“EdTech”は企業内教育を劇的に変える

篠崎功(D2Cソリューションズ)2015年06月16日 08時00分

企業内教育のデジタル化は、まだ始まったばかり

 現在のEdTech市場の状況を例えるならば、1995年当時のホームページ元年の様相であると言えば分かりやすいだろうか。

 1社1社に提案し、しっかりとその効果を説明していく。「それって効果あるの?」「他社もやっているの?」「それで売上はどれだけ上がるの?」。そんな声が聞こえる。そうした疑問に的確に答えられたときにだけ、企業は導入を決意する。マーケットのポテンシャルは非常に大きいと思うのだが、まだブレイクスルーはできていない。

 しかし、たとえば楽天のようなEdTech先進企業(社員教育や情報共有に危機感を抱いている企業)はどんどんと先に進んでいる。その結果、社員教育面における企業間の新たなデジタルデバイドが生まれてしまっている。私たちはその格差を少しでも早く埋めるお手伝いをしたいと考えている。

 デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授の話を聞くと、米国では職種がハイ、ミドル、ローという3段階のスキルセットに分けられるとされている。ハイとはたとえば医者やプログラマーといった、いわば特殊技能が必要となる層だ。ローは、簡単に言えば単純作業。たとえばビル管理や食品調理、その企業なりのオペレーションの習得などが入るだろう。

 そしてミドルがその他、多くの職種を指す。EdTechの活用は、ローにおいても有益だ。動画を繰り返し隙間時間で見ることで、単純作業の習得は必ず効率化されるからだ。しかしそれ以上に今後重要なのは、ミドルのスキルセット教育だろう。

 なぜならば、この層の危機はその機能の一部、またはすべてが今後、ICTやロボットに置き換えられてしまうリスクをはらんでいるからだ。技術の進歩は日進月歩。そのために、今後は今まで以上に日々学習することが求められている。学ぶ力がこれまで以上に重要なのであって、そこを補うためにEdTechの概念やシステムは極めて効果的ということができる。

コーポレートMOOCの新しいスタイルを創る

 私たちが提唱するのは、「コーポレートMOOC」だ。これはMOOCの仕組みを使って、企業などの組織が社員やパートナーを教育・啓蒙しようとするシステムのことを言う。教育という言葉を使っているが、強制的に教えるのではなく、できるだけ自然に社員1人1人がオンデマンドで、独自のペースで学ぶような環境の整備が重要だと思っている。

 そのためには集合教育だけでなく、またPC教育だけでなく、24時間365日、30センチ以内の距離で持ち歩いているスマートフォンやタブレットの活用がマストだろう。イメージ的に言えば、1回、5分から10分間のコンテンツを豊富に用意し、オンラインで提供。自分に必要ないコンテンツはスキップして、学びたい内容を好きなデバイスを使って、独自のペースで学ぶという形が1つだ。

 ただ、それだけでは足りない。積極的に学ぶ気のないミドル層にも学んでもらわなくては困るからだ。現在、eラーニングを使って勉強している人は、主に資格講座などに通うなど真面目に勉強しようと思っている人たちだ。そうではなく、残りの多くの受動的な人たちにも学ぶ力を身につけてほしい。だからこそ、従来型の会社側からの押し付けではない学習環境が必要なのだと思っている。

 現在、「SmartNews」のような情報キュレ―ションサービスが普及しているが、毎日数分、自宅でも通勤中でも、新聞を読むように、あるいはSmartNewsを楽しむように、カスタマイズされ、セレクトされた必要情報が社員1人1人のもとに届けられる。そんな仕掛けもまた、企業内教育には必要だ。動画を豊富に取り入れて、気軽に見て、覚えるという具合だ。そんなふうに、日々の生活の中で、自然と自己成長のための学習機会が取り込まれて、回っていくサイクルを作るべきだろう。

 これから重要なキーワードは、「個人の成長」だ。それを支援していくシステムの構築が急務なのだ。企業が母集団をセレクトしてある程度情報の品質や方向性をコントロールしていきながら、その先は個人に任せ、またシステムのアルゴリズム、自動編集機能に任せ、企業の中でのキャリアアップする。さらに、“企業は最大の教育機関”といった考えに基づいて、社員1人1人の市場価値をも高めていくといった仕掛けだ。

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