DAY1 マーケットの主役は顧客
DAY2 現在の注目商品
DAY3 キャッシュがモノを言う時代
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Angela Hallは情報通信セールス歴11年のベテランセールスウーマンだ。最近、見込み顧客企業に電話をしたところすぐに先方に電話を切られてしまった。辛抱強くて機転の利くHallはすぐに電話をかけなおした。
「回線が切れてしまったようですが」受話器の向こうで面食らっている相手に対してHallはこう続けた。「ひどい電話サービスをお使いですね。当社サービスの必要性をお分かりいただけたのでは?」自ら電話を切っていた企業幹部は声をたてて笑い、Hallと会う約束をした。
この数年間でハイテク業界のセールスは大きく変わってしまった。テクノロジーへの投資ブームも、簡単に金が動いたのも、もう過去の話だ。企業幹部はすっかり倹約ムードに陥っており、セールスパーソンは彼らの関心を得るためにあらゆる手段をつくして努力しなければならない。商談に持ち込むにはさらなる努力を要することは言うまでもない。
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時間をかけて接触を試み、何度も電子メールを書き、しつこく電話をかける。ほとんどのセールスパーソンにとって、それはほんの手始めだ。オフィスの連絡先を見せてもらおうと守衛とおしゃべりをして仲良くなる努力をする者も居れば、乗り気でない顧客をトイレにまで追っていくツワモノも居る。そして、これらの現場作戦よりもさらに重要なことを最近のセールスパーソンは学習しつつある。それは受話器を握る前にすべき仕事、つまり先方企業についてリサーチをし、その企業のニーズに合う営業トークを練ること。一般的な売り口上や競合他社に対する不安を煽って商品を売りつけるという方法にはもう頼れないのである。
Al HogueはWebMethodsのトップセールスマンだ。Hogueは見込み客の情報収集のためには、ウェブサイト、プレスリリース、投資家向け説明会から情報を得るだけでなく、友人や家族、さらにはターゲット企業のことをよく知っている同僚からも情報を集める。WebMethodsは個別のシステムを統合するソフトウェアを開発している会社だが、同社も独自の顧客データベースを管理しており、顧客企業のソフトウェア購入歴、そのソフトウェア導入までにかかった時間、またそのソフトが企業にとってどう役立ったかなどのデータを保存している。
ITセールスで10年間のキャリアを持つHogueは次のように語る。「我々は過去の投資に梃入れするようなソフトウェアを売っているのだから、電話をかけるときには“貴社はこのようなシステムを実装されていますね”と話しかけ、我々のソフトウェアを実装している競合他社などの名前を挙げ、彼らがどんな利益を得ているか説明できるようにしている」
顧客側の企業も、根気があるだけの営業戦略はもはや通じないと言う。セールスの話に少しでも耳を傾けるとすれば、自社の商品や事業目標、特定の企業幹部についてまで営業前の下調べを済ませているセールスパーソンの話を聞くだろう。
「今のような経済環境の下で成功を収めるため、売り手はテクノロジーそのものの説明をすると同時にその価値を実際に証明する必要があるだろう」とGartner Groupハードウェアプラットフォーム担当バイスプレジデントのCharles Smuldersは言う。「セールスに出かけ、これは新しくて素晴らしいテクノロジーですと言うだけではもう駄目だ。そのテクノロジーがビジネスに与える具体的な投資効果を証明しなければならない」
Gartner Groupによると、2002年の世界のIT支出額(情報通信サービス関連の支出も含む)は各社の最終決算が揃う時点で0.2%の減少となると予測している。Goldman Sachsは2003年の見通し改善の目処はなく、米国企業のコンピュータハードウェアとソフトウェアへの投資平均がさらに1%減少すると言っている。
IT市場の沈滞化にはいくつかの要因があり、全体的な景気の停滞や、1990年代には自由に投資を行ってきた企業が初心に戻り保守的になったことなどがその要因に含まれる。また、企業の投資全体に占めるIT支出の割合が拡大し、テクノロジーの成熟で生じる問題に直面しているともいえる。
テクノロジーが成熟すると、次に何が出てくるか予測しやすくなり、同時に投資パターンも前もって決められるようになる。すると成熟したテクノロジーの運用はまるで建物の維持管理と同じようになる可能性がある。つまり費用はかけるが、予算管理者は支出を抑える方法を探し始めるのだ。
またハードウェアの世界には、テクノロジーは進化するにつれて価格が下がるという古くからの原則がある。さらに最近のソフトウェアビジネスモデルでは、企業は必要な時にソフトウェアをレンタルできるのでコスト削減が可能だ。また、既存のソフトウェアアプリケーションに簡単に接続できるよう設計されているWebサービスなどの発展も、新しいアプリケーションやサービスの提供に伴う必要経費を軽減する。
「最新のアプリケーションが欲しい場合、かつては新しいハードウェアを探し出して購入し、ソフトウェアも全て新しくしなければならなかった。しかし今では商品を顧客企業のニーズに合わせるため、ベンダーは商品に簡単にアクセスできる環境を作らなくてはならないと感じている」とSouthern Methodist UniversityのビジネススクールIT 事業管理学部教授であるAmit Basu博士は言う。「企業はハードウェアを導入せずともソフトウェアを使えるようになるモデルを既に展開済みで、このことが企業の支出性向に影響を与えている」
一方、たとえあるテクノロジーが事業の役に立つと立証できたとしても、今後それがさらなるIT支出に結びつくとは限らない。多くの場合、企業は既存の商品に満足している。今あるものに満足ならば取り替える理由がどこにあるというのだ。
「アプリケーションの中には、ERPのように20世紀終盤に各社が多くの費用を投じ、現在では完成したアプリケーションとしてビジネスを支えているものもある。これらのアプリケーションはIT投資という視点から見るとほとんど自動操縦の状態にある」と、経営テクノロジーコンサルタント会社である米North Highland経営サービス部門バイスプレジデント、Steve Carterは言う。「技術進歩の可能性が消えたわけではないので、どこかで投資が発生するが、コスト意識の高い今日の市場では投資額は大きくはない」
それを誰よりもよく理解しているのはWebMethodsのHogueだ。「2年前には1週間もあれば数百万ドル単位の契約を持って帰ることが出来たが、今では商談1つに半年かかることもある」
Hogueはそれでもラッキーな方だ。顧客とのアポイントさえ取れない者もいるのだから。「1990年代には、1日に100本電話をすればプレゼンテーションのアポが10件はとれた」というのは前出のベテランセールスウーマン、Angela Hallだ。彼女はYipes Enterprise Servicesのアカウントエグゼクティブを務めているが、同社は低迷中の情報通信市場で苦境を強いられている首都圏ネットワーク業者である。「今では100本電話をかけても3〜4件のアポをとるのがやっと」とHallは言う。
このような環境において、ベテランのセールスパーソンは「壊れていないものを修理する必要はない」とか「予算がないから買えない」といった言葉を繰り返し何度も聞かされている。そこで、買い手の決まり文句に対抗して売り手も新しい応酬パターンを編み出している。
Hallの場合はこうだ。「顧客の意見にはまず理解と同意を示す。それから顧客の懸念点を引き出すような質問をたくさんする。例えば、もし商品の値段が高すぎるという言うのであれば彼らが残業代をいくら削ることができるようになるかを伝える。すると価格に対する抵抗は少なくなる。4件中3件の顧客は、商品に再度関心を持つようになる」
テクノロジーの成熟を悪く思わない者もいる。「人々は成熟が破滅を招くものであるかのように恐れている」と、リサーチ会社Needham & Co.の元ITアナリスト、Tad LaFountainは言う。「しかし成熟は素晴らしいことだ。IT投資熱は一時の流行以外の何者でもなかったが、流行からツールへと成長するに従って、テクノロジーは本当に精査され価値あるものへと変わるのだ」
一方では、テクノロジーの精査こそがセールスパーソンをいらだたせる障害を生み出している。「IT絶頂期には、IT関連役員が高額の購買について大きな権限を持っていたが、今では1つの契約を結ぶのに5〜6人の承認を得なければならないこともある」とHallは昔を懐かしむ。
このような企業内部手続きの変化は、様々なレベルで誰が何に関わっているのか理解するのにより多くの時間を要することを意味する。「私自身はセールスマンとして最高財務責任者(CFO)には金銭の話を、開発者にはテクノロジーについての話をすることができるのだが」とHogueは言う。「相手企業の様々なレベルの人物が何に価値を置いているか理解しなければいけない。誰もが成功したいと考えているのだから、関係者は誰で、誰に商品についてのどんな話をするのがベストなのかを知っておく必要がある」
とはいえ、より創造的なセールスパーソンにとって、困難な市場へのチャレンジこそが営業の醍醐味である。「私は歩兵隊のキャプテンだった。軍隊で想定するのは100人の敵、決して3人の敵ではない」Hogueは言う。「軍隊は打ちのめされることがどういうことか教えてくれる」
一方Hallはかつて装甲車などのサービスを提供する大手警備会社の社員だったが、今でも警備員の会合に顔を出し、業界との繋がりを維持するよう努めている。そういった関係はどこかの会社を訪問する際に役立つ可能性があるからだ。Hallは見込み客がトイレに駆け込んでも営業トークを続ける人物として知られている。
「顧客の“ノー”は“多分”という意味だからね」とHallは微笑みながら、いかにもセールスウーマンらしい口調で言った。
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