昨年のベストセラー「ウェブ進化論」で梅田望夫さんが、「こちら側」「あちら側」というメタファーを使っている。それは、リアルな世界(こちら側)と、それと対峙する台頭しつつあるもうひとつの世界としてウェブを指したものだ。そのとき、ウェブとはグーグルに代表されるネット上のプラットフォームプレーヤーが活躍する領域とほぼ同一の存在として捉えた読者が多かったに違いない。
しかし、実際にはウェブそのものであろうと、グーグルなどが圧巻するプラットフォーム領域であろうと、それはリアル世界をデジタルというフィルタで抽出し、マシンリーダブルな状態に置き換え、それらをシステムが加工することで新たなる価値を創出するという「もうひとつの」こちら側の話でしかないと考える方が妥当ではないかと、僕はひとり思っている。もちろん、その新たなる価値を指して「あちら側」というのもひとつの考え方だろう。とはいえ、感覚的にこちらとあちらとの間に断絶はない、という印象が残る。むしろ、こちら側の延長、あるいは鏡像的な関係にあるといったような。
いずれにしても、そんな「あちら側」の世界をケータイに結びつけるサービスをKDDIが9月から開始するという。これまで日本では、ケータイは独自の進化を1999年のiモードの発表以来歩んできており、インターネットとは近いものの異なる存在であり続けてきた。
しかし、近年、PCサイトが閲覧できるブラウザの搭載が一般化。加えてCDMA 1xやHSDPAといった、下り1Mbps以上の高速パケット通信が可能な通信技術が登場しパケット料金が低下してきたこともあり、mixiやモバゲータウンなど公式サイト以外のケータイサイトを閲覧することの延長上で、PC向けウェブサイトを利用することも必ずしも不可能ではなくなってきている。また、KDDIはネットの検索サービスベンダーであるグーグルをケータイポータルの検索サービスに採用するなど、緩やかながらケータイからネットへの歩み寄りは始まっていた。
そしてついに、KDDIは「au one」というブランド名の下、同社が提供するインターネットアクセスサービス「DION」を「au one net」に改称し、auとポータルを共通化。提供するメールサービスも、バックエンドにグーグルのGmailを活用し、auone.jpアドレスでPCでも携帯電話でも利用可能にするという。すでに携帯電話による収益で固定電話やネットサービスの運営を経営的に補てんする状態にあるKDDIとしては一種必然的な動きではある。しかし、今後急速な発展が想定される「FMC(固定・携帯通信サービスの融合)」を具現化したものとして、業界内部でも急先鋒の地位を得たことには間違いない。このサービスによって、ケータイとPCで異なるアドレスを利用せざるを得なかった多くのユーザーの課題は解決されるのではないか。
加えてau oneでは、メールのバックボーンにgmailを利用することになるため、グーグルが提供する強力な検索サービスとスパムフィルタを利用できる。日本ではまだまだではあるものの、欧米では急速に存在感を高めているSaaS(サービスとしてのソフトウェア:ひとむかし風にいえばASP)には、グーグルのほかにもZimbraのように日常的に利用するメールを核にしたものが多いことから、単なるパーソナライズポータル以上の価値をau oneのポータルが提供するかもしれない。すなわち、au oneメールとポータルを核にした、スケジューラやソーシャルブックマークなどを複合的に提供する個人向けプラットフォームサービスへの進化の可能性だ。
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