特許は早い者勝ち!? スタートアップが特許出願で押さえるべきポイント

大谷 寛(弁理士)2015年02月25日 08時00分

 前回、「特許」という言葉で分かりにくくなってしまっている特許制度を「発明」「特許出願」「特許権」という3つのキーワードで整理しました。今成功しているスタートアップが創業期から特許出願に取り組んでいる事例もいくつかご紹介しました。少し時間があいていますので、不安な方や今回初めてご覧になっていただく方はぜひ初回を(もう一度)お読みくださいね。

 今回は、「特許出願のためには具体的に何をすれば?」という疑問に答えていきたいと思います。資金が足りない、時間もないという声は少なくありません。あらゆる企業が使えるように設計された社会制度である性質上、そのままではどうしても分かりにくいところがあります。スタートアップが特許出願をする上で欠かせない本当のポイントを解説します。

 やらなくていいことはやらず、やるべきことだけをやっていただければ、ハードルは大きく下がるはずです。

「発明」とは?

 「特許出願」とは、「発明」を国に申請する手続のことでした。そこで、まず最初に「発明」について少し本質を掘り下げて、みなさんが特許出願をしようとするときに、「ところで『発明』って何だっけ?」となってしまわないようにしたいと思います。

 「発明」とは、特許法を思い切って意訳してしまうと、何かを解決するための新しい視点です。それでも抽象的で分かりにくいですね。スタートアップに焦点を絞って具体化していきます。

 スタートアップのプロダクトは、何を私たちに与えてくれるのでしょうか。すでにあるもの、あるいは、まだ潜在的で意識されていないもの。どちらもあると思いますが、いずれにしても、私たちが求めていて、でも満たされていないものを与えてくれるのがスタートアップです。そして、そのためのアプローチには今まで私たちが深く考えてみなかった新しさがあり、社会にインパクトをもたらします。満たされていなかったニーズに真剣に取り組む。スタートアップのプロダクトは「ニーズを満たすための新しいアプローチ」という性質を持っていると言えます。エリック・リース氏の「リーン・スタートアップ」という書籍でも顧客ニーズをいかに探り当てていくかが考察されています。

  • 「リーン・スタートアップ」

 スタートアップのプロダクトは、「ニーズを満たすための新しいアプローチ」という性質のほかにも、さまざまな性質をもっているでしょう。同じモノも視点によって見え方が異なることは珍しいことではありません。「発明」かどうか、どのような「発明」かという問題を考える際には、そのような視点の1つとして、特許的視点から見てみることが必要になります。特許的視点で見たときに何か意味のある新しさが浮かび上がってくれば、そこに「発明」が生まれています。

 繰り返しになりますが、「発明」とは「何かを解決するための新しい視点」です。ターゲット顧客の「ニーズ」は、解決すべき「何か」に該当しますし、スタートアップの「新しいアプローチ」は、その「何か」を解決するための「新しい視点」に該当します。このようにみてみると、スタートアップのプロダクトは発明の1つの典型例といってもいいすぎでありません。

 より正確には、法律上の詳細は割愛しますが、発明はテクノロジを用いていることを条件としていますので、プロダクトも何らかの形でテクノロジに支えられていることが条件とはなります。しかし、ハードウェアはもちろん、ソフトウェアもテクノロジです。最近のプロダクトでテクノロジの要素がまったくないものの方が珍しいですよね。発明は、大部分のプロダクトをカバーしているのです。

 ここで、大切なポイントの1つは、プロダクトを支えるテクノロジ自体が新しいかどうかではなく、テクノロジに支えられたプロダクトが新しいかどうかということです。Amazon.comの1-Clickは、(これだけではありませんが)ネット書店で簡単な操作で買い物を楽しみたいという顧客のニーズを極限まで満たした発明と理解することができます。ウェブブラウザとサーバを制御するためにもちろんプログラムが走っていますが、そのようなテクノロジ自体が画期的だったわけではまったくありません。しかし、アップルにもライセンスされ、時代を画するイノベーションとなりました。


(https://www.apple.com/jp/pr/library/2000/09/18Apple-Licenses-Amazon-com-1-Click-Patent-and-Trademark.html)

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