続いてのセッションでは、「オープンソースの社会貢献と起業家的事業創成」と題して、京都大学経済学部助教授の末松千尋氏が講演を行った。まず、「いかにしてお金を儲けるか」という点について言及する。「金儲けをきゅうきゅうと一生懸命やったところで、得られるのは小金くらいだ。それで幸せだろうか?それよりは、自分の好きなこと、やっていて楽しいこと、自分の信念を貫いていて、ある時、社会がひっくり返って自分の土俵となったとき、濡れ手に粟の状態になることが理想」と語る。持続的なしっかりとしたベンチャー企業は、信念や哲学というものをきっちりと持っているという。「オープンソースの活動とは、まさに信念や哲学に基づいた活動といえる」と評価する。
京都大学経済学部助教授の末松千尋氏 |
末松氏は「取引コスト」という概念を説明する。A社とB社の間で何らかの取引をする場合に発生する全てのコストを網羅したものが取引コストだ。まず始めに必要なコストは、接続コストだ。接続のコストにはシステム的な側面と組織的な側面の2つが存在する。接続の次に発生するのは、相互理解のコストだ。相互理解の段階では、商品の探索と発見、商品に関する説明と理解のステップが存在する。末松氏は「この段階は、多くの人が簡単にやっているように見えるが、実はものすごくコストがかかっている。そのことに気がつく人は少ない」と語る。
次に発生するコストは交渉のコストだ。価格や導入条件などといったことを交渉して、合意し、そして契約するというプロセスは非効率で長い。「このプロセスは、標準化や自動化をすることで、大幅にコストを下げることができる」という。それから決済のコストに移行する。決済の分野では標準化がかなり進んでいるため、コストをかなり抑えることができる。最後に発生するのは、商品をA社からB社へと引き渡す物理的な移動に関するコストだ。インテグレーションやコンサルティング、アフターサービスもここに含まれる。
このように見知らぬA社とB社が何らかの関係を持とうとすると膨大なコストが発生する。これを回避するために行われてきたのは会社を作ることだ。「会社を作ることで、自分に近い人材を集め、阿吽(あうん)の呼吸であるとか、暗黙知であるとか、『いつものやつ』という言葉を使うことで、取引コストを無視して効率を上げることができる」と末松氏は説明する。
まず、アマゾンや楽天といったeマーケットプレースを見てみよう。末松氏は「多くのBtoBマーケットでは、1つのサイトを構築することで、会員の認証などを簡略化し、接続コストを下げることに成功している」と分析する。また電子カタログは理解のコストを引き下げている。オークション形式は、価格の交渉という面において、コストを下げることに貢献している形式だ。決済に関しては、クレジットカード決済を利用することで効率を上げている。末松氏は、「このようにさまざまな機能を提供することで、取引コストを下げることに成功している。この結果、オープンな環境を顧客に提供することができるので、さまざまな商材の調達が可能になっている」と語る。
XMLを活用して企業間サプライチェーンマネジメントを提供するロゼッタネットについても言及する。XMLを使うと、プラットフォームに依存することなく接続を簡潔に行うことができる。これに加えて、ロゼッタネットが持っているプロトコルによって、セキュリティなども提供する。データの説明・理解についてもXMLの得意分野だ。交渉そのものに関する機能をXMLは持っていないが、ダイナミックなXMLのリンケージを使うことで、交渉のコストを下げることは可能だ。受発注のコストに関してもXMLを援用することでコストを下げることができる。
「オープンソースは、取引コストを下げることに関しては素晴らしい能力を発揮する」と末松氏は評価する。交渉や受発注に関しては、GPLなどのライセンスが決まっているため、「交渉はする必要がない。受発注も必要がない。取引コストがないということは、取引が非常にやりやすいということだ」と語る。接続や相互理解に関しては、少し専門性が高いと指摘。「今後、一般の人をどんどんと取り込むことで、オープンソース活動の可能性がある」と改善点を挙げる。「オープンソースは公開しているという点が素晴らしい。アイデアや情報が世界中を駆け回って、それに新たな人がアイデアや情報を付け加えて、さらにそれも自由に利用することができる」と末松氏は高く評価した。
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