米メディア大手ViacomがYouTubeを著作権侵害の疑いで提訴したことを受け、国内放送事業者がその行方を注視している。
勢いの衰えないYouTubeとそこで横行する著作権侵害問題。国内放送事業者の中には、Viacomによる提訴の影響で、YouTubeが「破滅」の道に向かうことを望む声すらある。
YouTubeが示した放送と通信の融合の可能性は、既存放送事業者にとって、ただの罪でしかなかったのか──。YouTubeに対する放送業界の内情を追った。
2月6日に実現した国内における「YouTube問題」のトップ会談。国内放送事業者にとってこの会談は、YouTubeで横行する著作権侵害問題を、大きく好転させるには至らない結果となった。
放送事業者側が求めた技術的対応(日本からのアップロード不可、違法コンテンツを複数回アップした場合の個人情報取得など)について、YouTubeのCEOであるChad Hurley氏らの回答は「前向きに検討する」に留まり、正式に了承されたのは「日本語での注意勧告」のみ。そもそも、合法か違法かの意識より先に、興味本位が先行して違法動画を投稿・閲覧しているユーザにとって、注意勧告がどれほどの効果を生むかは疑問だ。
しかし、「無料動画サイトへの投稿は明らかな著作権侵害であり、違法行為だ」との共通認識を持ちながら、放送事業者はそれを声高に叫ぶこともなく、ただ粛々とサイト側へ削除要請を出し続けざるを得ないでいる。
ネット事業が隆盛を極める現状において、「権利侵害を声高に叫ぶ空気ではない」ことも大きな要因となっているが、相次ぐ放送不祥事の影響が全くないとは言い切れない。
実際、複数の過剰演出やデータ捏造が指摘される中、YouTubeに代表される動画投稿サイトが発覚をアシストしたケースもある。
某局格闘技番組における選手の不正発覚、またサイト画面捏造などはその最たる例。当該場面を見逃した視聴者でもサイトで動画を確認できたことが議論の広がりを生み、結果として発覚へとつながっていったと見ることができる。
ここで「違法だから削除を」を声高に叫べば、「放送事業者の汚い部分隠し」と非難されるのは明らか。ただ静かに、サイト側へ削除要請を出し続けることしかできないだろう。
各放送局にとって、コンテンツは貴重な財産であり、それを無断使用した上でビジネス展開されることは容認できない事態。と同時に、脚本家、出演者、音楽著作権者など番組関連の著作権利者を守る義務があり、これらを担保できなければ、後の番組制作に悪影響を及ぼす可能性がある。つまり、自社および関係者の権利を守ること、これが削除を求める第一義としている場合が多い。
次に、動画共有サイトの存在が、自社の行うビジネスにおいて阻害要因になりうるとの懸念がある。つまり、自社ビジネスとしてコンテンツの2次利用展開(ネット配信、DVD発売など)に多大な影響を及ぼすのではないか、と心配しているのだ。
そして最後に「都合の悪い映像を常時閲覧されてしまっては困る」という理由。ある民放キー局の担当者は、「特定のコンテンツを優先的に削除要請する実状はない」と説明するが、ユーザーとしてYouTubeなどを閲覧する限り、時系列を追って削除が進んでいるとは到底思えず、また「都合の悪い」映像が素早く削除される傾向にあるのも事実だろう。
「コンテンツ2次利用ビジネスの阻害」という要因については、異なる見方も出始めている。これは動画共有サイトを巻き込んだ前向きなビジネスモデルが検討されているという意味ではなく、むしろネット上における動画流通ビジネスそのものが成立しない、との見方が強まったためだ。
最も有力な根拠となるのが、02年9〜11月にTBS、フジテレビ、テレビ朝日が共同で実施したコンテンツ配信実験事業「Chance@トレソーラ」。後に「数千万稼ぐために数億円が必要だった」と揶揄された失敗事業で、配信用コンテンツを確保するための著作権処理費用が莫大な額にのぼったことでも知られる。
それでもその後、フジテレビ「ワッチミー!TV」や日本テレビ「第2日本テレビ」などがスタートし、ネット経由のコンテンツ配信ビジネスに未練を残している。しかし、「ワッチミー!のように厳しいチェック体制をとっていると、ビジネスとしては到底成り立たない」(民放キー局担当者)とする指摘もあり、むしろ配信ビジネスの不成立を再確認する形になっているとの声も挙がっている。
こうした状況の中、火種をまきそうなのが「NHKのネット配信事業」。
本国会に上程された放送法改正案には、NHKによるネット配信ビジネスを法的に認める内容が盛り込まれており、放送外収入増加を目論むNHKが素早く実現するのは確実視されている。これに対し民放局担当者は「できるのはドキュメンタリーだけ」と軽視する見方を示すものの「ドラマやバラエティで(配信サービスを)実施すれば(権利者などからの反発で)番組制作に支障が出る」と牽制。自身はサジを投げつつも、NHKが今ある放送ビジネスの状況を大きく変化させるシナリオを警戒している。
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