前回のこのコラムで、「新しい企業体に広告業界全体の生き残りを託すべきである」と書いた。
もう少し詳しく説明する。既存の広告会社にも次世代対応の潜在力をもった人材はたくさんいる。しかし、彼らを既存の仕組みのなかで次世代型に育成するのは至難の技だ。従来モデルがまだまだ収入の大半なのだから、従来の仕組みを壊してしまうことはできない。かといって、その枠組みの中では次世代の人材はやはり育たない。
対応できる人材を、今勇気をもって分離し増殖させないと、次世代シフトすなわち広告会社のビジネスリモデルはできない。これは経営手法論ではなく人材育成論である。
現状、広告会社のメディアマージンは年々厳しくなっている。一方でオペレーションコストは上昇圧力が強い。広告業界は儲からない、つまり大した年収を社員に払えない業界になっていく。しかし、私は広告業界が広告主に提供している価値が小さくなっているとは全く思わない。我々は広告主から、提供しているサービスに見合った対価をしっかり獲得すべきである。そのためのビジネスリモデルでもある。この経営環境の変化を機に、広告主にとっても納得のいく、広告業界にとっても提供する価値に見合った対価を得るビジネスに再編をかける必要があるのだ。
さて、広告会社のビジネスリモデルのもうひとつの非常に重要な視点は、「今後広告会社は誰を代理する業態であるか」である。広告会社は広告主に対して「メディアニュートラルなキャンペーンプランニングを提供する」と標榜するものの、一方でメディアスペースを買い切っている。日本の広告会社のおもしろいところは、メディアレップとクライアントレップの両方をこなしているところである。
しかし、これができるのはほとんどのキャンペーンプランニングがマス広告枠への出稿というアウトプットであったことと、マス広告枠が有限なスペースとして囲い込みが可能であったからである。企業にとってウェブサイトが自社メディア化し、生活者との接点(コミュニケーションチャネル)がマス広告ばかりではなくなると、本当にメディアニュートラル、ソリューションニュートラルな提案が求められる。
これに対応するにはまさに100%クライアントをレップするスタンスをとらないと無理である。また、そうでないとプランニングや実施運営に価値の高いフィーを獲得できない。次世代広告へのビジネスリモデルでは、このメディアレップとクライアントレップをビジネス上はっきり分離することが重要である。
欧米は、同業他社のクライアントとは契約しないビジネス文化のもと、ブランドエージェンシーとメディアエージェンシーを機能分社し、後者は規模の論理を追及することで持ち株会社傘下に複数のブランドエージェンシーとメガメディアバイイング会社という企業グループを作り出した。
日本では、もともと完全AE(アカウント・エクゼクティブ)制の文化はないが、今後消費者接点(コミュニケーションチャネル)がマス広告枠だけでなくなることで(本当にメディアニュートラルな提案をせざるを得なることで)、メディアレップとクライアントレップの分離を考えない訳にはいかなくなる。
ついでにいうと、100%クライアントをレップするスタンスを確立する、つまりプロのコンサルティングパートナーとなるためには、今のように広告主の言うことを忠実に聞くばかりではビジネスは成立しない。プロとしてのリコメンドをしっかりできないと存在意味はない。そしてプロとしてのリコメンドができるか否かは、最終的には広告会社が消費者、生活者をレップするスタンスをとれるかどうかにかかっている。真に「クライアントのため」とは、そこに「ユーザーのため」も両立させていなくてはいけない。この作業が我々の商売ということになるのかもしれない。
また、このスタンスをより強固にもつには(しっかりした対価=フィーを獲得するには)、ある意味、いくばくか結果責任をもつくらいの考え方(成功報酬型ビジネスモデル)も必要だ。
そしてフィーをしっかり払っていただくためには、やはり「別途メディアで儲けますから」が通じにくくなる訳で、従来のメディアバイイングビジネスとは一線を画す覚悟がいる(もうひとつはAE代理店のポジションを獲得すること)。
私は、かれこれ11年インターネット広告を売る立場にいるが、今後特にメディアニュートラルにクライアント及びユーザーをレップするスタンスで提案していくだろう。なぜなら、それがネット領域のシェアを上げる一番の近道だからだ。生活者への接触シェアに比べ、実際の広告市場がまだ圧倒的に小さいネット広告領域だからこそ、メディアニュートラルを貫けば、ネット領域は自然と増える。「100%クライアントのためを貫くことでネット広告を拡大する」これが私の戦略である。
青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。
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