「オープンソース生産の本質は“贈与”であり、資本主義システムには属さない“純生産”営為である」--これは、オープンソース運動の草分け的存在であるEric Raymond氏が著書「ノウアスフィアの開墾」にて述べた言葉だ。これは「私たちのような会社人間からは理解できないオープンソースの非資本主義的な部分だ」と、NTTコムウェア取締役兼ビジネス創出部長の長野宏宣氏。同氏はこの非資本主義的なオープンソースの本質を解明すべく、VA Linux Business Forum 2004にて基調講演を行った。
長野氏はまず、オープンソースが成立した背景として、60年代初頭にハッカー文化が生まれたことや80年代末からインターネットが発展したこと、その後パソコンが低価格になったことなどをあげ、「こういった背景のどれひとつが欠けてもオープンソースはここまでパワーを持たなかっただろう」と述べる。「生産手段となるPCを各開発者自らが持ち、インターネット上で共同開発ができる。さらに“贈与”の達成感があり、それがIT産業や経済システム全体に影響を与えているという事実は、開発者にとって大きなものだ」(長野氏)
NTTコムウェア取締役兼ビジネス創出部長 長野宏宣氏 |
ではオープンソースは、実際にどのような影響を与えているのだろうか。長野氏はふたたびRaymond氏の言葉を引用し、「店頭で販売されているソフトウェアのプログラミング作業というのは、世界で行われているプログラミング作業全体からみると氷山の一角でしかない」という。「つまりコモディティ化したソフトがすべてオープンソースとなっても、ソフトウェア産業全体の打撃とはならないはずだ」と述べ、「そのいっぽうでユーザーへのメリットはきわめて大きい」と主張する。
さらにRaymond氏の「オープンソースが成功した理由の一部は、その文化がプログラミング人口のトップ5%しか受け入れないからだ。インターネットで自薦のボランティアを募ったほうが、社員をビルに閉じこめて管理するよりも安くて効率がいい」という言葉から長野氏は、オープンソースの開発効率が非常に優れている点を指摘する。
こういったことから長野氏は、「オープンソースは開発効率が高く、品質もよい。その結果ユーザーの評価も高くなっている」と述べ、「今後もオープンソース活動は誰にも止められないだろう」という。
長野氏は今後オープンソースが進展していく分野についての予測を次のように述べた。まず、OSなどのコモディティ化したもの、あるいは今後コモディティ化するIT分野は、最終的にオープンソースに取って替わるだろうとしている。また、データベースや開発ツールなどもオープンソース化されると同氏は見ている。アプリケーションに関しては、オープンソース化されるのは中小企業用ERPなどの特殊な分野にとどまるだろうとしつつも、「アプリケーションの共通スタック部分などはどんどんミドルウェア化し、オープンソース化が進むのではないか」と述べている。
冒頭で長野氏が述べたように、一見資本主義社会と相反するオープンソースだが、IT企業もオープンソースを自社の戦略サイクルに取り込むようになったことを同氏は指摘する。Netscapeのように自社製品をオープンソースで開発したり、IBMのように自社製品をオープンソース化し、のちに別の自社製品にオープンソース化したものを組み込むといった例もある。長野氏はIBMの開発者が「自社製品をオープンソース化すると、優れたデバッグがなされる」と述べていることも指摘し、「今後もオープンソースとITプロバイダーの連携は活発化するだろう」と語った。
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