マーケティング業界のイベント「ad:tech Tokyo 2013」が9月18日に開催された。ad:techはマーケティング業界を対象にニューヨークやサンフランシスコ、ロンドンなど世界各地で開催されるイベント。初日の基調講演は、TwitterのChief Media Scientistにして、MIT准教授でもあるDeb Roy(デブ・ロイ)氏が登壇した。
ロイ氏は、「ソーシャルサウンドトラック」というセッションテーマで、テレビ番組を見ながら人々がTwitterで会話をしているといった現状や、Twitterとテレビという2つのメディアの融合によって何が起こりうるのかということについて語った。
Twitterとテレビの融合の話に入る前に、彼は人間の根本の性質についてこう語った。「夕日を一人で見た時と、誰かと共に見た時とでは、同じ視聴体験でも、体験を共有できていればそこで会話が生まれる」(ロイ氏)。ただ事象を体験するだけではなく、それを他者に共有することで、その体験はより印象に残るものになる。「ソーシャルインタラクション(交流)が一次体験をより印象深いものにする」とロイ氏は語った。
テレビの特徴は視聴を同時に体験できることだった。テレビはいまだ世界で最も大きな影響力を持つメディアだが、複数の人が共に視聴する機会は減ってきている。その背景には、テレビの普及が進み、各家庭に複数のテレビが置かれるようになったことによる「視聴場所の変化」、かつては放送時間中にしか視聴できなかったテレビ番組は録画等の技術により、視聴者が自分の都合の良い時間で視聴が可能になったことによる「タイムシフト視聴」、人々のニーズに合わせてコンテンツが多様化したことによる「コンテンツの細分化」などのトレンドがある。
ソーシャルインタラクション(交流)が減少してきたテレビの課題を、Twitterが解決している。Twitterは、「公共性」「即時性」「対話形式」という3つの特徴によって、テレビをソーシャルなものにしているとロイ氏は語る。「Twitterでは、今この瞬間に起こっていることをツイートして共有する」(ロイ氏)。
公共性の高さから、他者がテレビ番組に対して投稿しているコメントを見ることができ、同じ空間にいなくても同じ番組についてコミュニケーションをとることが可能だ。この共有体験を求めて人々は同じ時間にテレビ番組を視聴するようになり、テレビが抱えていたタイムシフト視聴というトレンドにも逆行することになっている。
「互いのことを知らなくても、番組のチャンネルを合わせて、Twitter上での人々の声、すなわちソーシャルサウンドトラックに触れることができる」(ロイ氏)。ロイ氏は映画に音がついていなかったころのことを引き合いに出して、「映画に音声(サウンドトラック)が追加されたことでより大きな変化を遂げたように、テレビもソーシャルサウンドトラックの登場によって大きな変革が訪れる」と語った。
Twitterとテレビが連動することで、テレビの視聴体験が豊かになる以外にも変化はある。ロイ氏は、この変化について米国のスポーツ専門チャンネル「ESPN」の事例を紹介した。Twitterが2013年5月に発表したプログラムに「Twitter Amplify」と呼ばれるものがある。これはTwitterユーザーに対して短い広告付きの動画クリップが表示され、ツイートされたクリップ動画はテレビで放送される番組やコマーシャルに関連しており、Twitterとテレビの関係がいっそう強固になるというものだ。
「ESPNはこのプログラムを利用し、Promoted Tweetとして試合のクリップ動画をTwitterユーザーに向けて表示し、ライブで試合を見ていない人に対して、リーチするチャンスを生み出すことに成功した」(ロイ氏)。
さらに、Twitterではツイートのトラッキングも可能となっており、それを活用した「テレビ ad Targeting」がある。この仕組みでは、「Twitterは生放送のテレビ番組を視聴中に広告主のスポット広告を見たと思われるTwitterユーザーに対し、広告主の動画クリップをPromoted Tweetとしてプッシュする」とロイ氏は語る。実際に広告を見た視聴者を特定するプロセスは、ロイ氏が創業してTwitterが2013年2月に買収したテレビ分析サービス企業であるBluefin Labsが手がけている。
「スポーツのハイライト映像や、リアリティ番組の番外編などの動画クリップを、コンテンツとしてTwitterユーザーに届けることができる」(ロイ氏)と、テレビとTwitter間の橋渡しについて語った。
ロイ氏は、Twitterでのメッセージがテレビに与える影響について、テレビ番組を視聴者に配信する方法の例を2つ示しながら解説した。1つ目のシナリオでは、テレビ番組を100名の視聴者に同時に放送する。2つ目のシナリオでは、同じテレビ番組を同じく100名に配信するが、1日に1人ずつ100日に分けて配信する。放送もしくは配信される番組を、同時もしくは非同時に視聴者に配信される「メッセージ」と見なすことができ、この2つを比較する。「メッセージの質とコンテンツはもちろん重要だが、ここでは配信メディアの影響に注目するために、メッセージの質については議論せず、配信の方法のみに注目する。このメッセージが視聴者に与えたインパクト、影響力はどれぐらいだったでしょうか」(ロイ氏)と問いかけた。
「メッセージの影響力は、メッセージが届いた視聴者の人数に依存するというのも回答の一部といえるでしょう」とロイ氏は語り、視聴者の集団(マス)が大きいほど、メッセージの影響力も大きくなる(つまりマスメディア)。そして、到達する人数に加えて、メッセージの影響力を決定する2つ目の要素について「メッセージに作用する社会な的加速度だ」(ロイ氏)と、説明した。ロイ氏は物理的な力は物体の質量だけではなく、その加速度によっても変化する、というニュートンの運動の第二法則(力=質量×加速度)について説明。物理のニュートンの第二法則をメディアの分野に置き換え、「メッセージの影響力=メディアの質量×社会的加速」(ロイ氏)とした。ロイ氏は、「これは精密な法則ではないが、見逃されがちな加速度の要素を考慮するために有用だと考えている」と補足した。
さらに、ロイ氏は人が記憶したものは1時間後には約50%は忘れているというヘルマン・エビングハウスの「忘却曲線」と、注意力は周囲にいる目に見える集団によって誘導されるというスタンレー・ミルグラムによる「注意力」に関する実験の結果について解説し、タイムシフト視聴と同時視聴について説明した。
「同じ映像が一斉に配信された場合、視聴者の体験には同時性が発生する。この同時性のある体験と、その体験を共有するための会話を合わせることで生まれるのが、社会的加速だ」とロイ氏。さらに、「番組の視聴者によるライブツイートは、そのフォロワーたちに届き、周囲の行動に誘導される傾向により、番組の視聴を始める可能性を高める」(ロイ氏)とし、「Twitterは、2つの相互に影響し合う要素によって、テレビの影響力を増幅する。人間の記憶と忘却の性質により、ライブの同時放送において、特に社会的加速を高める機能をもつ。ライブツイートは、チャネルを合わせることで視聴者の増加を促進し、テレビの質量(到達率)を増大させる」(ロイ氏)とした。
また、ロイ氏は人間のダイナミクスについて触れ、テレビとTwitterが相互に影響をもたらすことについて紹介した後、ニールセンの最近の調査によれば、毎分ごとのツイート量のトレンドとテレビの視聴者数を比較したところ、調査した番組の29%で、Twitterにおけるライブコメントが、テレビのチャンネル選択に影響を及ぼしていることを紹介した。この逆もまた真であり、まずチャンネルを合わせている視聴者の数によって、ツイートする人数も決定されるという。
この後、ビデオリサーチのNew Value Index Development Managerの長島英樹氏による日本におけるツイート数と視聴率の相関についてのショートスピーチが行われた。
ショートスピーチでは、視聴率とツイート数の相関について語られた。「現在、視聴率とツイート数の間には時間帯における淡い相関関係はあることがわかっているが、各番組という単位では因果関係は証明できていない」(長島氏)。証明されていないとした上で、ある番組におけるライブツイート数と視聴者数の推移を表したグラフを見せ、ツイート数が増えた後に視聴率が上昇した例を紹介。その後はツイート数が多い番組ほど視聴時間が長いという傾向を紹介し、基調講演は終了した。
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