米Adobe Systemsの『Acrobat Reader』ソフトウェアは、パソコンの世界では希有な存在の1つだ。業界大手の米Microsoftとは何の関係も持たずに、事実上の標準となっているからだ。
Acrobat Readerは5億本以上流通している。そしてAdobeはこの状態を維持したいという考えだ。Acrobat はどんな形式の文書でもPDF(ポータブル・ドキュメント・フォーマット)ファイルに変換する。このためあらゆる機器で閲覧や印刷ができる。もとの書式は崩れることなく、内容の改ざんを防げられるという利点もある。コンピュータを持っていれば、 無償配付のソフトウェア『Acrobat Reader』を利用して、このPDFドキュメントを閲覧、印刷できるのだ。
Adobeは今後数カ月間のうちに、PDFを多数の機能を備えたビジネスツールに拡張する方針だ。
しかし同時に、MicrosoftもAdobeの支配する市場の一角に食い込む計画を進めている。
Microsoftは今年、『XDocs』を発表した。XDocsは『Office』の拡張機能として、一般の企業ユーザーに基本的なオンラインフォームを容易に作成させるソフトウェアだ。当初はPDFキラーとなる可能性があるとして鳴り物入りで宣伝されていたが、アナリストの間でその評判は落ちつつある。今、アナリストの見方の大半は、Adobeの事業のごく一部でしか競合しないというものとなってしまった。
さらにMicrosoftは、先月開かれた『タブレットPC』用ソフトウェアの発売記念イベントで、他の方法による計画の可能性について示唆している。ビル・ゲイツ会長はイベントで、将来の タブレットPCアプリケーションには、『ePeriodicals』が搭載されるだろうと述べている。ePeriodicalsは同社の『Reader』ソフトウェアをXMLベースで拡張するソフト。これによりパブリッシャーは雑誌の電子版を巧みに作成できるようになるという。ちなみにMicrosoftはePeriodicalsの具体的なリリース日程については明らかにしていない。
アナリストは、Microsoftが出遅れたと指摘している。Adobeの縄張りに進出するには時期が遅すぎるというのだ。
調査会社の米Directions on Microsoftの主席アナリストであるポール・デグルートは、「Microsoftがこの市場をAdobeに独占させるままにしてきたことに驚いている。世界のビジネス文書の80%以上がMicrosoftの.doc形式で作成されている。しかし、文書を交換する必要が生じた際、コンパクトでダウンロードしやすく、安全に交換できるという方法がない。フォントやフォーマット、レイアウトをすべて維持できる方法もない。 Adobeは10年前からこの種のフォーマットの必要性を知っていた。そして、同社はそこに投資したのだ」と語っている。
なおこの件についてMicrosoftからのコメントは得られなかった。
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