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オンラインミュージックが音楽業界に与える影響 - (page 2)

John Borland, Evan Hansen and Mike Yamamoto2003年06月16日 10時00分
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最先端メディアの再生

マイクロソフトはアップルの永遠の敵
水面下で成長するファイル交換サービス
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 David Goldbergは今月、バージニア出身の無名歌手Jason Mrazをスターにするという大胆な公約を掲げる雑誌広告を掲載した。

 しかし、Goldbergはレコード会社幹部でもハリウッドの音楽事務所の人物でもなく、Yahoo音楽部門のトップである。オンライン広告や限定版ライブビデオに加え、ウェブポータル上のラジオ局で繰り返し音楽を流す今回のYahooキャンペーンは、YahooがClear Channelのような大手ラジオ局に対抗するヒットメーカーになりかねないという警告を音楽業界に発している。

 「2年以内にClear Channelと拮抗するのは無理だが、5年以内なら努力次第でできるかもしれない。まあ、いずれにせよ対抗してみせる」とGoldberg。「今のペースで成長すれば、1年以内にほとんどのラジオ網を越えるようになるだろう」

 Yahooの自信は、長い間前進を阻まれてきたデジタル音楽が業界の中心へと成長し始めた前兆のひとつだ。長年の法廷論争に動きを封じられ、音楽業界の執拗な反対にあい、戦略的にも失敗してきたデジタル音楽が、とうとう大手レコード会社やアーティストの支持を得るようになってきたのだ。そして今最も注目されているのがApple Computerの新しいiTunes Music Storeである。

 ほかにも、静かに多くのユーザーを集めているデジタル音楽サービスがある。例えばAOLユーザーは1日に300万近くの音楽またはストリームビデオにアクセスし、数億にものぼるネットラジオ放送を聴いている。規模は小さいながらも成長中のデジタル音楽市場では、アーティストの個人サイトからBestBuy.comのような音楽販売サイトに至るまで、インターネット上の数百のサイトで音楽が配信されている。

 この流れが本物ならば、インターネットの将来を予測する人々が何年も前から言い続けていた通り、音楽を再定義するときが訪れるのもしれない。プラスチック製のアルバムが曲の評価を左右するようになり、ラジオがその場限りのヒット曲を生み出したように、デジタル配信も音楽の製作やパッケージ化の手法、また創作方法にまで革命をもたらすかもしれないのだ。

 ソフトウェアからエンターテインメントに至るまで幅広い主要産業がこのような変化の影響を受ける。Apple、Microsoft、YahooなどのIT企業が放送メディアやレコード会社に挑戦状をつきつけるようになると確信するものもいる。このような考えは音楽業界幹部に常につきまとっており、彼らがデジタル配信に早くから反対してきたのもそのせいである。

 「業界再編の中で、レコード会社を買収するようになるのはIT企業だろう」と音楽暗号化サービスLoudeyeのCEO、Jeff Cavinsは言う。「AOL Time Warnerの例もそうだし、Sonyも1987年にColumbiaを買収した。今回も同じようなことが起きるだろう」

 それが本当だとしても、音楽業界の中には、ダウンロードなどのデジタルサービスを利用すれば、最近のアルバム販売不調で急激に落ち込んだ収益を回復できると見込んでいる企業も多い。音楽業界は、大量の音楽がファイル交換サービスを通じてダウンロードされていることがアルバム販売不振の一因であると非難してきたが、企業幹部の多くはオンライン配信が利益を大きく取り戻すための鍵になると率直に語っている。

 あるレコード会社幹部は言う。「市場というものは、拡大する前には一度縮小するものだ。全体的な消費を大きく拡大して、それを取り返す方法を見つけられるかどうかで勝敗が決まる。音楽業界が新しい体系を模索している間、当面は市場が縮小するという前提でいくしかない。」

 ではどのくらい待てばいいのか、明確な答えは誰にもわからない。KazaaやMorpheusなどの無料ファイル交換サービスとの長く厳しい戦いの結果、特に若い世代はレコード会社に反発を感じるようになってしまった。そのため、レコード会社はその次の世代には、音楽に対価を払うという考えを取り戻させたいと考えている。

 「音楽は十代の若者の生活の中で最も大切なものだ」とBMG Entertainment の元CEO、Strauss Zelnickは言う。「音楽は社会がどうなるかを決める要因となるものだ」

Steve Jobsこそ両者を代表する存在

 レコード業界は、デジタル時代で足場を固めるにあたり、AppleのCEOであるSteve Jobsが大変役に立つ人物であると気付いた。Jobsは長年、理由の有無に関わらず、偶像破壊主義的な若者や反抗的な者たちのヒーローだった。また、エンターテインメント業界とIT業界をまたにかけて活躍できる人物はJobsのほかにはいないと、歴史的に正反対の立場にあった2つの世界が彼を認めている。

 しかしJobsは単なるカリスマ的存在ではない。同氏にはトレンドを読み取り、消費者の日々のニーズを理解する独自の能力があり、鮮やかなオレンジ色のiMacや、自ら創設したデジタル映画制作会社Pixar Animationから最新ヒット作などを生み出している。

 「Appleが最初にしたことは、消費者のニーズを知り、それを消費者に提供することだった。オンライン上での音楽購入パターンからJobsが見出したのは、人々は何かを借りるのではなく所有したがっているということだ」とWarner MusicエグゼクティブバイスプレジデントのPaul Vidichは語る。「しかも消費者が望むのは極めて簡単な方法、つまりプラグ&プレイだ」

  Vidichは、JobsがiTunes Music Storeの概念を育て始めたころからの様子を知る人物だ。2002年3月、初期段階の会議の後で、VidichとWarner Musicの CEO であるRoger Amesは、新しい音楽ダウンロードサービスをバックアップするための条件をJobsに説明するため、マンハッタンのロックフェラープラザの事務所からカリフォルニア州クパチーノのApple本社へと飛んだ。

 それから3〜4カ月の間、Warner とAppleの幹部及び技術者は、暗号化システムや使用ルールなど、それまで音楽業界を悩ませてきた数々の問題に取り組んだが、両社の観点は異なっていた。

 当初Jobsは、標準的なMP3方式を採用しているKazaaからダウンロードした無料ファイルのように簡単に再生できる音楽を、全く制限をつけずに販売したいと考えていた。Warnerの幹部はこれを認めなかったが、かつてWarnerが圧力をかけていた他のオンラインストアには認めたことのないような、制限の少ない方式へと次第に歩み寄った。

 詳細が決まると、Jobsは最も得意な仕事、つまり企業訪問を始めた。

 「Jobsのやり方は個人的で賢明だった。彼は早い段階から多くの人にプロトタイプを個人的に見せていた」とAppleの戦略に詳しいある音楽会社の幹部は言う。「Jobsはアメリカ中を飛び回り、企業の代表を訪ね、音楽をいかに愛しているかを2時間語り続ける。それで信頼を勝ち取ったのだ」

 レコード会社の幹部らが言うには、「多分最も効果的だったのはJobsがiTunes Music StoreにAppleのマーケティング力と彼の個人的威信の全てをかけると約束したこと」だという。IT業界には、彼ほどの才能を持ちながらそんな誓いをたてる人物は今まではいなかった。そのため、彼の言葉に皆が驚かされたのである。

 iTuneサービスの発表会の席で、JobsはU2のBonoやSheryl Crowといった著名なアーティストからのビデオメッセージを放映し、iTunes Music Storeをまさに新しい形の音楽ビジネスとして説明しながら、コンピュータハードウェアやジュークボックスソフトウェア、そしてiPodという再生機を持つAppleの優位性を強調した。

 Jobsは言った。「こういった資産を持つ会社は他にはない。これはAppleにしかできないことだ」

 しかしAppleも成功を独り占めできるわけではなさそうだ。レコード業界では、Tower Recordsなどの音楽販売業者やMusicMatchなどの既存サービス業者など、数多くの企業がAppleの後に続くと予想されている。

 「ペンギンのようだ。最初の一羽が水に飛び込むのを皆が待ち、その一羽が無事に水面に上がってきたら周りに鮫がいないということで、他のペンギンも飛び込む」と言うのは、安全なダウンロード技術を提供するEcastのCEOであるRobbie Vann-Adibeだ。「この市場を最初に動かすのは誰か、様子を見ている会社がたくさんいる」

 もちろん、みなJobsの言うこと全てに賛成しているわけではない。例えば、Jobsは月額料金制のサービスは機能しないと考えているが、個別課金制にして1曲99セントとした場合、容量が30ギガバイトのiPodをいっぱいにするには7500ドルかかるという指摘もある。月額料金制ならば視聴者は月額10ドルで、毎月違う曲でiPodをいっぱいにすることができる。

 レコード店で音楽を購入していた時代に育った人なら、オンラインでもシングル曲を購入することに慣れているが、古い世代の購買習慣に縛られない若者にとって、デジタルネットワークは多様な選択肢を与えている。それは映画などほかのエンターテインメントと同じように、様々な種類の視聴者が様々な方法で音楽を購入することを意味する。

導入初期には教育期間が必要

 Tower Records、Best Buy、Virgin Entertainmentなどの小売業者が集まって設立したデジタル音楽テクノロジーのベンチャー、EchoのCEOであるDan Hartは次のように語る。「映画を見る選択群には、ケーブルテレビの映画専門チャンネル、レンタルビデオ、そして映画館がある。どれも技術革新によって実現したものばかりだが、導入初期には教育期間があった。音楽は買って所有するものだと人は言うけれど、人間は頭がいいからね。時を経て映画専門チャンネルで映画を見ることの良さがわかってきたのと同じじゃないかな」

 消費者が個別に音楽を買ったり、会員にさえなれば好きなときに数百万もの曲を聴いたりできる世界では、音楽を聴くということ自体が別のものとなりかねない。携帯用プレイヤーやCD-R/CD-RW、家庭内ネットワークなどは、既に音楽の購買性向を大きく変え始めている。

 「これはすばらしいサービスだ。簡単に音楽を買おうという気にさせてくれるよ」。最近Appleのサービスを試したサンフランシスコ在住の弁護士でアマチュアミュージシャンのBart Wiseは言う。「20ドル払って好きな曲を20曲手に入れた。アルバムで買っていたら200ドル払うところだった」

 数千万の人々が聞いているインターネットラジオのストリーミング放送からヒット曲が生まれるようになれば、Clear Channelなどのラジオ網の影響力も薄れてしまう可能性がある。YahooがJason Mrazを売り出すことに決めたのも、インターネットラジオの視聴者が、どちらかといえば無名のこのアーティストに高い点数をつけたからだ。

 レコード会社がマーケティングの巨人としての役割を果たす状況は続きそうだが、無限のタイトルを並べるオンラインカタログは、レコード店の棚で探すよりもバラエティに富んだ音楽が並んでおり、消費者がインディーズ系など幅広いアーティストへ移行していく後押しとなるかもしれない。現代のパッケージ化されたアルバムは、アーティストがオンライン上で発表した音楽に取って代わる可能性がある。アルバムの中の音楽は、オンラインサービスやお気に入りのバンドに利用料を払ったファンに対し、直接提供されるということだ。

 「大切なのは、CDのようにデジタル音楽を保存するものではなく、デジタル音楽そのものへとトレンドが移行していることだ。デジタル音楽はハードドライブから小型機器やステレオに自由に移せるファイルなのだ」とEcastのVann-Adibeは言う。

 このような著しい変化は、ほかのマスメディアにも影響を与える可能性がある。その動向をハリウッドが細かく追っているのはそういった理由からだ。映画撮影会社は常に著作権などの問題の道しるべとして音楽業界に注目しており、レコード会社よりずっと多額な数十億円にものぼるビジネスを守ろうとしてきた。

 これまでも、映画業界はレコード業界よりもテクノロジーに関して慎重だった。過去にもSonyの家庭用ビデオプレーヤーの普及を防ごうと訴訟に何年も費やしたが、後には裁判に負けたことで家庭用レンタルビデオという新しい巨大ビジネスが生まれている。

  Kazaaとの提携によりエンターテインメント業界と対立することになってしまった配給サービス業者AltnetのCEOであるKevin Bermeisterは次のように言う。「コンテンツ企業は自ら進んで必要のない苦労を繰り返してきた。今回新しいビジネスが成功すれば、Sonyのときと同じことを証明できる。つまり訴訟を別の側面から見れば成長産業が隠れているのだ」。彼曰く、Appleのサービスは古い船の方向をゆっくりと変えているのだという。

 それこそが、まさにYahooのGoldbergが期待していることだ。どのような経緯を辿ろうと、デジタルエンターテインメントの波がいずれYahooにも流れてきてくれさえすればいいのだ。時間はかかっても彼は喜んで待つだろう。

 Goldbergは言う。「今のYahooは、車、街頭、家の中など、人々がラジオを聞く場所に存在しているわけではないので難しいが、我々はいつかそういった場所に出て行って、人が音楽を聴く場所を独占するようになるのだ」 

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