ウェブにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。アメリカの家電量販店BEST BUYが実施した「TWELPFORCEキャンペーン」には、人間の感情を刺激するストーリーがありました。
このキャンペーンは、ソーシャルメディア「Twitter」を利用したキャンペーンで、2009年6月にスタートしました。ところで、TWELPFORCEの「TWELP」とは、「Twitter+Help」の造語です。これに、部隊や集団の意味もある「FORCE」をくっつけることで、「ツイッターお助け隊」のような意味で使われています。
Twitter上で、お客様から投げかけられる家電に関する質問に、BEST BUYの2000人以上の従業員(CEOを含む)がすぐに答えるというのが「TWELPFORCEキャンペーン」の骨子です。
消費者にとっては、製品を使用中に操作がわからなくなって、すぐにサポートが欲しかったり、どの製品を買おうか迷っていて、専門家の助言が欲しかったりする時、24時間即座に対応してくれる巨大な相談窓口ができたようなものです。
「お客様を第一に」等という抽象的な言葉では、消費者の心は動きませんが、このような具体的な行動を示すことで「BEST BUYがお客様を大切にしている」という姿勢が強く伝わってきます。
また従業員にとっても、「TWELPFORCE」という名前によってブランディングされることで、自分たちの仕事がお客様の役に立っているんだ、という誇りを得ることができたのです。
このキャンペーンは、マスメディア(テレビCM)との連動も秀逸でした。キャンペーン開始にともなって3パターンのCMがオンエアされました。
いずれも、競技場の真ん中でお客さんの代表のような人が、マイクに向かって一人で立っているシーンから始まります。スタンドは青いユニフォームを着たベストバイの従業員で埋まっています。お客さんが家電にまつわる質問を投げかけると、スタンドの従業員たちは我先に手を上げます。お客さんが指名すると、質問に対するアドバイスを答えてくれるのです。このキャンペーンのイメージを見事に視覚化したもので、非常にわかりやすいですね。
このキャンペーンは大きな話題になり、2010年のカンヌ国際広告祭でグランプリも受賞しました。では、何がここまで人の心を動かすのでしょう?それはこのプロモーションにストーリーがあったからです。
大よそ家電量販店は、基本売っている商品にあまり大差はありません。そうなるとお客さんは価格を中心に選ぶので、差別化しにくい業界です。しかし、本気になってカスタマーサポートに取りくむという企業の姿勢を示すことが、何よりもの企業ブランディングになったのです。
実際に質問して答えてもらった人はもちろん、そうでない人も、BEST BUYに対するイメージが高まりました。また、Twitterで誰もがその瞬間にストーリーに参加できるインタラクティブ性も、人の心を動かした大きな要因です。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のウェブコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)
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