FBI、ネット経由の通信傍受実現を狙う--FCCに提案書を提出

Declan McCullagh, Ben Charny(CNET News.com)2004年03月15日 18時38分

 米連邦捜査局(FBI)は12日(米国時間)、警察による通信傍受に関する広範な提案を発表した。FBIはその中で、ケーブルテレビ回線やDSLなど、インターネットへのブロードバンド接続を提供する全てのプロバイダに対し、簡単に通信傍受を行えるようにするためのネットワークの変更を義務付けている。

 FBIが米連邦通信委員会(FCC)に対して行ったこの提案の目的は、警察があらゆる形態のインターネット通信に迅速にアクセスできるようにすることにある。仮に草案通り承認されれば、FBIによる通信傍受の権限は大幅に拡大され、ケーブル経由のブロードバンドサービス企業のコストが上昇し、さらにインターネット関連製品の開発も複雑になる。

 法律の専門家によると、85ページからなるこの提案書には、インスタントメッセージング(IM)やVoIP(Voice over Internet Protocol)プログラムから、MicrosoftのXbox Liveゲームサービスに至るまで、全てのアプリケーション/サービスに「裏口」を設置することを企業に強制するものと解釈し得る文言が盛り込まれているという。警察用の裏口のない新サービスの導入は違法となり、各企業には既存サービスをこの基準に確実に対応させるための期間として、15カ月間が与えられる。

 FBIは提案書の中で、「(通信傍受の)任務の重要性および緊急性はどんなに強調してもしすぎることはない」と述べ、さらに「今日、電子監視は極めて重要であるにもかかわらず、国家、州、地方の捜査当局の監視能力は危機的状況にある」と主張している。なお、米司法省や麻薬取締局も、この提案書を支持している。

 この通信傍受計画はブッシュ政権の支持も取り付けており、FCCはこの計画を極めて真剣に検討すると見られている。先月、FCCのMichael Powell委員長は、「捜査当局によるIP通信へのアクセスは必要不可欠」と主張し、さらに「(警察は)国家防衛に必要な通信インフラへのアクセスを確保する必要がある」と語った。

 FBIが今回の提案を行ったそもそものきっかけは、およそ1年前に、FBIのElectronic Surveillance Technology Section(ESTS)の代表者がFCCに接触し、各ブロードバンドプロバイダに対し、より効率的かつ標準化された監視設備の提供を義務付けるよう要請したことだった。FBIは、テロリストが捜査当局による合法的な通信傍受を回避するためにインターネット電話を利用する可能性があるとし、新ルール策定の必要性を訴えた。

 Steptoe & Johnson法律事務所のパートナーで、複数のインターネットサービスプロバイダ(ISP)の代理人を務めるStewart Baker弁護士は、「これは極めて重大な計画であり、インターネットや新技術の展開には非常に大きな負担となるだろう」と述べ、さらに「捜査当局はこの問題にかなり本気で取り組んでいる。この問題の背景には様々な思惑がある」と語っている。

 ブロードバンドサービスもCALEAの対象に

 今回のFBIの提案が承認されれば、1994年に成立・施行された「法執行のための通信援助法(CALEA)」が初めてブロードバンドサービスを販売するケーブルプロバイダに適用されることになる。CALEAは、通信事業者に対し警察の電子監視への協力を義務付ける既存法規の内容をさらに拡大したもので、自社ネットワークを利用してブロードバンドサービスを販売している電話会社はすでにこの法律を遵守している。

 さらにVonage、8x8、AT&Tといった主要VoIPサービスプロバイダにもCALEAの遵守が義務付けられる。

 VoIPサービスプロバイダ各社は、すでにFBIが取り組んでいるのと同じ問題の一部に対応するための、行動規範の作成に着手しているという。しかし、Free World Dialupの創業者であるJeff Pulverは、これがあくまで自発的な取り組みだと主張する。

 プライバシー擁護派は、FBIの提案がブロードバンドプロバイダのみならず、IMクライアントなどの通信アプリケーションを提供する企業も対象としていることに驚いている。

 人権擁護団体Electronic Privacy Information Center(EPIC)のMarc Rotenberg理事は、「(FBIの)主張は妥当性に欠ける」と述べ、さらに「FBIは新技術を統制する自らの権限がどこまで及ぶと考えているのかを、FCCは真剣に検討すべきだ。BluetoothやUSBはどうなるのか」と語った。

 Baker弁護士も、FBIの提案では、チャットプログラムやビデオ会議など、いかようにも「解釈」可能なIPサービスは全て電話として扱われることになってしまう、との見解に同意する。同弁護士は、「(FCCがこの提案に同意すれば)サービス提供前に、捜査当局と共にサービスの設計を入念にチェックする必要が出てくる。そうなれば順番待ちの長い列ができ、さらに政治も絡んでくる。ネット上での新サービスの導入方法が完全に変わってしまう」と指摘する。

 VoIPおよびPSST、X-IM、CryptIMといったIMシステムへの暗号化技術の導入がさらに進めば、FBIのCarnivoreシステム(別名DCS1000)といった通信傍受方法は次第に役立たなくなっていく。先月、Free World DialupのPulverおよびSkypeの創設者、Niklas Zennstromの両氏は、現在彼らのサービスでは警察による通信傍受を容易にするための措置は講じていないと語った。その理由として両氏は、VoIP通話は数万単位のパケットに分割されてインターネット経由で送信されるもので、各パケットが全く別のルートを取る場合もある(ため通話傍受は不可能)と説明した。

 この論争の引き金となったのは、Skype がPtoP音声アプリケーション経由でなされる全ての通話を自動的に暗号化したことだった。

この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向け に編集したものです。

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