLinux系ソフトウェアの主要部分がSCO管理下にあるUnixのソースコードに基づいていると主張したのだ。

 この争いは、Linuxの法人利用を推進しようとする勢力に動揺を与えている。これを発端に、SCOと元ビジネスパートナーのNovellとの間には対立が生まれ、MicrosoftとLinuxの戦いは新しい局面を迎えた。

 しかし、SCO Groupの最高経営責任者(CEO)であるDarl McBrideはオープンソースという手法の持つ大きな価値を今でも認めているという。

 「オープンソースのすごいところは、世界中の数千の目が同じ問題に注がれているという概念にある。注目している人が多ければ多いほど、当然よりよい解決法を見つけられる。このモデルを用いて問題をうまく解決し、多くのアプリケーションが抱える問題を解消して全ての人の生活をよりよくするような究極のコンピュータ環境を創る。それがオープンソースの本当にすごいところだ」(McBride)

 「Linuxのビジネスでは知的財産が保護されていない。それどころか知的財産が不法にLinuxに織り込まれることを監督できるシステムがない。今審議されようとしているのは、まさにその部分だ。私たちがこの問題を解決しなければ、オープンソースの良いところも失われてしまう」(McBride)

 McBrideはCNET.News.comのインタビューに応じ、IBMとの論争の発端、その影響、そして今後の展開について語った。

---Linux訴訟はどのようにして始まったのですか。問題を発見したきっかけとその時期は。

 話は昨年秋までさかのぼります。私は昨年夏にSCOに来ました。最初の3カ月から6カ月間は当社の資産であるUnixのOSに関する調査に費やしました。

 その時SCOがUnix OSの知的財産権を取得していることがわかったのです。これはとても価値のある資産です。そこで、UnixとLinuxの関連について詳細な調査を始めました。Linuxの利用が勢いよく拡大していたので、気になったのです。

 昨年秋にはいくつかの問題点を発見し、12月頃にベンダーと話し合いを持とうとしました。しかし単なる友好的な話し合いでは大きな進展は見られません。そこで今年に入って、当社は知的財産権を行使するつもりだ、と伝えました。IBMを槍玉にあげるつもりはなかったのですが、IBM側が激しく反発してきたのです。

 その時点では、IBMと共に問題を解決しようと努力しました。しかし話し合いは暗礁に乗り上げ、3月7日のIBM提訴に至りました。同時に、IBMのUnix系OSであるAIXのライセンスを無効にすると通告しました。契約上100日前の通知が義務付けられているため、6月13日の金曜日にこの通告の効力が発生します。この時点で問題が解決されていなければIBMのAIXのライセンスは取り消されます。

 IBM問題に取り組むうちに、当社のUnix System 5のコードがそのままLinuxの中に組み込まれていることに気付きました。そこで今度は世界中の大企業1500社に対して、当社が重要な知的財産権の侵害を受けており、これを問題視していると伝える書簡を送りました。この1500社が問題の発生に関与したわけではありませんが、この火種を他から与えられてしまったのです。

---それはSCOの従業員がLinuxのソースコードを見ていて「おい、見慣れたコードが入っているぞ」と偶然に見つけたのですか。

 IBMは起訴から30日以内に回答をするはずでしたが、回答期限の60日間延長を申請しました。IBMの回答を得るまでさらに約60日間待つことになったので、開発者のグループに調査をさせたのです。System 5/AIX/Linuxの3分野にわかれてコードの分析を行い、深く踏み込んで調べているうちに、いくつかの深刻な問題を見出したのです。

---なぜ第一の矛先がIBMに向いたのですか。

 私たちがUnixに関する知的財産権を保護するという趣旨の話し合いを始めたところ、IBMは大きく動揺しました。Linuxに関連する知的財産権について話し合いを持つという方針さえ嫌がったのです。SCOがこの方針を撤回しない限りSCOとのビジネスは全て停止すると、実質的な脅しを掛けてきました。

 IBMは知的財産権をもとに年間15億ドルの収益を上げている会社です。そのIBMがこんな態度を取るとは意外でした。これを契機に、既に見つかっていた問題の裏を探り始めました。深く掘り下げれば掘り下げるほど、私たちからライセンスを取得しているIBMのLinux系OSは重要な財産権侵害を犯していることがわかってきました。

 今年に入り、IBMの幹部はある会合で「Unixの価値を打ち砕き、Linuxへ大きく移行する」と語りました。IBMはAIX、つまり当社がライセンスを持つUnix系OSの開発で長年培ってきたノウハウと人材と手法の全てを、一斉にLinuxへ移植しようというのです。この発言だけでも、当社に警戒心を抱かせました。そしてIBMのOSを詳しく調べたところ、実際にそれが行なわれており、今後も継続するつもりだということがわかったのです。

---提訴を避けるためにIBMは何をすればよかったのでしょうか。

 当社はもちろん問題解決を望んでいました。全面訴訟に持ち込まずに、問題を解決する方法はたくさんあると思います。プログラムのライセンス化や別の市場での提携など、協力してやれることはたくさんありました。

---コードの不法使用はどれくらいひどいものでしたか。

 現在のLinux内のコードで、当社が直接的な財産権を有するUnix System 5に関係するもの、または当社が派生的に権利を有する派生Unix製品に関係あるものが膨大にあります。派生製品の財産権は必ずしも当社にはありませんが、それをどのように配布するかを管理する権利はSCOに属しています。膨大なコードが不正使用されています。数行分の話ではなく、プログラム全体、つまり数百行から数千行に及びます。

 SCOのUnixはマクドナルドのレジに使われている程度だという誤解がありますが、当社のUnixはツリー状だと考えています。Unix System 5が中心を貫く木の幹です。つまり、SCOはUnixの中核となる財産権を有しているのです。

 幹の脇には、多くの枝があります。それは、Unixから派生した、HP-UXやIBMのAIX、SunのSolaris、そして富士通やNECのOSなどです。SCOが所有する派生OSも2つあります。OpenServerとUnixWareです。しかし枝と幹を混同しないでください。System 5のソースコードの権利を持つ当社には、幹から出た枝にあたる派生製品を管理する権利を含む大きな権利があります。

---特定の機能を記述するソースコードは一通りしかなく、UnixとLinuxのコードの一部が同じに見えるのは当然だと言うオープンソースの擁護者もいます。 SCOが見つけた類似点は、この域を超えるものですか。

 私たちが指摘しているのは、コード1行1行のコピーです。単に機能だけではなく、一言一句違わずコードが一致しているのです。開発者のコメントも完全に同じです。開発者のコメントはコードのDNAです。同じに見えるだけという見方もありますが、開発者のコメントが全く同じということが全てを語っています。つまり、これは実際に移植されたもので、UnixからLinuxにコピー&ペーストされたものです。

---1500社に手紙を送ったのはなぜですか。もっと非公式に知らせる方法もあったのでは。

 SCOがこの問題を発見したという事実を伝えるとともに、法的な必要条件を知らせるための手紙でした。私たちは当社が問題を発見したと世界に知らせるために一歩踏み出す必要があると感じたのです。

 IBMと膝を突き合わせ1日中話し合いをすることもできます。しかし、実際にユーザーが海賊版ソフトウェアを含むシステムを使用しているとすれば、彼らにも責任が生じます。ユーザーが責任を生んだというのではありません。責任の発生に関与した団体はたくさんいると考えています。しかし、私たちが知的財産権を求める過程で何が起きているかをユーザーに知らせる必要性があると感じているのです。

---この手紙は、実際には企業側にLinuxを使用しないよう威嚇する効果があったと多くの人が指摘しています。それは本当ですか。

 Linuxが法人向けOSへと成長したのはここ2年間のことです。その要因は数多くのベンダーがLinux開発に関与し貢献してきたことにあります。2000年より前のLinux、つまり2.2カーネルのLinuxには、2 wayまたは4 wayのシステム接続しかできませんでした。興味深い仕様ではありますが、これでは法人向けにはなりえなかった。ここ2年間で、ハイエンドの対称型マルチプロセシングに対応し、多数の32ビット/64ビットのIntelボックスをつないでスーパーコンピュータ並の能力を生み出すこともできるようになりました。

 また、2001年以降Linuxに組み込まれたベンダーのコード数は非常に多くなっています。つまり法人向けLinuxの成長は、主にベンダーの不正コードがLinuxに貢献したことで成り立っているのです。Linuxが法人向けレベルになるためには、知的財産権も尊重されなければなりませんし、当社の所有するコードがLinuxの強さを支える基礎とならないように注意する必要があります。

---企業の最高情報責任者(CIO)が現時点でLinuxの採用をどうするべきかと聞いてきたら、どう答えますか。

 私たちは2つのことを伝えています。まず、法律専門家の意見を聞くようにということです。当社は専門家の見解を得て、Linux関連商品の出荷を停止しました。この件が決着を見るまでは出荷はしません。

 数日中に、これまでの過程について公開する予定です。SCOの側に立ち、何が起きているのかを理解してほしいと考えています。7月には、今後の方向性についての公式見解を出す予定です。

 Linuxの妨害を狙っているのかと聞かれれば、それは当社の意図するところではありません。当社の知的財産権を主張し守ろうとしているのか、と言われればまさにその通りです。

---SCOはコアビジネスが成功していないから、手っ取り早く金を稼ごうとしているのではという見方が広がっています。

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