解説:東芝SARVH訴訟判決のもたらす「結果」とは

 メーカーの補償金支払いには法的義務なし--デジタル放送専用端末への私的録音録画補償金をめぐる東芝と私的録画補償金管理協会(SARVH)の一審判決は、SARVH側の損害賠償請求を退けたという意味で「形式上」東芝の勝利に終わったようにも見える。

 しかし、複製回数を制限する「ダビング10」が適用されるデジタル放送専用録画機であっても補償金対象機器と認定したことは「著作権保護技術があれば補償金不要」という東芝側のロジックを覆すものであり、むしろ事態は混沌としてきたともいえるだろう。

 今回の判決は「デジタル放送専用録画機も補償金対象ではあるが、その徴収においてメーカーが協力するか否かはメーカーの判断次第」としたわけで、少なくとも裁判によって支払い請求が成立するものではないことは示されたものの、東芝がデジタル放送専用録画機に限って支払い拒否をする理由は損なわれてしまった。

 また、支払い義務の法的執行を免れたのはあくまでメーカーであって、機器の購入者までもが対象外となったわけではないことにも注意が必要だ。判決後の原告代理人会見の席上、協力義務を訓示規定とされたことに「東芝が誰に機器を売ったのかをすべて教えてもらい、そのひとりひとりから徴収しろということか」(原告代理人で弁護士の久保利英明氏)と反発したが、現実的ではないにせよ、その可能性がゼロというわけではない状況を示している。

 一見勝利を手に入れたようにみえて、何らかの対応を迫られることになった東芝。すべての支払いを取りやめるのか、これまでどおりデジタル放送専用録画機のみ支払いを拒否するのか、はたまた支払いに応じる形で和解に応じるのか。取材対応コメントを「損害賠償請求が棄却されたという点については妥当な判決だと判断している。具体的な判決内容についてはよく精査し、今後の対応について検討する」の一点に絞っていることからも、置かれた立場に苦慮する様子をうかがい知ることができる。

 今後の展開としてまず注目すべきは「控訴の有無」。弁護団は即日控訴の方針を示し、いったんは手続きに入ることが予想されるが「具体的な問題が解決したときに訴訟だけをやる必要があるかどうか、検討する必要がある」(久保利氏)と、該当機器との判決を受けて東芝が支払いに応じれば和解を受け入れる可能性も示唆した。

 事前には「どちらが勝っても最高裁まで争うことになる」(12月24日、CULTURE FIRST記者懇親会にて。社団法人日本芸能実演家団体協議会実演会著作隣接権センター運営委員の椎名和夫氏)と見られていた展開が、いわば「痛み分け」ともいえる判決によって別の局面を生みつつあるのは事実だろう。

 なお、本件はSARVHを原告とする損害賠償請求であり、判決としては原告側の訴えが棄却されたことになるため、東芝から判決を不服として控訴を申し立てることはできない。原告代理人は期限の問題などからいったんは控訴に踏み切る方針だが、まずは「該当機器とする」とした判決をどう評価するのか、SARVHの判断にも注目が集まる。

 久保利弁護士は、今後の展開について3つのポイントをあげた。ひとつは「訓示規定だから補償金を支払わない、という発想があっていいのか」という点。「企業コンプライアンスの観点からは考えられない」とけん制したが、あくまでメーカー側の判断にゆだねられる判決が出されたため、控訴の有無においても最も重要なポイントだ。

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