「プライベートクラウド」とは何であって何ではないのか--これは、パートナー企業も顧客もなかなか合意できないテーマだ。だが、クラウドの問題はこれだけではない。プライベートコンピューティングを誰が必要としているのかについても、異論があるようだ。
SalesforceとAmazonの幹部は、仮想プライベートクラウドを--データをオンプレミスでホスティングするが、従量課金制で配信する場合を指す場合のおいて--「偽物のクラウド」(false cloud)と呼んでいる。両社は、Microsoft、IBM、Hewlett-Packard(HP)らの既存ハイテクベンダーが、自社のサーバとソフトウェアを継続して提供することを狙ってプライベートクラウドソリューションを顧客に推進している、と主張している。両社の最大のメッセージは、「クラウドですべてを実現できるし、そうすべきだ。ソフトウェアをローカルにインストールする必要はない」というものだ。
Microsoftのポジショニングは、法人顧客がパブリッククラウド、プライベートクラウド、あるいはその組み合わせから選択できるよう、選択肢を提供するというものだ。しかし、同社は、中小規模企業にはオンプレミス製品(Microsoft社内の一部製品グループさえ消化できずにいる)よりもパブリッククラウド製品を積極的に推し進めている。Microsoftは7月に開催されるWorldwide Partner Conferenceで、自分たちと同じ方針を進めるようパートナーに呼びかけ、クラウドは売り上げを減少させるものとして敵視するのではなく、好意的に見てもらうことを狙おうとしている。
だが、Microsoftがパブリッククラウドにフォーカスしているからといって、プライベートクラウドを軽視しているわけではない。実際、Microsoftの関係者は6月、エンタープライズ顧客こそ、Microsoftのプライベートクラウド戦略を加速させている最大の要因だと述べた。IDCも先に発表した調査でMicrosoftの考え方を支持し、「エンタープライズIT顧客は、パブリッククラウドとプライベートクラウドの両方を望んでいる」とまとめている。
ベンダーの議論はさておき、企業は何を望んでいるのだろうか?パブリックとオンプレミスのハイブリッドモデルなのか、それとも「all-in」クラウドに向けて準備ができているのか?
Amazon.comがニューヨーク市で開催したイベントで、法人ユーザー4社が討論形式で、「Amazon Web Services」(AWS)を選んだ理由について語った。興味深いことに、顧客の中からは、パブリッククラウドにコミットしているとしながらも、プライベートクラウドとハイブリッドモデルを望んでいたとする声が出ていた。
4社の顧客の1社、IPG Mediabrands Global Technology Groupの最高エンタープライズアーキテクトであるMarc Dispensa氏は、チームと共に3カ月かけてさまざまなクラウドプラットフォームを検討したという。その中には、AmazonのAWS、RackSpace、Microsoft「Azure」などが入っていたとのことだ。Mediabrandsが主に利用しているのはMicrosoft技術なので、Azureは「開発者に容易にフィットする」技術だったが、結局はAzureを選ばなかった。その理由は、「SQL Server」のストレージ容量に制限があったことと、Microsoftの「ハイブリッドモデル」アプローチにあるという。
だがDispensa氏が示した展開計画によると、MediabrandsはSharePointのデータをAWSストレージクラウドに移行させるが、SharePointもオンプレミスで継続して維持するつもりという(これは、筆者にはハイブリッドモデルのように見える)。Dispensa氏はまた、MicrosoftがSharePointソリューションをホスティングする「SharePoint Online」に完全に移行する選択肢も残していることも明らかにした。
別のAWS顧客であるPfizer Research & Developmentで高性能コンピューティングサービス(クラウドコンピューティングを管理するグループ)のトップを務めるMichael Miller氏は、Pfizerの「Virtual Private Cloud」サービス利用について語った(表向きには、プライベートクラウドコンピューティングは本物のクラウドコンピューティングではない、と述べるAmazonだが、「Virtual Private Cloud」(VPC)というサービス名で、保護されたパブリッククラウドを提供している)。
Miller氏によると、Pfizerは社内向けのアプリケーションの一部をクラウドに移行することでデータセンターを拡張しようと考えているという。これまでのところ、これらアプリケーションの3分の2は、AmazonがVPCで規定するコンプライアンス・セキュリティ基準と折り合うと見ている。VPCのような安全なサービスなしには、自分たちの拡張計画は「うまくいかなかった」とMiller氏は述べる。
Miller氏らのグループはLinuxを利用しているという。Windowsアプリケーションは情報をOSのレジストリに記録するため、クラウドにポーティングするのが難しいと述べる。この問題についてはMicrosoft自身もよく認識しており、実のところ、2011年後半に提供する「Virtual Machine Manager」でアプリケーション仮想化機能を提供する最大の理由はここにある。
Amazonのイベントで最大の収穫は、エンタープライズ顧客がちょうどいいペースでクラウドに移行できるようにする、としているという点で、AmazonとMicrosoftは違いよりも似ている部分が多いということだ。「偽物のクラウド」という表現は、Salesforceの「ソフトウェアの終焉」(end of software)議論に似ている、と筆者は感じる--この言葉は、Salesforceの製品がどのように動き、顧客(いまだにオフラインデータアクセスを必要としている)がどのように運用するのか、現実の方法を示した言葉というよりも、スローガンのようである。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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