Googleのように技術力を売りにする企業が成長を続けると同時に、インターネット上で利用される技術の幅も広がっている。こうした中、インターネットでサービスを提供する企業はどういったR&D戦略を進め、いかにして新技術を自社サービスの中に取り入れているのか。5月に開催されたNew Industry Leaders Summit(NILS)にて「LAB(ラボ)−新しいR&Dマネジメントの考察」と題したセッションが開催され、インターネット技術を駆使したビジネスを展開する3社の代表が技術戦略を語った。
同セッションに登壇したのは、楽天 取締役常務執行役員 兼 ポータル・メディア事業カンパニー 社長 吉田敬氏、NTTレゾナント ポータル事業本部 技術マーケティング部部長 工学博士 濱野輝夫氏、サイボウズ・ラボ 代表取締役社長 畑慎也氏の3名だ。モデレーターのECナビ 代表取締役CEO 宇佐美進典氏も含め、ラボやR&Dというテーマについてそれぞれの戦略を語った。
モデレーターの宇佐美氏が代表を務めるECナビでも、2005年11月に「ECナビラボ」を設立したばかり。これは、同氏が「経営戦略上で技術が重要な役割を持つと感じるようになった」というように、技術力が経営の行方に影響を与えていることを意味する。宇佐美氏がまずスピーカーに聞いたのは、経営の中における技術の重要度についてだ。
NTTレゾナントの濱野氏は、最近のトレンドとして「Web 2.0的な参加型の開発や、オープンソース、APIの公開といった流れが進み、多くの人がオープンにアイデアを出し合うことで新しいサービスを作る手法が主流となってきた」と話す。「技術そのものはもちろんのこと、こうした技術者コミュニティの動きをいかにして取り込むかが重要だ」というのが、濱野氏の考えだ。
一方、楽天の吉田氏は、新しい技術的トレンドはあるものの、「技術が重要だったのは、インターネットのサービスが始まった時からずっとそうだった」という。楽天はマーケティングに強い会社と見られがちだが、技術には設立当初からフォーカスしていたという。
技術の重要度がずっと変わらないという点は、サイボウズ・ラボの畑氏も同意している。ただし、2005年8月になってサイボウズが独自の研究開発会社としてサイボウズ・ラボを設立したのは、技術開発に集中するための施設という位置づけはもちろんのこと、「サイボウズのテクノロジブランドを築き上げたかった」(畑氏)という点も大きな理由のようだ。
畑氏は、「サイボウズ製品を利用しているユーザーは、サイボウズが技術力の高い会社だと感じているかもしれないが、サイボウズはマーケティング色も強いため、技術者にとってサイボウズが技術会社として魅力があるかどうかは疑問だ」と話す。例えばGoogleなどは、技術力の高さでも企業ブランドとしても知られているため、技術者の採用も買い手市場だが、サイボウズでは技術者の応募者数も多いとは言えない。「テクノロジブランドを打ち出すことで、技術者不足を少しでも改善したかった」と畑氏は明かす。
サイボウズ・ラボを立ち上げたことで、技術者の採用は「大幅に良くなったとまではいえないが、設立時の計画通りの改善は進んでいる」と畑氏。ただし、「必ずしも技術力の高い人がラボ向きかというと、そうではない」という。それは、ラボでは売上や利益に連動したボーナスなどが存在しないためだ。「自分の作った製品の売上や利益がモチベーションとなる人にとってはやりにくいかもしれない。その場合は、(ボーナスなどの制度がある)本社に紹介することもある」(畑氏)
採用面でのメリットについては、楽天の吉田氏も認めている。ただ、ラボという形態は持たないものの、「楽天としても、ブログが普及するよりずっと以前の2001年8月に(ブログ形式の)『楽天広場』を開始するなど、各社がラボと称して実験していることと同じような取り組みは継続的に続けている」と話す。
こうした研究開発や新サービスへの投資ができるかどうかは、「企業体力にもよるだろう」と吉田氏。楽天は、売上規模も大きくなっていることから、「昔はR&Dに1億円投資するとなると、売り上げに占める割合も大きかったが、今では例えば年間の経常利益の2%をR&Dに回したとしても10億円ほどの投資ができる。今後、楽天広場を始めた時のような取り組みをさらに推進したい」と述べた。
一方、ラボという特別な研究開発部隊を持つことで吉田氏が気がかりなのは、「通常業務で開発を続ける技術者が、ラボ部隊に参加できないことでモチベーションを失わないか」という点だ。
この懸念については、ECナビラボを立ち上げたモデレーターの宇佐美氏も理解を示している。実際ECナビでは、開発者がこぞって「自分もラボで開発をしたい」という風潮になってしまったという。そのためECナビでは、ラボの位置づけを「組織としてのラボ」から「研究結果を発表する場としてのラボ」へと転換しようとしている。つまり、通常の開発メンバーもラボでの開発に参加できる体制にするということだ。これは、Googleが「Google Labs」を発表の場として位置づけているのと同じだ。
NTTレゾナントの提供する「goo」にも、同様の位置づけで「gooラボ」が存在する。濱野氏はgooラボについて、「新しいアイデアやサービス、技術などを一般ユーザーにも公開し、フィードバックを受けつつブラッシュアップするための実験所」と説明する。
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