長らく事実上のインターネット標準となっている米Adobe SystemsのPDFフォーマットが、電子ドキュメント市場への参入を狙う競合メーカーの攻撃にさらされている。
建築・エンジニアリング向けの製図ソフト大手の米Autodeskは、最近、積極的な広告キャンペーンを展開し、文書を共有する際にはAdobeのPDFではなく、AutodeskのDWF(Design Web Format)フォーマットを使用するように、同社ユーザーに呼びかけている。
また、米MacromediaはFlashPaperを発表したが、これは同社の広く普及しているFlashアニメーションフォーマットに基づく新しいコンポーネントで、これを使えばドキュメントを簡単にウェブページに組み込んだり、印刷できるようになる。
さらに、ウェブデザインに関して大きな影響力を持つライター、Jacob Nielsenは、先頃ウェブ上でのPDFの氾濫に攻撃を加え、ウェブでドキュメントを表示するフォーマットとしては「人間が見るのには適していない」と言い放った。
Adobeは先週、大幅な収益の増加は今年前半に発売した一連のPDF関連製品に負うところが大きいと発表したばかりだが、そんな同社にとっては、とても重要な時期に、各方面から挑戦を受けたことになる。
PDFの評価は、PCの世界でしっかりと確立しているが、「真の脅威が出てくる可能性は常にあると思う」と、米調査会社Yankee Groupのアナリスト、Rob Lancasterは述べている。「PDFの魅力のかなりの部分は、閲覧ソフトとしての偏在性にあるが、Adobeは、PDFの機能を通常の閲覧ソフトの枠を越えたものに拡張することで、ビジネスアプリケーション分野でPDFの立場をゆるぎのないものにしようとしている」(Lancaster)
AdobeのePaper部門でテクノロジー戦術を担当するChuck Meyersは、PDFに対する最近の攻撃は、同社がこのフォーマットを普及させることに成功したことの証拠だ、と分析している。
「ここで重要なことはPDFが一層普及し、機能が向上するにつれて、この分野そのものが以前にも増して面白いターゲットとなってきている、ということだ。我々はさまざまな方向から攻撃されている」(Meyers)
最も辛らつな攻撃はAutodeskからのもので、同社の新しい広告・マーケティングキャンペーンは、エンジニアリング用ドキュメントを交換する際に問題となるPDFの欠陥に集中している。このキャンペーンは、Adobeにとって、ちょっと意外な展開だ。同社は、PDFオーサリングツールの新しいハイエンドバージョン、Acrobat Professionalで、Autodeskの主要製図アプリケーション、AutoCADとの互換性を重要な売りにしている。
AutodeskでDWF企業戦略を練る責任者のTony Peachは、今度のキャンペーンは、エンジニアリング用ドキュメントを交換する最もよい方法は何かと尋ねてきた、ユーザーからの問合わせから生まれてきたと述べている。
「エンジニアリング用ドキュメントのビジュアルデータはとても密度が濃いものになるが、PDFはそうしたデータをどう扱ったらいいのかわからない。この問題は、PDFがもともと紙をベースにして考えられた平面的なデータを扱うものだからという面もある。それに比べると、エンジニアリングのデータは3Dで、またエンジニアはこれに対応できるフォーマットを必要としている」(Peach)
代替フォーマットの開発
Autodeskでは、この問題への答えは、自社で7年前に発表していたDWFフォーマットを拡張することにあると判断した。このフォーマットを主要アプリケーションでも使いやすいものに変え、さらにそれを中心にした新しい製品を開発する。さらに、同社はついでに販促プロモーションをかけることも決めた。
「Adobeは、我々の得意とする分野を対象に、とても積極的なマーケティングを展開している。だから、我々としては、既存ユーザーに自分たちの主張を伝えるしかない」(Peach)
Autodeskは、基本的なDWFファイルを作成、閲覧するための「Autodesk Express Viewer」を無料で提供している。しかし、今回のキャンペーンを通じて、同社は追加のアノテーションとレビュー機能を備えた49ドルのアプリケーション「Volo View」と、さらに将来発売する予定の、コラボレーションツールをさらに追加した製品の売り込みを狙っている。
「これは、我々にとって新しい分野だ。これまでは描画ツールだけを販売してきたが、いまはコラボレーションツール分野にも進出する。この分野には、かなりはっきりとしたニーズがあることがわかっている」(Peach)
AdobeのMeyersは、PDFをバッシングすることでDWFを売り込もうというAutodeskの判断に、やや戸惑いを感じていると述べた。同氏は、エンジニアや建築家が、やりとりする相手や共有しようとするドキュメントの種類に合わせて、両方のフォーマットを使い分けたいと思うはずだと述べた。
「AutoDeskがPDFを脅威と感じていることは、とても明らかだ。ただし、我々としては、PDFとDWFは互いに補完し合うものだと考えているのだが」とMeyers。「AutoDeskがDWFを使って何をしようと、それでPDFが利用が減るとは思わない」。
目立つPDFの誤用
AutodeskのPDF攻撃キャンペーンは、製図・デザインのプロフェッショナルという特定グループに的を絞っているが、いっぽうウェブユーザビリティについて多くの書物を出版しているウェブコンサルタントのJakob Nielsenは、もっと幅広い攻撃を展開している。
先頃自らウェブサイトで発表した論文のなかで、同氏は、ウェブのいたるところで、PDFが非常に誤まった使われ方をされていると記している。PDFが本当に必要となるのは、文書を印刷したい場合だけなのに、無料のAcrobat ReaderソフトでPDFドキュメントを開くのに長時間待たされ、また開いた後も複雑なページ構成になったドキュメントのなかを進んでいかなければならないという。
ユーザーのウェブ上での行動を調べるために、いくつかの調査を行った同氏は、不適切な使われ方をしたPDFのせいで、サイト全体がダメになると指摘している。
「ユーザーは、PDFに出くわすたびに、迷ったり、必要な情報を見つけられないでいる」(Nielsen)
同氏は、ウェブ上のPDFの使用目的を文書印刷に限定し、その旨をはっきり示すべきだと提唱している。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。
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