ケータイに革新を生み出す「無駄」の存在

 3月の最終週、米国西海岸のいくつかの大学を訪問する機会があった。もともとはメディア研究領域で優れた産学連携プログラムを視察するのが目的で、それはそれで極めて有意義な結果を得た。ただ、そのプログラムで進められているいくつかの興味深いプロジェクトを通じて、「世界最先端」といわれる日本のケータイの状況について考え込んでしまった。

既存リソースを組み合わせて目標達成をデザイン

 例えば、南カリフォルニア大学(USC)の統合メディア・システムズ・センター(IMSC)で進められているGeoDec(Geospatial Decision Making:地理空間情報の把握による意思決定支援システム)プロジェクト。

 このプロジェクトは、「TV Guide」の出版者として有名なWalter H. Annenberg氏が遺した財団(同財団は、全米トップクラスであるUSCコミュニケーション学部の創立母体でもある)や、Microsoft、Googleなどからの研究資金を得て行われており、地理情報システム(GIS)や建物、あるいは不動産評価税などのさまざまのデータベースを組み合わせ、さらにライブカメラ、交通量センサや交通規制情報、バスなどの公共交通機関の運行情報などを重ね合わせることで、公的な視点からは都市計画、ビジネスの視点からは出店計画などを議論する際に有効なプレゼンテーション環境を提供することを目標にしている。もちろん、このシステムはインタラクティブであり、リアルタイムにさまざまな変数を組み合わせることが可能で、会議などで議論に応じて自由自在に想定する状況を変え、最適な効果を得るためのシミュレーションをすることが可能だ。

 こういったデータベース融合は、日本の大学や企業でも活発に研究されている領域かもしれないが、IMSCのすばらしいところは、既存のデータを活用しながら、実用に耐えうる条件をクリアするために研究が進められているところだ。前回のエントリで示したような「デザイン」の発想でプロジェクトが設計されているのだ。そして、このシステムは、コミュニケーション学部や映画学部、心理学部、教育学部、ビジネススクールといったさまざまな行動科学とその実践領域の研究者らによって、常に評価がなされ、更なる改善が加えられるのだという。このあたりが、「日本とは違うなぁ」と感じた最初だった。

 そして、さらに「あれっ?」と思ったのは、GeoDecの紹介をしてくれたポスドク(研究員)の学生がふと発した言葉だ。「このGeoDecは膨大な量のデータを比較的少ないリソースで処理しています。GeoDecのような大容量コンピューティングシステムを使えば、屋外広告とケータイを組み合わせたようなアウトオブホーム(OOH)メディアをダイナミックにデザインできるようになるんです」

OOHの一部として位置づけられているケータイ

 このGeoDecがメディアシステムによる意思決定支援を目標にしていることは既に聞いていたが、その応用例として次世代の屋外メディアが想定されていたのだ。日本ではケータイそのものがメディアとして、あるいはパーソナルツールの主役として考えられることが多いのだが、巨大な屋外広告版やバス停の風除けに掲載された広告など街中に組み込まれたメディアと生活者の接点としてケータイが位置づけられているのだという。

 ケータイと基地局との相対的な位置関係とGPSデータを組み合わせるなどして、ケータイというシステムの内部での応用をさまざまに考えるビジネスが日本では生まれてきている。が、さすがは米国、規模が違う。ケータイの中で完結するビジネスに終始するのではなく、ケータイの位置情報をさらに巨大なGeoDecのようなシステムの中に取り込んで、街を丸ごとパーソナライズした広告メディア空間にしてしまおうという発想なのだ。すなわち、ケータイはOOHの1ジャンルとして位置づけられており、主役ではない。むしろ、街中に設置された野外広告を巨大なディスプレーとして取り込むことのほうが大変だ、とすらいう。

 このことを突っ込んで質問しようとしたのだが、ポスドクくんは「残念なんだけれど、僕はシステムデザインが専門で、メディアデザインはよくわからないんだ。でも、きっとGeoDecのような仕組みがなければ、ケータイと生活空間は結び付かないと思うよ」と答えてくれたのみだった。しかし、この回答でも十分といえるかもしれない。GeoDecの開発を支援してきている企業の誰かは、ケータイを取り込んだ巨大な街そのものをインタラクティブメディア化するためのデザインに必要不可欠なパーツを求めている、ということがわかったからだ。

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