2009年、通信業界のキートピックを振り返る

渡辺聡(株式会社企)2009年12月30日 09時00分

 編集部より「2009年を振り返りつつ、2010年の通信業界を見据えて、いくつかのテーマをピックしながらトレンドを振り返ってもらえませんか?」というお題を頂いた。年の締めのコンテンツで細かい動きや業界内部関係者しか必要のないところをいじっても仕方ないので、メジャーで、おそらくは数年以上のスパンで重要なテーマとなりうるいくつかのものを取り上げてみたい。

Androidとスマートフォン

 2009年の振り返りの冒頭にiPhoneという単語を持ってくるのは、とりあえず枕としては間違いのないところであろう。端末の販売代理店に該当し、通信サービスの提供者であるソフトバンクモバイルの動きについてもトピックは多数あるが、今回は割愛して端末周辺を議論対象とする。

 iPhoneの語られ方は、当初は「Appleすげぇ」「ジョブズかっけ〜」といったところだったが、徐々に「携帯電話のガラパゴス論(※編集部注:日本の携帯電話がガラパゴス諸島の生物のように独自進化を遂げ、海外に輸出できない様子を揶揄したもの)」と「次はスマートフォンだ(≒日本ピンチだ)」といった流れにシフトしていった。ここに、Android端末が今後日本でも増えてくるという話をかぶせると、2010年以降の世界はこうなるというストーリーが浮かんでくることとなる。メディアや業界関係者の間で、年の後半は毎日のようにこの手の議論が出てきたものである。

 ひとつのトレンドとしてスマートフォンという方向が意識されているのは間違いない。しかし、iPhoneそのもの的なものがメインで来るかと問われると、おそらく違うのではと考えている。携帯電話ユーザーのニーズに関して議論していると、一度フルタッチパネル、QWERTYキーボードといったいわゆるスマートフォンのフォーマットに振れたあと、日本の伝統的な「ガラケー(ガラパゴスケータイ)」設計の使い勝手の良いところを取り込んだ中間的なところで落ち付くのではというシナリオが考えられる。

 例えば、軽自動車各社のハードも含めたインターフェース設計や、街角のATMで操作に詰まってサポート電話に不満をぶつけているおっちゃんの声に示されるように、普及して受け入れられるというのは角が取れて丸くなるということと同値であることが少なくない。エッジが失われて落ち着いた技術パッケージングが見出され、広範なユーザー受容性を得られるというところとなる。

 全員がタッチとフリック(※編集部注:指をスライドさせて文字を入力する方法で、iPhoneで採用されている)に移行するコストを払うかと問われると、マス市場においては少し厳しい。このあたりの製品設計がいかにあるべきかという議論が強く起きるのが2010年以降であり、いわゆるガラパゴス議論も継続されるというところだろう。

クラウドコンピューティング

 スマートフォン、あるいはネットブックや、Kindleなど普及を試みている電子書籍リーダーを含めてもいいが、小型の情報端末が増えると、サーバ側にコンテンツとサービスの資源が置かれることになる。ここで出てくるのが、クラウドコンピューティングとモバイルブロードバンドというキーワードだ。前者はIT業界のコアキーワードであるが、需要条件として通信業界も無関係ではありえないところであり、特に端末とサービス設計では根深く絡まり合っている。順に取り上げたい。

 システム基盤、サービスインフラとしての用途を考えると、クラウドコンピューティングというのはまだ立ち位置が定まりきってはいない。ガートナーがクラウドコンピューティングをハイプカーブモデルにおけるハイプ曲線のピーク、つまり根拠なき期待値が盛り上がりきってあとは落ちるだけ、という位置に置いていたあたりにも、熱狂とよく分からない感じが同居した雰囲気が表れている。

 では、クラウドは幻想なのかと問われると、おそらくそうではなく、メインストリームの重要な一角を占める可能性を感じている。特に、スマートフォンの普及を強く確信すればするほどサーバ側で請け負うべきサービス範囲も拡大することから、比例してクラウドインフラの重要度は高くなると言える。ただ、現状では関連キーワードが散乱し、各社が自分たちの思惑で話をしている段階でもあり、Web 2.0とSOAの初期を組み合わせたような時期にまだいる。端末側にあたるスマートフォン市場とサービス基盤にあたるクラウドの両方が変数として大きく動くという状況であり、あまり細かい話に振り回されるよりも、主要ベンダーの製品/サービス戦略と適用候補市場の動向に重点を置いて、用途規模の落ち着きどころを眺めるべき段階であろう。

 通信事業者側のカバー範囲としても、俗に言う「土管」(※編集部注:基本的な通信サービスのみを提供すること)のところを純粋に期待された、次項で整理するモバイルブロードバンドプレーヤーという立ち位置までが領域なのか、通信とコンピューティング、場合によってはコンテンツやサービスまでもセットにした形として期待されているのか(iモードやEZwebの進化系とでも言おうか)が見えきってはいない。ソフトバンクはいち早く、通信とITサービスをセットにした形での提供を打ち出しているが、さて、このスタイルが主流となるか。

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