プリファードインフラストラクチャー設立の目的は、「自社の持てる技術を世界に広める」こと。そのために西川氏は、2つの運営方針を掲げている。
ひとつは、開発は基本的に集まって行い、メンバー同士の情報交換、議論を怠らないこと。どの技術がブレークし、受け入れられるかは日々刻々と変化する。
個々の技術力の高さは、ともすれば自己満足的な、作りっぱなしの開発につながりかねない。逆にいえば、お互いに専門分野が違うからこそ、議論によって他分野の知識を吸収でき、かつニーズに合った質の高い商品を生み出せる。京都在住の2人のメンバーとも、欠かさず「Skype」でやりとりをしているという。
もう一点が、受託生産をしないこと。もちろん、同社の技術力をもってすれば、クライアントの提案を受け、それに見合うサービスを提供することは容易だ。しかし、各エンジニアが作りたいものを作る、というのが基本姿勢でなければ、個々の持つ技術を最大限に生かすことはできない。それでは、そもそも起業した意味がない、というわけだ。
営業手法に関しても、この2つの方針は貫かれている。ネットを活用して技術デモンストレーションを行い、反応のあった企業に対して西川氏自らが営業をかける。西川氏がミーティング等を通してメンバー全員の技術を理解しているからこそ採れる手法だ。ブログによる口コミや、技術セミナー参加をきっかけに、商談へと発展するケースも多い。Sedueリリース時には、10社以上から問い合わせがあったという。
ただ、当然ながら開発と営業という全く異なる2つの業務をこなす西川氏の負担は大きい。起業の際も、運転資金の調達には苦労したという。いくら技術力が高くても、すぐにマネタイズできるわけではなく、実績もない。ベンチャーキャピタルの支援を得るのは難しく、営業に行ってもうまくいかない日々が続いた。 もちろん、営業専任の人材が必要であることはわかっている。にもかかわらず、西川氏は、いや、同社の全員が、少なくとも当面は、その必要を認めていないようだ。
「今はわれわれ自身、先日リリースしたreflexaがどんな使い方をされて、どうマネタイズできそうかを把握しきれていないんです。プロモーションやビジネスモデルの構築は、まずはそこを見極めてからのこと。少なくとも半年先の話だと思います」
個人の能力を1とするなら、1+1を3にも4にもするのが組織だ。その意味で同社は、経営組織としては未熟かもしれない。しかし、それを補って余りある、開発集団としての実力と自信が、またそれを伸ばす環境が、この会社にあるのは確かだ。単に理想のみで突き進んでいるのでないことは、今年に入ってからの同社の実績が証明している。開発者8人の持つ8の技術力が掛け合わさり、20にも30にもなっているのだ。
「イノベーションを起こすエネルギーは、やはりその技術を作った人からしか生まれ得ないと思います。だからこそ、技術者が主体となって、世の中に広めていく方法を模索しなければならないのではないでしょうか」
優れた技術とその開発者には、黙っていてもクライアントやユーザーを惹きつけるパワーがある。それは、MicrosoftやGoogleの例を引くまでもない事実だ。
部室のような1室で楽しそうに技術の話をしていた彼らからは「技術の力で世の中を良くできる、自分達が良くしたい」という純粋な気持ちが強く伝わってきた。国内外のライバルなどについて質問をしても、きちんとした前向きな答えが返ってくる。自分達の能力を正しく評価して、絶対にそれを安売りしないという気構えがあるのだろうと思う。言葉の端々から、率直に頭が良いと感じた。ここから世界に通用する日本発のサービスが生まれるかもしれない、と感じさせる若いエネルギーに溢れた会社だった。
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