勝屋:なるほど。実は私も山口さんとは岡山県で15年くらい前にお会いしてるんですが、 その時もものすごく熱い方だなという印象がありましたね(笑)。
山口:その頃から1兆円企業を作ろうと思ってましたからね。
勝屋:現在のユニバーサル・ソリューション・システムズは日本を代表するSoftware as a Service(SaaS)もしくはBPOの会社の1つと考えておりますが、改めて会社の特徴を教えて頂けますか?
山口:ある程度の企業になるとソフトウェアにオリジナリティを求めるようになりま すよね。でも実際にはコンピュータの運転は楽ではありません。今は24時間365日、ずっと動かし続けて、それを情報システム室が面倒をみなくてはいけませんから。だからオリジナルのシステムも欲しいけどアウトソーシングもしたいと思ってる企業は多いわけです。でもそうなるとコストが高くなるんですよね。大企業でしたらシステム管理に従事するスタッフも多いので、アウトソーシングがコストダウンに繋がりますが、中小企業の場合はその人数が少ないわりにオリジナルのシステムを作らなくてはいけないので、かえってコストアップになってしまいます。このニーズに応えようと思ったわけです。
具体的には、我々がユニバーサルプラットフォームと呼んでいる、すべてのお客さまに対応する共有部分を多くして、その上に各お客さまのオリジナル部分を乗せるシステムを構築したんです。お客さまから見ると自社のオリジナルのシステムなんですが、実際には6割程度の部分は共有してもらってるので、コストが安くなるんです。ハードウェアも、フラグシップのコンピュータを中小企業が10〜20億出して買うことはできませんが、それを皆さんで共有してもらうので使えるわけです。なおかつ、アウトソーシングですから運転は全部当社がやります。ただ、オペレーションも当社がやりますけどね。これはデータの完全性を我々の方でサポートするためです。
勝屋:得意な分野の業種はどちらでしょうか?
山口:親会社の影響で外食産業は多いですね。他の業種に関しては、ユニバーサルプ ラットフォームの中に全業種で共有できる部分と、各業種で共有できる部分があるので、ある程度は計画的に進めていってます。ちなみに前期は介護系のシステムを作りました。介護は社会的なニーズもありますが、実は外食のノウハウがすごく活きる部分もあるんですよ。たとえば介護現場には記録を付けるためにPDAが導入されてますが、介護しながらではスタイラスペンは使えないし、オシリのポケットに入れておいたら座っただけで壊れるしで、実際には持ち歩いた使い方はほとんどされてません。ところが、外食産業で使われているハンディターミナルは、両手で入力ができたり、オシリのポケットに入れて座っても壊れないようにあらかじめ設計されてるんです。もちろん、落下性能や防滴性能もあります。そこを活かして介護系のシステムを作り ました。
勝屋:常にユーザーの視点に立ってソリューションを作ってるわけですね。そのあたりが一般的なアウトソーシングの会社とは違うと思うんですが、山口さんが仮屋薗さんと仕事をしていて、ここは仮屋薗さんがいてくれてとても助かったなという部分はどこでしょうか?
山口:やはり全面的にバックアップしてくれているという安心感ですね。それがないと僕も思いきった行動ができませんでしたから。上場しようと決めてから14ヶ月で上場しましたが、それくらいエネルギーを集中して投下しました。それができたのも仮屋薗さんとの信頼関係があったからこそだと思います。
勝屋:山口さんから見て、ベンチャーキャピタルの価値って何だと思いますか?
山口:何か事業を始めようとしてる時、お金も含めてソースは必要ですよね。貯金などをしてソースが溜まってから起業しようというのが日本的な考え方なのかもしれませんが、それでは旬を逃してしまうと思うんです。昔は紙と鉛筆があれば起業できるなんて時代もありましたが、今はある程度、資本投下しないと成功するものも成功しません。そういう意味で、新しい事業、新しい起業家を輩出していくには、ベンチャーキャピタルがないと社会そのものが成立しなくなってると思います。
もうひとつは、ベンチャーキャピタルの存在によって、機会が均等に与えられるということですね。頑張った人が高い収入を得るという格差はあって当然だと思いますが、機会が均等に与えられず、お金持ちだけが起業できるような格差があっては問題だと思うんです。銀行は計画書だけ持っていってもなかなかお金を貸してくれませんが、ベンチャーキャピタルは事業そのものに投資してくれますからね。技術やアイディアがあれば起業する機会が均等にあるという意味でもベンチャーキャピタルの価値は大きいと思います。
勝屋:ところで、仮屋薗さんはなぜベンチャーキャピタルをしようと思ったのでしょうか?
仮屋薗:もともとを辿ると、大学を卒業する時にリクルートブックを読みながら消去法で自分のやりたい仕事を探していたら、残ったのがベンチャーキャピタルだったんです。もっとハッキリ言えば、これしかやりたいと思う仕事がなかったんですね。ただ、大手のベンチャーキャピタルに内定をもらって説明を受けたら、最初の3年間は開拓営業をしなくてはいけないと言われたんです。その意味を考えた時に、どうやったら会社が良くなるかとか、どうやったら売上げが伸びるかなどを理解しないまま開拓営業や投資をしても、ベンチャーキャピタルの本質ではないなと思ったんです。それで急遽、ベンチャーキャピタルをする前に会社を良くするための能力を磨かなくてはいけないと方針転換して、コンサルタントの会社を受けたんです。それが三和総合研究所ですね。
勝屋:ベンチャーキャピタルをしていて一番うれしいことは何でしょうか?
仮屋薗:それは明らかに、自分がこの人だと信じた経営者と苦楽を共にして結果を出すこと。その中で本当の信頼関係が生まれることですね。仕事ですから、当然、投資家にリターンをお返ししなくてはいけません。でも、個人としての報酬は何かというと、金銭的な報酬、心理的な報酬、フリンジ、いろいろありますが、やっぱり一番は経たプロセスと、その中で生まれる人間としての充実感ですね。
ユニバーサルソリューションシステムズさんの場合も、良いメンバーが集まってきて、みんなイキイキと働いていて、最初の頃とはずいぶんと雰囲気も変わってきました。これが何よりのやりがいですね。信じた人と仕事ができるのはとにかく幸せですよ。我々にとってお客さまは投資家なので、パフォーマンスを報告したりもするわけですが、一方でビジネスモデルは自分が信じている会社、経営陣に投資して、一緒に作っていける。ここを選択的に、主体的に選んでいけることは、この仕事の一番幸せな部分だと思います。
勝屋:これからベンチャーキャピタルをやってみたいという人もいると思うんですが、仮屋薗さんが思い描くベンチャーキャピタルの役割とは何でしょうか?
仮屋薗:簡単に言うと、人と組織を活かすこと。その人がどうやったら最高のパフォーマンスを出せるか、その環境のセッティングをすることですね。それから人間はどうしても判断に迷いが出ることがあるので、そういう時に基本的なガイドラインを引くことも大きな役割です。決めるのは経営者ですが、彼らが意志決定をするための基準をガイドすることは重要です。単に株価が上がればいいということではなく、継続的に見て是か非かを外部の人間だからこそガイドしていかなくてはいけないと思います。基本は黒子ですが、黒子として、参謀してやらなくてはいけないのはそういうことではないかと個人的には思ってます。
勝屋:ありがとうございました。では最後に、次回の仮屋薗さんよりご紹介いただくゲストがインキュベイト・キャピタル・パートナーズの赤浦さんなんですが、仮屋薗さんから見て赤浦さんはどういう方でしょうか?
仮屋薗:僕自身はアーリーステージからデペロップメントステージくらいから入っていくベンチャーキャピタリストで、そういう部分が得意だとも言えるんですが、赤浦さんは自分自身でイニシアティブを取って、考えて、どうやったらそれができるか人さえも集めてきて立ち上げるという、シードステージのベンチャーキャピタリストなんですね。そういう点では僕にはない能力を持った人ですごいなと思います。そういうことができるメンテリティ、どういう構想を自ら描いていくのかなど、僕は常々知りたいと思っているし、学びたいなと思ってます。
1985年上智大学数学科卒。日本IBM入社。1999年ITベンチャー開拓チーム(ネットジェン)のリーダー、2000年よりIBM Venture Capital Groupの設立メンバー(日本代表)として参画。IBM Venture Capital Groupは、IBM Corporationのグローバルチームでルー・ガースナー(前IBM CEO)のInnovation,Growth戦略の1つでマイノリティ投資はせず、ベンチャーキャピタル様との良好なリレーションシップ構築をするユニークなポジションをとる。7年間で約1800社のベンチャー経営者、約700名のベンチャーキャピタル、ベンチャー支援者の方々と接した。Venture BEAT Project企画メンバー、総務省「情報フロンティア研究会」構成員、ニューインダストリーリーダーズサミット(NILS)企画メンバー、大手IT企業コーポレートベンチャーキャピタルコミュニティ(VBA)企画運営、経済産業省・総務省等のイベントにおけるパネリスト、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の中小ITベンチャー支援事業プロジェクトマネージャー、大学・研究機関などで講演、審査委員などを手掛ける。ベンチャー企業−ベンチャーキャピタル−事業会社の連携=“Triple Win”を信条に日々可能な限り多くのベンチャー業界の方と接し、人と人との繋がりを大切に活動を行っている。
また、真のビジネスのプロフェッショナル達に会社や組織を超えた繋がりをもつ 機会を提供し、IT・コンテンツ産業のイノベーションの促進を目指すとともに、 ベンチャー企業を応援するような場や機会を提供する「Venture BEAT Project」 のプランニングメンバーを務める。
趣味:フラメンコギター、パワーヨガ、Henna(最近はまる)、踊ること(人前で)
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