垣間見えてきた新聞社のネット戦略--MSN産経ニュースの場合

別井貴志(編集部)2007年10月04日 08時00分

 2007年は世界の巨大メディアが大きく動いた年といえよう。5月には、News Corp.によるDow Jonesの買収、ThomsonによるReuters買収と相次いだ。

 こうした流れがあってか、日本でもマイクロソフトのMSNが、毎日新聞社と共同で運営してきた「MSN毎日インタラクティブ」を9月30日に終了することを6月に発表して以来、新聞社を中心とした巨大メディアの次世代オンライン戦略が水面下で着々と進行した。

 そして、この戦略の一端がここに来て次々と明かされた。毎日新聞社は、ニュースセレクトとエンターテインメント、ライフスタイルという3カテゴリーで構成した総合情報サイト「毎日jp」を10月1日に新たに開設。MSNは、MSN毎日インタラクティブに代わり、新しく産経新聞社、産経デジタルをパートナーに迎え「MSN産経ニュース」を同じく10月1日から開始した。

 さらに、日本経済新聞社、朝日新聞社、読売新聞グループ本社の3社も10月1日に、インターネット分野の共同事業と新聞販売事業に関する提携を発表した。このほか、日本テレビと読売新聞が、フリップ・クリップと組んで一般の読者や視聴者からニュース画像や映像を投稿してもらう「みんなで特ダネ!」を9月20日に開設するという動きもあった。

 自社の独自運営に戻ったメディア、異業種企業と新たに手を結んだメディア、同業他社と協力したメディア、グループ内の連携を強化したメディアなど、さまざまだ。

 こうした中で、具体的な展開として口火を切ったかたちともいえるマイクロソフトと産経グループはどういった戦略なのか。MSN産経ニュースが誕生するまでの経緯から、日本の新聞社の状況が垣間見える。

マイクロソフトの執行役オンラインサービス事業部事業部長である笹本裕氏 「マイクロソフトからアプローチした」とマイクロソフトの執行役オンラインサービス事業部事業部長である笹本裕氏

 2004年4月5日からスタートして、約3年半共に歩んできた毎日新聞とたもとを分けた理由について、マイクロソフトの執行役オンラインサービス事業部事業部長である笹本裕氏は、「毎日新聞社がフォーカスしたかったのは紙媒体で、我々とは進む方向性が異なった」と説明する。そこで、マイクロソフトのほうから産経グループにアプローチしていった。産経を選んだのは、「新聞社の中では比較的ネットに力点をおいていたし、いろいろな新しい試みにチャレンジする社風もあったので非常に相性がよかった」(笹本氏)と言う。

 産経新聞社はデジタルやオンラインへの対応を進めるべく、「Sankei Web」(現在はMSN産経ニュースに)や「SANSPO.COM」などを運営するデジタル事業部を「産経デジタル」として2005年11月に分社し、同社は2006年2月から本格的な事業展開を始めた。そこで、まず手がけたのがユーザー参加型の新オンラインメディア「イザ!」だった。

 産経デジタルの代表取締役社長である阿部雅美氏は「分社し、イザ!を開始してもなかなか意識は変わらず、編集部の現場では紙とネットで非常に厚い壁がある」と振り返った。そこには、どうしても紙を作ってきたという新聞社の長い歴史がある。

 たとえば、新聞記者は新聞の締め切りに合わせて仕事をする。具体的な例としては、原則として午後2時に起きた事象があった場合にこれを夕刊には載せられないし、載せてはいけないという業界内の掟がある。つまり、この時刻に起きたことは次の日の朝刊にしか掲載できないのだ。では、朝刊の最初の締め切りが午後8時だとすると、まだ6時間も時間があるため、その間に他のことをやっていても、極端なことをいえばどこかで時間をつぶしていてもいいわけだ。

産経デジタルの代表取締役社長である阿部雅美氏 「報道の本道を行く」と語る産経デジタルの代表取締役社長である阿部雅美氏

 「ネットの1つの特性として、いつでもどこでも新しい情報に接することができるという点があるが、新聞社の体内時計はこうして培われてきたし、ネットのことはまったく頭にないので社全体から見ればスピード感というよりは、なるべく早く出そうとする感覚がなかなか植えつかない」(阿部氏)という背景があり、デジタルに対する意識改革は分社したあともついて回る課題だった。

 しかも、阿部氏が「当時調査した結果、Sankei Webは競合する一般紙のウェブサイトの中で記事数や記事を掲載するまでの時間など、恥ずかしい話だがもっとも弱かった」と言うように、競合他社に比べても劣っていたので、意識改革を進めることは待ったなしの状況だったわけだ。

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