キヤノンは8月25日、NECの子会社であるNECマシナリーとアネルバを子会社化すると発表した。次世代薄型テレビとして注目されるSEDの製造装置などをグループ内で開発・製造するのが狙いだ。特にSEDは価格下落が進む液晶テレビやプラズマテレビに対抗するため、製造コストの早期引き下げを図る。
NECマシナリーは半導体やFA機器の自動製造装置を手がけており、大阪証券取引所第2部に上場している。キヤノンにはこれまでカートリッジの製造機器を納入していた。キヤノンではカートリッジをはじめとする製品の自動製造装置を開発するため、NECマシナリーの買収を決めた。
キヤノンは株式公開買い付け(TOB)により、NECマシナリーの株式を取得する。買付価格は1株につき1212円。これは8月24日までの過去1カ月間における終値の平均値に約20%のプレミアムを加えた金額だ。なお、NECマシナリーの8月25日の終値は前日と同じ1000円で、買付価格はこの終値に21.2%のプレミアムがつくこととなる。買付期間は8月26日から10月12日まで。
NECマシナリーの全株式のうち39.64%を保有するNECと、14.25%を保有するNEC関西はこのTOBに応じると表明しており、NECマシナリーもこの買収に合意している友好的買収だ。キヤノンの買付予定株数は全株式の53.87%にあたる424万株で、買い付けにかかる費用は51億3888万円となる。ただし取得株式数に上限はつけておらず、応募が予定株数 を上回った場合でもこれをすべて買い付ける。このため、TOBの結果によってはNECマシナリーは上場廃止となる可能性もある。この場合、キヤノンは株式交換などによりNECマシナリーを完全子会社化することも検討しているという。
アネルバは真空・薄膜技術に強みを持ち、半導体製造装置やパネルデバイス製造装置を開発、販売している未上場企業だ。真空・薄膜技術はSEDパネルを製造する上で欠かせない技術だ。キヤノンはアネルバを子会社化することで、SEDパネル製造装置を自社で製造できる体制を整える。
キヤノンはアネルバの全株式をNECから譲り受ける。買収完了日は9月30日を予定している。なお、買収総額は明らかにしていない。
御手洗氏(左)によればSEDの製造は計画通りに進んでいるといい、パネルの量産を8月から始めて2006年春にはSEDテレビを製品化するという
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両社によると、今回の話はキヤノンからNECに2005年春頃持ちかけたものという。「非常に小さい会社の買収はあったが、この規模のM&Aは初めて」とキヤノン代表取締役社長の御手洗冨士夫氏が話すように、これまでキヤノンはほとんどM&Aをしてこなかった。しかし、SEDの市場を早期に立ち上げる必要があること、製造の自動化を進めてさらなる価格競争力をつける計画であることからM&Aに踏み切った。
「デジタルカメラはここ数年で価格が半分に下落したが、当社のデジカメ事業の利益率は変わっていない。これは常に将来を見据えて生産革新の手を打ってきたからだ。セル生産に次ぐ新しい次元のコストダウンには、製品の自動製造化が欠かせない」(御手洗氏)
提携ではなく買収という手段に出たのは、機密情報の漏洩を防ぐためだ。「今後はどういう製造装置を持つかが競争力の源泉になる。優秀な設備を自社で作ることで、経験を蓄え、より製造の能率を高めコストを下げることができる。このためには製品の開発部門と製造部門が一体となり、情報漏洩の心配をすることなく腹を割って交流することが重要だ。従って、2社をグループ化する必要があった」(御手洗氏)
ただしキヤノンでは、今後はM&Aを積極的に進めるつもりはないという。御手洗氏は「現在のところ、今回の2社の買収で十分だ。将来的にM&Aをすることがあっても、敵対的買収をかけることは絶対にない」と話している。
NECマシナリーやアネルバは、今後もNECグループ向けに半導体製造装置などを開発、供給する。NEC執行役員社長の金杉明信氏は今回の買収について、「もともと、NECマシナリーやアネルバの売上高のうち、NECグループから発注が占める割合は7%程度しかない。キヤノンの子会社となって生産革新を進めることで品質が高まれば、NECにとっても有益だ」と話している。
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