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オンラインミュージックが音楽業界に与える影響 - (page 3)

John Borland, Evan Hansen and Mike Yamamoto2003年06月16日 10時00分
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最先端メディアの再生
水面下で成長するファイル交換サービス
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 Apple Computerが先月発表した独自の音楽ダウンロード販売サービスiTunes Music Storeは、その鋭いマーケティング力でデジタル音楽業界を見事制したかのように見えた。

 同サービスは発売後16日間で200万曲を販売、競合ダウンロードサービスを大きく上回り、シリコンバレーからハリウッドに至る様々な業界から絶賛を浴びた。それはまるで、1990年代には瀕死の重症といわれたAppleが再度奇跡の復活を遂げたかのようだった。しかし浮かれている暇はない。いつものように水をさす声が北の方から聞こえ始めたからだ。

 その声は、ワシントン州レッドモンドにあるMicrosoft本社からのものだった。同社Windows Media部門のグループマネージャーであるDavid Caultonは、「Microsoftも長年この分野に取り組んできており、大きな影響力を及ぼしてきた」という。「われわれにはiTunes Music Storeに対抗するサービスを始める予定はなく、独自に閉鎖的サービスを提供するよりも、膨大な数のパートナーが同様のサービスを提供するための基盤を提供するという現在の戦略に十分満足している」(Caulton)

 AppleのCEOであるSteve Jobsは消費者のトレンドを読むことにかけては人並みはずれた才能を持つ人物であり、それを疑う人はない。また同社のMusic Storeは、混乱・訴訟・内部抗争ですっかり低迷中のエンターテインメント業界のひとつ、デジタル音楽界の発展に寄与するという前向きな見方を示すものも多い。しかしAppleはコンピュータの領域を超えた発展を模索する中で、デジタル音楽の将来の鍵を握るのは、あのコンピュータ市場での強敵Microsoftだということに気付き始めている。

 Microsoftはエンターテインメント業界での何年にも渡るロビー活動で、Windows Media技術がインターネット上での海賊行為を防ぎ、デジタルデータを安全に流通させるための技術であることを認めさせようと尽力してきた。そして、その努力がやっと実を結びつつある。レコード業界や映画会社幹部からの反対の声を受けながらも、同社の商品はインターネット音楽やビデオサイト、家庭用メディアセンター、CD、映画館にいたるまで、ほとんどのデジタルエンターテインメントの場に採用されているのだ。

 Diamond Rioのマーケティング担当バイスプレジデントKevin Braniganも「Appleの音楽サービスの良さは認めるが、こういった試みは実は彼らが始めてではない。我々はPressplayを1年半も前から提供している」と言う。Diamond RioはAppleの売れ筋商品である携帯用音楽デバイスiPodと競合する商品を製造する会社だ。「MicrosoftはPressplayと共に既に同じ試みをしてきた。Microsoftは長い時間をかけてメーカーを説得してきた。それがあの会社のやり方だ」

  Microsoftのやり方については、デスクトップコンピュータ戦争に負けたAppleが一番よく理解している。そしてAppleは今、1980年代とよく似た状況に直面し、ひとつの選択を迫られている。それは、同社商品に限定した技術を推し進めるか、それともMicrosoftのPC計画に従ってパートナーの数を増やし、ソフトウェアやハードウェアに関わらず万人が利用できる音楽サービスを目指すかだ。

 音楽業界はMicrosoftが大きな支配力をもつことを快く思っておらず、Appleはその恩恵を受けることができた。しかしいつかは、Appleもデジタル音楽ビジネスにおいてMicrosoftと競合するか協力関係を築くか決断しなければならない。そして一方で、このビジネスは急速に発展し、様々な企業が両社に加担するようになるのである。

他の企業も参入の時期を伺う

 「みなApple側で何が起きているのか、じっくり見ているのだ」と大手レコード会社幹部は言う。「既存のダウンロードサービスより資金力のある企業、例えば巨大なインターネット接続業者や小売業者などがいるからね」

 しかしAppleが最も恐れているのは明らかにMicrosoftだ。Microsoftのダウンロードサービスが、より魅力的なライセンス契約やインセンティブを提示してレコード会社やハードウェアメーカーなどを惹きつけ、AppleのMusic Storeに打撃を与える可能性があるからだ。Microsoftは、例えばWal-Martのような大手小売業者向けのストレージ技術や流通技術、また様々な方式で使用できるデバイスメーカー向け開発用ソフトウェアを持っている。市場占有率を獲得するためには、始めのうちは無料でこれらの技術を提供することだってできるのだ。

 このようなシナリオは、Diamond RioやCreativeなど、iPodと競合する携帯用音楽再生機のメーカーにとっては魅力的だろう。これらメーカーは、既にPressplayの音楽サービスやMP3方式の無料ダウンロードサービスでMicrosoftのWindows Media Audio (WMA)方式に対応しているからだ。仮にレコード会社がMicrosoftに対して強い懐疑心を抱いているとしても、同社にはレコード会社が抵抗できないほど魅力的な条件を提示するだけの力がある。

 ダウンロードセキュリティ技術を提供するEcastのCEO、Robbie Vann-Adibeは、Microsoftにとっては格好のチャンス到来だと言う。「ほぼ間違いなくMicrosoftは他社とパートナーシップを結んで音楽ダウンロードサービスに参入してくるだろう。それがいつものやり方だから」

 ブラウザ戦争の際もそうだったが、Microsoftは同社の技術にとって脅威と思われるもの全てに対し、手段を選ばず妨害するという方針を長年取り続けてきた。Windows帝国の規模に比べればAppleのMusic Storeはほんの小さな存在だが、それでも敏感なMicrosoft幹部らは、これが将来大きな競争をもたらす一連の出来事の始まりだと見ているかもしれない。特にAppleは、Microsoftと同様コンピュータ事業からデジタルエンターテインメント事業へと発展し続けている企業だからだ。

 Microsoftが相手の規模に関わらず、普通とは思えない手段で競合相手を締め出してきたのは、そんな単純な考えからだ。異例とも言える法的審査の対象にもなったその攻撃的な戦略で、MicrosoftはNetscape Communications やRealNetworksといった競合相手はもとより、IBMやSun Microsystemsなどのパートナーに対してまで、Windowsの影響力を武器に圧力をかけてきたのだ。

 IDCの業界リサーチャーによると、MicrosoftのOSやMedia Playerといった商品の存在感だけでも、Appleのように世界のコンピュータ市場で2%しか占有していない企業にとっては大きな脅威だ。

 「Microsoftはデスクトップ市場を独占しており、Windows Media Playerを使って独自のデジタル音楽サービスを始めようと思いさえすれば、それは実現する」と独立系リサーチ会社Directions on Microsoftのアナリスト、Matt Rosoffは言う。「小売業者と提携し、Windows Media Playerの中に優先的スペースを与えることはMicrosoftの利益にもなる。提携業者もWindows Media Audio形式を使用する必要があるからだ」

 たとえMicrosoftがAppleのサービスに対して何の反応も示さなかったとしても、Microsoftはデジタル音楽の販売・ダウンロード・再生に関する技術を既にもっている。このようにデジタル音楽ビジネスに参入する基盤を既に兼ね備えているMicrosoftは依然として有利だと考えるコンピュータ業界や音楽業界のベテランは多い。Microsoftは、顧客と直接やりとりするフロントエンドの部分をYahooのようなウェブポータル会社やAmazon.com、Sears、Roebucなどの小売業者などに任せ、自分たちはバックエンドのインフラ部分で利益を得ることができるのだ。

 「MicrosoftはWindows Media Audio用のソフトウェア開発キット(SDK)の販売で売上げの多くを上げている。Windowsを使うメーカーは全商品を生産するのに別々のSDKを買わなければいけない。それはMicrosoftにとっては莫大な収入源だ」とDiamond RioのBraniganは言う。

Microsoftの常套手段

 Microsoftは、その商品ブランドが顧客の目につかない場合にも、全てのテクノロジービジネスの基盤となる部分を常に掌握しようとしてきた。こうして同社は、自分ではライセンス料は払わずに、できるだけ多くのパートナーからライセンス料を集めることができるのだ。それは、PCメーカーからWindows OSの使用許諾料を収集してきたのと同じである。

 アナリストのRosoffは、「Microsoftはライセンス料を支払うのが嫌いで、払わなくて済むように自社フォーマットが市場を独占するよう戦っているのだ」と言う。「Microsoft幹部のポリシーは、ライセンス料は集めるもので払うものではない、ということだ」

 もしAppleがMicrosoftと協力関係を築く戦略を持っていても、誰にも語ろうとはしない。同社は実際、繰り返しその質問に答えることを拒否してきている。しかし、どちらにせよ同社の成功を図るにはあと数カ月はかかるため、現時点での計画はどれも未確定なものだろう。

 今回の契約に詳しい複数の人物が認めるところでは、レコード業界幹部もAppleのMusic Storeを「実験」と呼び、初回のライセンス期間を1年に設定している。この合法的な音楽ダウンロードサービスが、無料のMP3ファイルやファイル交換ネットワークに対抗するものにまで成長するか、Appleとレコード会社の双方にとって初めての、そして重要な実験の結果は、1年もあれば出るだろう。

 iTunes Music Serviceの発表は派手に取りざたされたが、一方でデジタル情報のダウンロード販売がAppleにとって利益をもたらすビジネスなのかどうかは明らかでない。Appleは公の場でライセンス条件についての発言を控えているが、デジタル音楽関連企業の幹部曰く、音楽業界が業界標準どおり一曲あたり60〜70%のマージンを請求したとするとAppleの利益率はほんのわずかしか残らないはずだという。

 このようなサービスでは、レコード会社や音楽製作者への支払いに加え、カード決済業者や回線業者への支払いや、ファイルの保存・流通を行うストレージ業者への支払い、さらには音楽の暗号化などの準備費、顧客サポート料、マーケティング費、人件費などを負担しなくてはならない。Appleは、少なくとも短期的には赤字でこのMusic Storeを運営しているのではないかという声さえあがっている。

 「小売業は決して利の多い商売ではない」とYahooのLaunchCastインターネットラジオサービスのCEO、Dave Goldbergも認めている。

 この商売がどの程度おいしい話なのかによって、Appleの長期的な計画は変わってくるだろう。なかでも、デジタル音楽業界で確固とした地位を目指す関門として、Microsoftの牙城にどこまで食い込むかを見極めることは非常に特に需要である。Music Storeは、利益がゼロだとしても新しい顧客をAppleに呼び込む絶好のツールとなる可能性があるが、それだけではデジタル業界のフロントエンドとされる店舗としても、またバックエンドの技術プロバイダとしても、Windows帝国で存在感を示すには不十分だ。

 Jobsによると、AppleはWindows対応のiTunes Music Storeを今年末までに発表予定で、すでに少なくとも1人、Windowsソフトウェア開発者の採用を考えているようだ。しかしAppleは、Mac用システムの発売から間を空けずにWindows用システムを発売するよう、強く求められるかもしれない。

 iTunesのサービスは、ほとんどの無料ダウンロードサービスが採用しているMP3フォーマットよりも音質が優れると言われるAACオーディオ標準を採用しているが、一方でFairPlayというプロプライエタリなセキュリティシステムを使っている。つまり競合他社からみると、Appleのシステムは真のオープンスタンダードではないことになる。携帯用MP3式再生機のメーカーがAACの採用を決めても、AppleがFairPlayをサポートするソフトウェアを提供しない限りAppleの提供する音楽ファイルを再生することはできない。

 AppleのWindows対応iPod発売に際し、Appleと協力してWindows対応ソフトウェアを開発したPCジュークボックスメーカーMusicMatchのCEOであるDennis Muddは、AACの問題点はなにが標準か不明瞭なことにあるという。「あれは何とかしなくてはいけないだろう」(Mudd)

 それでも、ACCは当面の間Microsoftを寄せ付けないという重要な効果を発揮している。

 ACCは、MP3を生み出した主要業界標準設定団体であるMoving Pictures Experts Group (MPEG)にも認められており、AOL Time Warnerも同社のインターネットラジオサービスをAAC対応とする予定だ。レコード業界とRealNetworksが支持するインターネット音楽サービスのMusicNetも、同社CEOのAlan McGlade曰く、AAC対応を検討中だ。

  MP3.comの創始者として、また最近はLinux OSのデスクトップ版を販売するLindows.comのCEOとしてMicrosoftに戦いを挑んだ経験のあるMichael Robertsonは、「問題はMicrosoftが市場を独占していることで、一度市場を掌握するとどんな値段でもつけられることにある」という。「メディア企業はMicrosoftに対して大変強い警戒心を抱いている」(Robertson)

 しかし、高額の利益をめぐり無数の企業が争う音楽業界では、その情勢が一夜にして180度変わることもあり得る。皮肉なことに、AppleのMusic Storeが引き起こした波紋のせいで、iTunes以外の合法的ダウンロードサービス、つまりWindows領域のサービスの認知度も高まり、長期的には大敵Microsoftに味方する可能性もある。

 デジタルメディア企業Loudeyeの最高技術責任者(CTO)Mike Harburgは、「MusicNet、Pressplay、Amazon、Yahoo、AOL、MSNなどはみな、この業界に参入したがるようになるだろう」という。

 商用サービスが成功すれば、それは新しい安全基準の確立につながる中心的役割を果たし、結果的にはWindows Media Audioやそのほかの安全技術にプラスとなるだろう。これらの合法的サービスは、MP3ダウンロードフォーマットに対応したKazaaのような無料音楽ファイル交換サービスの人気の影に隠されてしまっていたのだ。

 「数年前には、RealNetworks、Liquid Audio、Microsoft、Sonyなど、様々な組織が様々な方式で安全なダウンロードサービスを提供してきたが、そんな時代はもう終わった。Windowsに席巻された今日の市場では、WMAが音楽ソフトウェアの事実上の安全標準となってしまったのだ」とEcastのCEO、Van-Adibeは言う。

 その成功はまたMicrosoftのWindowsサーバソフトウェアの新しい需要を加速させ、OSの独占状態をデスクトップ市場から家庭用電化製品へと推し進める。その領域はTVから携帯用音楽再生機やステレオにまで至るものだ。

 「音楽に関連するデジタル権利管理(DRM)技術の市場は、利益をもたらす市場では決してないだろう。みなそれに気付き始めたようだ」と、Universal Music Groupの新メディア技術部門であるeLabsのプレジデントLarry Kenswilは言う。「MicrosoftはコーデックやDRMを目的のための手段だと考えている。それら自身を目的とはしていない」

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