オープンソースコミュニティよ、蜂起せよ

 オープンソースの訴訟対策など、いん石の落下に備えて保険をかけるようなものだ--そう断じるのはまだ早い。

 法律関係者の多くは、SCOの主張は不当であり、まともにとりあう価値はないと考えている。しかし、この種の訴訟がすべて考慮に値しないわけではない。事実、状況はLinuxやその他のオープンソースソフトに対し、新たな訴訟が起こされる方向へと向かっている。

 まずは、次の問題を考えてほしい。

  • 米国の特許制度には欠陥があり、第三者が開発したソフトウェアを利用したという理由で、ユーザーを不当に訴えることができる。SCOによるAutoZoneの提訴はその一例だ。
  • IBMやRed Hatのような企業は、オープンソース市場から利益を得るようになった。しかし、ソフト開発の大半を担っている独立系の開発業者はそうではない。
  • ロイヤリティフリーでない特許が業界標準に利用されるようになった。たとえば、現在提案されているTCP/IP標準の変更案にはシスコの特許が含まれている。

 企業におけるLinuxの重要性が高まれば、技術や価格面で劣るプロプライエタリソフト企業は、競争優位を確保するために法廷を利用するようになるだろう。所有権があいまいなLinuxの場合、一枚岩の抵抗を受けずに、開発者を個別に攻撃することができる。「小さな傷も積もり積もれば死に至る」というアプローチで、フリーソフト運動にブレーキをかけようというわけだ。

 SCOの訴訟は、ばかげた訴えでも世間が騒ぎ、株価が40倍に跳ね上がることを証明した。実際、この値上がりがなければ、SCOは訴訟費用を捻出できなかっただろう。オープンソースコミュニティはこの教訓をもとに、次の攻撃に備える必要がある。次の攻撃はMicrosoftか、あるいはその周辺から来ることになるかもしれない。

 著作権や企業秘密法も懸念事項だが、オープンソースにとってもっとも重要なリスクは、ソフトウェア特許に関するものだ。米国政府は飽きもせずに発明とは呼べない技術に特許を認め、紛争の解決は裁判所任せにしている。特許訴訟を起こされた場合にかかるコストが特許1件あたりおよそ250万ドルであることを考えると、特許の正当性を法廷で争うのは経済的ではない。勝つのはほぼ常に潤沢な資金のある方だ。個人のオープンソース開発者が不利であることは目に見えている。

 金のかかる法廷闘争で争うくらいなら、発明と呼べない技術であってもロイヤリティを支払う方が経済的だと考える企業も増えた。標準化団体は特許で保護されたアルゴリズムをインターネットの標準に用いるようになっている。いずれはインターネットユーザー全員に使用料が科せられることになるかもしれない。しかし、オープンソースにとって特許使用料は死活問題だ。オープンソース開発者はユーザーに特許使用料を請求していないので、特許の保有者にロイヤリティを払う資金もない。

 誰もが危機に直面しているわけではない。小規模なLinuxユーザーなら心配は無用だ。金も知名度もない相手を追い回すメリットはない。しかし、大きな資金力を持つ有名企業は、利用しているソフトがオープンソースか否かに関わらず、危険にさらされている。

 一方、個人のフリーソフト開発者は金はなくても攻撃の標的になる。競争力のあるフリーソフトの開発や配布を制限するために、プロプライエタリ企業が裁判所を利用するかもしれないからだ。ほとんどのオープンソース開発者は一日分の法廷費用もまかなうことはできない。それを考えると、こうした訴訟はたとえどんなにばかげたものであっても、個人の開発者に打撃を与えることになる。

 では、身を守るためにはどうすればいいのか。

 まずは米国のお粗末な特許政策と、欧州がITセクターに押しつけようとしている同種の政策を阻止することだ。そして中小のプロプライエタリソフト企業と共同戦線を張る。IT経済の80%を占める中小企業は、オープンソースコミュニティと同様に、多大な損害をこうむる危険性にさらされている。

 オープンソースソフトを使っても損失にはならないという自信を、企業に深めてもらうことも重要だ。一部のプロプライエタリソフトベンダーは自社のLinux顧客に補償を提供し、特許侵害で訴えられた場合は補償金を提供するとしている。しかし、中小のソフトウェア企業が同じことをするのは資金的に難しいだろう。それに、大手ベンダーの補償を受けるためには、顧客は保護と引き換えにオープンソースの自由(たとえばコードの書き換え)を放棄しなければならない。防御基金も登場した。これは注目に値する試みだが、2、3の訴訟に対応すれば、資金はすぐに底をつくだろう。

 手強い訴訟を限りある防御基金と拘束的な補償で切り抜けることはできない。しかし、脅威がないふりをするのも得策ではない。こうした防御策や保険の登場は、フリーソフトを利用する企業が増え、フリーソフトが企業コミュニティで重要な役割を果たすようになったことの現れだ。オープンソースコミュニティにとって、企業ユーザーは頼みの綱でもある。オープンソースを開発・利用する権利を維持するためには、企業コミュニティの政治的圧力が大きく物を言うからだ。2つのコミュニティはお互いを守っていかなければならない。

 われわれに必要なのは、コミュニティが一丸となって、オープンソースの防衛組織を作ることだ。この組織は十分な資金とベンダー中立性を持ったものでなければならない。資金は利害の衝突するベンダーではなく、主に企業ユーザーから調達する。また、最小限のコストと最大限の知識で訴訟に臨むためには、オープンソースの法的防御に取り組んだ経験のある既存のコミュニティと、幅広く連携する必要もある。

 リスクの緩和には積極的に、補償にはベンダー中立の姿勢で取り組まなければならない。コミュニティの資源を一カ所に集約することが、潤沢な資源を持つ侵略者--たとえばMicrosoft--に打ち勝つための唯一の道となるだろう。

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