2009年、通信業界のキートピックを振り返る - (page 2)

渡辺聡(株式会社企)2009年12月30日 09時00分

 その他、細かいが重要化しうる話だと、事業継続性を踏まえ、アウトソース型で利用した場合はインターネットデータセンター(IDC)あるいはクラウドセンターが地域分散されることで、地政学リスクやカントリーリスクを分散できると指摘している方もいる。裏返して表現すると、特定地域、特定条件のセンターに全てのコンピューティングリソースを置いてしまってる場合は、米連邦捜査局(FBI)がIDCの機材を押収したようにハードウェアが失われてしまうと預けていたデータごと逸失してしまうこととなる。このテーマは通信経路とレスポンス品質という隣接テーマを絡めて、中長期なインフラの安定性と短期のサービス品質という2つの話に関わるところであり、クラウド型のサービスが一定程度普及したところで、克服すべき課題として認識されていくことだろう。

モバイルブロードバンド

 スマートフォンとクラウドという導線に戻って、間の通信のところを。携帯端末とサーバサイドのクラウドとなると、間を繋ぐのは当然ながら各種無線である。2009年はWiMAXサービスや、NTTドコモの3G回線を利用したウィルコムのデータ通信サービスなどが提供され始め、イー・モバイルも11月に200万回線到達と順調に顧客数を増やした。モバイルブロードバンドの本格離陸と普及の年と言って良い。

 では、今後通信サービスは全てモバイルに着々と置き換わっていくと言えるだろうか。このあたりもお隣ブロガーであり当社共同代表であるクロサカタツヤ氏や業界関係者とよく議論するところなのだが、素直に「ないなぁ…」というしかない。技術代替性というテクニカルなところの議論もあるのだが、ごく単純なところとして当面は国内の通信キャリアに投資余力がない。加えて、このピリピリした資本市場動向である。インフラの整備にじゃぶじゃぶと投資できるプレーヤーはいない。NTTドコモでさえも投資計画を見ていると、LTE(※編集部注:100Mbps超の通信を実現する次世代の高速無線通信規格)の全面展開と既存システムとの総入れ替えは当面なさそうで、先行導入してFOMAブランドで提供しているHSDPAベースのデータ通信サービスにしても、上り5.7Mbpsの通信が可能なエリアは都内の主要駅周辺から徐々に、という計画が組まれている。

 よって、「スマートフォンの時代が来る」というフレーズの前提に「データ通信インフラが津々浦々まで美しく整備されて、みんなが契約する」ということが置かれているのであれば、少なくとも2010年での広範な普及シナリオについては見直してよいところだろう。事業会社の社内システムや業務基盤と考えても、オフィス内の無線LANを前提としたものあたりからトライアル的に静々と、というのを保守的なシナリオとして見ている。

スマートグリッド

 さて、話は飛ぶようで実はリンクしているのだが、スマート繋がりでスマートグリッドである。これは、太平洋の向こうで経済政策のグリーンニューディールとして掲げられており、西海岸の次の投資先が欲されているといった辺りが絡み合って出てきたフレーズである。当地でのコンテクストの編まれ方や背景意図も面白いのだが、日本ではどうなのだろうと、電力会社の人と話をしていると、一般的には「(電力サービス品質用途としては)うーん、いらんなぁ」という回答であった。

 そもそも、スマートグリッドは米国でも議論のトリガーの1つがカリフォルニアの大停電であるように、送電線品質の維持向上のツールとして位置づけられる。網の各所にチェックポイントを設けてうまく流れてないところがあれば調整かけようよ、という補助機能であり、配電の基本機能が低いことが前提にある。その点、日本の配電の品質は決して悪くなく、基本機能は高い。よって、わざわざ補助しなくとも良い。

 ただし、欧州でプラグインハイブリッド車を後押ししたり、家庭用太陽電池による発電を家庭外の周囲に流通させることを推進したりするのなら、エッジノード側での最適化が必要となるためスマートメーターのようなものが必要となる。米国でのスマートグリッドの主要プレーヤーにCisco Systemsが混じっているのはこのためだ。

 つまり、ざっくり言うと、国内用途としては通常の電力提供以外の周辺事業を大々的に強化するのなら導入を検討ということになり、「米国の方ではやってるみたいだから日本も」という程度のとらえ方なら要らない。このあたりの温度感覚は、国内でのスマートグリッドイベントに電力会社関係者の方々があまり登壇されなかったり、電力各社のIR資料や内部の検討体制も省庁対応の中に少し混ぜられている程度だったり、ということにも示されている。

 では、様子見で何もしなくてよいのかと問われると、外販を考えた場合はやることがあると考えている。例えば、近しい方から相談を受けて議論をしていたのだが、総務省にて開催されている、「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」にて、東アジア共同体という冠を付けつつ、要は「海外になんか売れない?」という話が交わされている。関係資料を眺めていると、「高度サービスを各地に普及させよう」みたいなトーンも見受けられるが、売り先のアジア圏諸国はICTで何かする以前に、これらを動かす電力整備が十分でない国やエリアが多い。都市部ではそこそこ電気が来ているけど、漏電や盗電が多くて現地電力会社も頭を悩ませている、といった具合である。

 であれば、漏盗電対応目的でスマートグリッドと組み合わせながら電力インフラを整備し、通信サービスあたりを経済成長パッケージとしてカスタマイズして提供するのはどうか、という案が立つ。ある程度実現の可能性を検討する必要はあるが、通信の整備を進めたいという声は各所から拾えているため、条件が揃えば不可能ではないだろう。

 また、これらの基本ニーズはここ数年語られたBRICS諸国の、特に農村部、BoP(ボトム・オブ・ザ・ピラミッド)などというワードでもくくられるアフリカや南米諸国にまで広がる。支払い能力が不安定な国も多いことから回収シナリオをどう組むかなどは知恵の使いどころであるが、資源権益と交換するなど手はそれなりにあるはず。通信と電力のセット売り、あるいは通信を売る下地としての電力のバンドル。さらには通信が必要なインフラであるクラウド基盤までのセット売りというところまで行けると、エネルギー、通信、サービスと手広い分野での商売が営めることになり、うまく回せれば輸出品目として悪くないものとなる。

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