「現地のトップを採用することで、販売店のほうからNECに近寄ってくるようになった。今まで欧米製品を扱っていた代理店がNECに傾いてきている」---日本電気 取締役常務の中村勉氏は、今年5月にNEC通訊の責任者に就任した盧雷氏についてこのように語る。
NECは中国での携帯電話事業を強化するため、5月に体制を変更した。中国向けの商品企画から開発、生産、販売、保守までを一括して手がけているのがNEC通訊だ。
日本電気 取締役常務の中村勉氏 |
これまでの中国事業について中村氏は、「NECは交換機や半導体など、世界に先駆けて中国市場に参入していたが利益には結びつかなかった。一方で、欧米企業は後発にもかかわらずきちんと利益を得ている。これは、日本人が製品を考え、コントロールしていたからだ。これでは消費者の心がわからず、門前払いを食らってしまう」と総括する。
中国人の盧氏をトップに迎えたことで、販売店の反応は一気に変わったという。「まだ(盧氏がトップについて)1カ月ほどだが、反応はすさまじい。今後は他の日本企業も追随するのではないか」(中村氏)と手応えを感じているようだ。
NEC通訊では盧氏だけでなく、企画開発部門や営業部門、販売部門などでも現地採用の人員をトップに据えているという。ここには人脈を生かして市場動向をより正確に見極め、開発リスクを減らしたいという思惑もあるようだ。「市場予測の精度を上げるには、通信事業者からいかに情報を取るかが課題となる。今まで海外では情報がなかなか入ってこなかったが、さまざまな部門のトップに現地の人を採用することで顧客との関係を高め、情報の精度を上げていく」(中村氏)
「2001年から2002年にかけて世界的に在庫過剰になり、各社の経営に大きな損失をもたらした。今は日本・中国で体制が整ったほか、欧州でもオペレータからの情報が取れるようになり、リスクを抑えた事業展開ができている」(中村氏)
2005年度には中国での出荷台数を300万台に
NECの2003年度モバイルターミナル事業の売上高は前年比66%増の7297億円。携帯電話の出荷台数は前年比64%増の1550万台となっている。なかでも海外の出荷台数は前年比5倍となり、全出荷台数の30%弱を占めるまでに成長した。中国での出荷台数は約100万台という。
2004年度は国内出荷台数を前年比10%減と見込んでいるものの、海外出荷台数は同2倍と強気の見通しだ。全体では同20%増の成長を目指す。中国市場の見通しについては、「昨年から今年にかけて需要は堅調に推移している。2010年の上海万博までは堅調に続くだろう」(中村氏)という。
2004年度の中国における出荷台数は前年比2倍の200万台、2005年度は300万台と予測している。「3年後にはトップ3に入りたい」(日本電気 執行役員兼モバイルターミナル事業本部長の大谷進氏)
「中国では人口が多く、選択肢の幅を広げることが重要になる」(中村氏)として、今後は販売機種数を拡大する。「中国での利益率を伸ばすためには、市場に即した製品が出せるかが大きなポイントだ。 “下手な鉄砲も数打ちゃ当たる”ではないが、1発当たれば大きな利益が出るため、いろいろな製品を出していきたい」(中村氏)
端末はハイエンドやミッドレンジに特化
NECが今後の事業展開として掲げるキーワードは2つ。「選択と集中」、そして「持たざる経営」だ。選択と集中については、「確実に勝てる市場、つまりハイエンドやミッドレンジに特化する」(中村氏)方針。価格競争に陥りがちな低価格帯には手を出さず、収益性を確保する。
その一例が3月に発表したカード型端末のN900だ。現在の出荷台数は3〜4万台といい、「価格を落とさないように高級通販などにチャネルを限ったため、爆発的に売れたというところまではいっていないが、NECのブランドイメージ向上に大きく貢献した」(中村氏)。NECにとって未開拓市場の中東諸国から高値で引き合いが来るなどの副次的効果もあったという。
もう1つの持たざる経営とは、アウトソーシングの活用だ。生産委託会社やデザインハウスを積極的に活用することでリスクを低減する。「日本のリソース不足を中国で補う」と中村氏は話しており、中国をグローバルモバイル事業の中心と位置付ける。欧米市場向けの製品は、商品企画・開発を日本が担当するものの、生産はNEC通訊や生産委託会社が担当する。「中国市場向けの製品をベースに、欧米向けにカスタマイズする形を取る」(中村氏)という。NECがコントロール権を握ることで、技術やノウハウなどのコアコンピタンスは保持する考えだ。
販売面では、NECブランドの強化に向け、NEC専用棚とNEC専属の説明員を配置したコアショップの拡充や、NECコーナーの設置を中国で進めていく。コアショップやNECコーナーのある店舗は現在約800店だが、これを2004年度には2000〜3000店に拡大する。
「モバイル事業の利益率は現在約10%だ。コンピュータと通信の融合時代に向け、さまざまな開発投資を行っているため、NokiaやSamsungのように利益率20%というところまではいっていない。ただ海外が軌道に乗ればかなり高い利益率が見込めるのではないか」(中村氏)
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