「Web 2.0」の魔性に惑わされない心得 - (page 2)

わかりずらいO'Reillyの論文

 こうした誤解、あるいはWeb 2.0に関する多種多様な解釈が蔓延するようになったきっかけはなんだろうか。Web 2.0が業界の注目を浴びるようになったのは、Tim O'Reillyが2005年9月に「What is Web 2.0―Design Patterns and Business Models for the Next Generation of Software」という論文を発表して以降である。現在ではGoogleで「Web 2.0」を検索すると7000万件以上のサイトがヒットするし、関連書籍や、雑誌記事等も次々に書かれて、膨大な数の文献が存在する。

 当然、これらすべてに目を通すことは不可能だが、日本の有力サイトや書籍、雑誌を読む限り、O'Reillyの論文に言及しつつ、独自にWeb 2.0」を解釈しているものが多いことがわかる。こうした文献のほとんどは、O'Reillyの論文、あるいはO'Reillyの論文が言及するいくつかの新たな技術に関して述べながら、互いに少しずつ微妙に異なる論理を展開している点は非常に興味深い。おそらく、こうした微妙に異なるいくつもの解釈が急速に世の中に広まったことが誤解の原因であろう。

 さらに突き詰めると、この誤解はO'Reillyの論文自体のわかりにくさ、あるいは論点が必ずしも明確に整理されてないまま公開されているという点に帰着する。O'ReillyがWeb 2.0の“原則”として挙げたコンセプトは、(1)プラットフォームとしてのウェブ、(2)集合知の利用、(3)データは次世代の「インテルインサイド」、(4)ソフトウエアリリースサイクルの終焉、(5)軽量なプログラミングモデル、(6)単一デバイスの枠を超えたソフトウエア、(7)リッチなユーザー体験、という7点である。

 O'Reilly論文がわかりにくい理由は、これら原則として挙げたものを、論文中に他の論点として再提示していることにある。この論文で最も紙幅が割かれているのは(1)プラットフォームとしてのウェブの部分であるが、この部分でO'Reillyはスケッチレベルだとしながら、「meme map(日本語訳では要素マップ)」を示して、「プラットフォームとしてのウェブ」に関わる7つのアイデアを挙げている。

 しかし、この7つのアイデアの一部は、先の7つの原則に包含される。また、「Web 2.0企業のコアコンピタンス」として、またしても7点を挙げ、論文中のコラムには「Web 2.0のデザインパターン」として8点を挙げている。そして、ここでもこれらの論点は論文の骨子である7つの原則と一部重複している。

 もしも、O'Reillyが意図的に論文中に似たような概念をちりばめることによって、Web 2.0を世の中に広めようとしていたら、まさしくそれは大成功だったといえるだろう。エバンジェリストの面目躍如といったところだ。

いまこそあえて自分なりに解釈

 インターネットマガジン2006年1月号にTim O‘Reillyへの巻頭インタビューが掲載されている。ここでO‘Reillyは、様々な言葉で語られ始めたWeb 2.0のコンセプトの急速な広がりに懸念を示すと共に、Web 2.0から派生したミニバブルが起きつつあることを指摘している。これは、最初に挙げた僕の経験と合致する。

 Web 2.0は、その言葉から誰もが感じるように、新たに開きつつあるインターネットの世界を語る適切なキーワードであろう。当然、Web 2.0的な新しい世界には新しいビジネスチャンスがあり、多くのネット企業にとってはネットバブル以降の久しぶりに訪れたチャンスである。

 だからこそ、もう一度冷静にこの言葉が示す本当の意味を考え直すべきではないだろうか。バブルの時のように、コンセプトだけが一人歩きしたことから、過度な期待や不安が生まれ、その結果、インターネットビジネス全体をセットバック(後退)させてはならない。

 例えば、「イノベーション」のような重要なビジネスの概念を画一的に定義することが不可能なように、Web 2.0というキーワードを定義することも非常に困難だ。実際、定義してこの言葉の意味を限定してしまうには早すぎるだろう。

 僕はO'Reilly原理主義者ではないし、事実、O'Reillyよりも適切かつわかりやすくWeb 2.0を定義していると感じられる日本語の文献も存在する。しかし、もう一度あえてわかりにくいO‘Reillyの原典を自分なりに解釈することで、過度な期待や不安を解消する方法が見つかるのではないだろうか。

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