ソフトバンクの業績回復は本物--携帯電話は「5年10年かけてじっくりと」 - (page 2)

別井貴志(編集部)2005年11月10日 22時11分

 この一方で、ソフトバンクグループのBBモバイルは、11月9日に総務省から1.7GHzの周波数帯で携帯電話事業への新規参入が認められ、翌10日には携帯電話事業の認定書が交付された。

 孫氏は、「今日、総務大臣から携帯電話の新規参入事業者として認可をいただいた。これは、ちょうど現在の総務大臣の3代前の総務大臣のときから携帯電話の無線周波数帯をいただきたいということをお願いしてきたものだ。7、8年前から念願にしてきた。それがやっといただけて、大変うれしい」と、感慨深く認定書を掲げた。

 決算説明の中では、W-CDMA(3G HSDPA)とWiMAX、Wi-Fiのネットワーク間をハンドオーバー(自動切り替えしてしても音声や動画、データ通信がとぎれない)する実験(1.7GHz帯)に世界で初めて成功したことが発表された。そのため、孫氏は「12月に総務省が2.5GHz帯でWiMAXの免許申請を受け付けるので、これに申請してぜひ認可をうけ、今回の実験による“トリプルハンドオーバー”もサービス化していきたい」と意気込んだ。

 だが、ソフトバンクの業績がこの4年間落ち込んだのは、ADSLや固定電話のインフラ事業での先行投資が負担になったためだ。今回新たに参入した携帯電話事業もインフラ関連事業だ。せっかく回復した業績も、再び新規事業の投資負担で落ち込んでしまうのか。また、すでに既存3社が熾烈な競争を展開している携帯電話事業に後発として参入して、そもそも勝ち目はあるのか。この点について孫氏は慎重に言葉を選びながら説明した。

 まず、今回新規参入が認められた他社であるイー・アクセス(関連記事)とアイピーモバイル(関連記事)が、サービス開始時期やその内容、戦略、投資額、資金調達方法、目標ユーザー数などを公表する中で、孫氏は「これから参入するので、どんな数値目標を掲げたところでそれはやってみないとわからない」「詳細な戦略は企業秘密なので語らない」と、具体的な内容については多くを語らなかった。

 「ADSLに参入したときにいつまでに100万回線と目標を掲げたが、数か月遅れただけで多くのメディアの皆さんに約束違反だと批判を受けた記憶がある。新しい事業については、数値目標について軽々にコメントしたくない」と過去の苦い経験もその背景にあるようだ。

 それでもイメージ的には、「我々の市場への参入の仕方は、いくつかのメニューを提供していく。価格の安いものもあるが、価格だけで勝負するのではなくて、サービス、技術の内容でより高付加価値のものを出していく。たとえば、トヨタは軽自動車を出しているが、高級車も出している。このようにいくつかのモデルを出していく」と孫氏は言う。

 携帯電話市場についてソフトバンクでは、まだまだ展開する余地があると考えている。ADSLやCATV、FTTHなどの固定ブロードバンド市場の規模は売上高で7600億円、営業利益で数百億円と想定しており、そこに495社以上がしのぎを削っている。これに対して、移動体通信市場の規模は売上高で8兆5000億円、営業利益で1兆3000億円と見ている。売上高で固定ブロードバンド市場の11倍もあるが、NTTドコモ、KDDI、ボーダフォンのたった3社が競合しているのみで、「利益プライベート倶楽部のような寡占状態でうらやましい限りだ」(孫氏)と皮肉っている。

 また、孫氏は携帯電話の市場規模は8兆5000億円よりも大きいと考えており、すでに日本の市場は飽和状態にあるのではないかという指摘を一蹴している。約9000万台の携帯電話端末が流通しているといっても、人口の100%を超えて普及している国が増えていることを例に挙げ、ビジネス用と個人用を使い分けて、1人で2台、3台所有するユーザーが今後増えることを念頭に入れているのだ。

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「大変うれしい」と、感慨深く携帯電話の新規参入認定書を掲げた孫社長。

 孫氏は「我々がADSLを開始した時に多くの専門家は価格破壊だと評価し、その価格はさらに下がっていき、市場は価格競争で小さくなっていくと予想されていたが、実際はYahoo! BBの1ユーザーあたりの平均売上高は創業以来着実に伸びてきた。四半期単位ではずっと右肩上がりだ」と、経験則も交えた。Yahoo! BBと同様に、携帯電話事業でも基本サービスは安くていいが、付加価値サービスを複合的に乗せていくことで、1ユーザーあたりの売上高、利益を向上させることはできるというわけだ。

 すでにソフトバンクは1100万回線の固定回線の顧客を有し、約3000万人のユーザーがその通信サービスを利用している。このほか、Yahoo!のユーザーが4000万人近くいる。こうしたユーザーに訴求していくことで、携帯電話事業もまったくのゼロから顧客を積み上げていくわけではないと考えており、番号ポータビリティが開始されることもプラスと考えているようだ。しかし、こうした一方で、携帯電話事業においてインフラを構築するのも、コンテンツやサービスを開発していくのも時間がかかることは認めている。

 孫氏は、「1、2年で無理して立ち上げようと思うと獲得コストの単価が相当無理したかたちになる。今回は急激に無理したかたちで、高い顧客獲得コストで追い込んでいかなくてもいいのではないかと考えている」とし、「むしろ、5年、10年かけて、あるいは20年かけてじっくりと育てていく。優れたサービスでより適切な価格で提供すれば、無理せずにそれなりの規模のマーケットシェアをとれるのではないか」と、やはり慎重な姿勢だ。

 それは、投資負担によって4年も業績が低迷したためだろう。孫氏は「どちらにせよ、せっかく利益が出るようになったので、連結の利益を出しながら1歩1歩携帯電話の事業を積み上げていきたい。従って、また、どかーんと赤字を出して携帯事業に取り組むというかたちは考えていない」と明言した。

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