「音声通話、データ通信、メールが使い放題で月額3000円」――鷹山が2月に発表した定額制の無線IP電話サービスは、既存の携帯電話料金を大きく下回る衝撃的な価格設定をしている。通話エリアなどの面で既存の携帯電話に比べると制約があるが、このサービスが実現すれば特にモバイルセントレックスと呼ばれる法人向け携帯電話市場に大きな影響を与える可能性がある。
前編では鷹山が採用する予定の新しい高速通信技術「WiMAX」について見てきた。WiMAXはIEEE802.16という規格に基づいた高速無線通信方式のこと。今回鷹山が利用するのは、固定通信向けの802.16-2004という規格で、通信速度は最大75Mbpsとなる。
後編では、鷹山が具体的にどのようなサービス展開を描いているのかを取り上げる。
鷹山が2005年12月から開始する予定のサービスは、データ通信やメールのほか、同サービスのユーザー間であれば音声通話も使い放題で月額3000円となっている。他社網への接続は固定IP電話に準拠する料金で提供するという。
当初は東京23区内でサービスを提供する予定で、その後は首都圏で順次エリアを拡大していく。また、サービスの提供に先立ち、6月より英Airspan Networks、ネットワークインテグレータのベルネットと共同で、東京23区内においてフィールド実験を行うことも明らかにしている。この実験にはWiMAXのバックボーン構築のパートナーとしてパワードコムも参加することを検討しているという。
なぜ鷹山は、WiMAXという技術を採用したのだろうか。鷹山は2002年に東京通信ネットワーク(現パワードコム)からPHS事業の東京電話アステル(現アステル東京)を買収して以来、PHSのインフラを生かしたIPベースの無線通信事業への参入をうかがってきた。
2003年にはPHS網を使った定額制のデータ通信サービスを開始するために、YOZAN IPネットワークスという子会社を設立している。しかし、「パートナー関係にあった企業の方針変更などを受け、サービスの提供が延び延びになってしまった」(鷹山代表取締役社長の高取直氏)。結局、ブロードバンドインフラが急速に普及したことで最大64kbpsの定額通信サービスでは競争力が乏しいと判断し、2004年3月には同計画を中止するとともにYOZAN IPネットワークスを解散した。
高取氏はWiMAXについて、「4年ほど前から注目していた」と話す。WiMAXの特徴として、(1)IPベースの高速無線データ通信規格であること、(2)国際標準規格のため海外事業者と簡単にローミングができること、(3)Wi-Fiに比べて通信距離が長くカバーエリアを広げられること、(4)1つの基地局の同時可能接続数が多いことなどから、少ない投資で無線IP電話事業が展開できると判断したようだ。
鷹山が予定しているサービスは主に2つある。1つは端末−基地局間の通信をWiMAXで行うサービスで、もう1つはWiMAXをバックホール(基地局−無線LANアンテナ間の通信)に利用した固定通信(FWA)方式の無線LANサービスだ(図)。
まず端末−基地局間の通信をWiMAXで行うサービスについては、WiMAXを使ってデータの送受信が可能なコンパクトフラッシュ型の通信カードを開発する。これにより、PCだけではなく携帯端末にも差し込んで通信ができる。ただしWiMAXで通信すると、携帯端末はバッテリーを多く消費してしまう。そこで鷹山では携帯電話からの出力を抑えるために、基地局に電波を送信する中継基地局を数多く設置し、短い距離で電波をリレーする形式を採る。12月からの本サービスでは東京23区内に主幹基地局を約600局設置することに加えて、上りの中継用基地局を4000局用意する予定だ。
もう1つは無線LANとWiMAXを組み合わせたサービスだ。無線LANのアクセスポイントを屋内または屋外に設置し、無線LANカードもしくは無線LAN対応の携帯電話端末を使って802.11a/b/gで基地局に接続する。鷹山によれば、無線LANのアクセスポイントはWiMAXの基地局と50Mbps程度の速度で通信するという。
(鷹山の資料より)
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