米国発の次世代モバイル放送サービス「MediaFLO」の標準規格の作成や提案などを行うFLOフォーラムは10月28日、都内のホテルで「Asia 2007 FLO Mobile TV Product Demonstration Showcase」を開催。日本の放送通信関係者らに技術やサービスの最新動向を紹介した。
イベントでは、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合機構(DMC機構)特別研究准教授の岸博幸氏が「日本における通信と放送のあり方」について講演。「米国と比べて2周遅れている」という日本の現状について、問題点と今後の展望を述べた。
岸氏は、日本で放送と通信の融合が進まない理由について「放送事業者だけの責任にされがちだが、決してそんなことはない」と話す。「現状に満足して新たなビジネスに乗り出さない放送事業者にも問題はあるが、タッグを組んでビジネスを展開できるだけの国内ネットベンチャーがないのも事実。これは優良ネットベンチャーが複数存在する米国との大きな違い」。そのほか、広告会社や広告主の意識向上、歩みの遅い政府の対応などについても厳しい見解を示した。
ただ、そうした課題を踏まえた上で「あるタイミングで一気に融合が進むことになる」とも予測。ローカル放送事業者など広告収入の落ち込みが進むことで現状のビジネス展開に余裕がなくなれば、新たなビジネスに踏み出さざるを得なくなるとした。そのタイミングについては「3〜5年後では遅い」とし、いかに早めるかがポイントになると語った。
MediaFLOがビジネス展開を考える携帯電話での「融合」については「有力な出口のひとつ」とし、キラーコンテンツの明確化や高齢化社会におけるユーザー対応などを課題として提示した。特に高齢者を含めたユーザビリティについて「先般のNGN商用サービスに関するNTTの説明を見ても、明らかに供給側視点、技術目線の内容。一般利用者がわかりやすいユーザビリティを構築する必要がある」とキャリアの路線変更を促した。
また、サービスにおいて最も重要視されるコンテンツについては「ビジネスとして成立させる以上、必ずプロが制作したものが求められる」と指摘。コンテンツのネット利用において大きな壁となっている著作権対応については「ネット側からは権利緩和を求める声が挙がりがちだが、それは制作サイドにとって聞くに堪えない意見。クリエイターが報われる制度設計がなされなければプロ制作のコンテンツが流通することはなく、ビジネスとしては立ち行かなくなる」と権利保護確立の重要性を説いた。
岸氏は冒頭、MediaFLO関連イベントでの講演について「断ることも考えた」との胸の内を明かした。「実際に使ったことのないサービスを絶賛するのは難しい。また、前年まで総務省で放送・通信融合政策に携わっていた際、周囲からは散々『米国の手先』と言われた苦い経験があり、(MediaFLOイベントで)講演することで同じことを言われてしまうのではないかと思った」
講演本編においてMediaFLOサービスに関する踏み込んだ意見は出さなかったが、後半のパネルディスカッションで「複数のモバイルマルチメディア放送規格が存在する意義」を問われた際には「高齢化・人口減少が進む日本国内だけでビジネスを成立させるのは難しくなってくる。世界展開を考える上で、国産の放送規格(ISDB−T)だけに固執しない方がいい」と述べるなど、MediaFLOの日本進出について肯定的な見解を述べていた。
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