アップルのiTV登場に思うこと - (page 2)

 この放送通信融合を巡る議論と同時に、日本全土に光ファイバーによる超高速インターネット環境を行き渡らせようという政策が改めて確認されたにもかかわらず、なぜか巨大な地上波デジタル放送の送信設備建設や、全国津々浦々へのギャップフィラー設置、果ては衛星を用いた送信などを組み合わせて全国にデジタル放送を行き渡らせるために巨額の「補助金」などが投入されることが決定された。これは、全体としては矛盾に満ち、どこかで「IPによる放送は許されてはいけない」という強い意図を感じざるを得ないものとなっている。

 このような状況下では、いかに楽曲配信で先導した黒船AppleのiTunesであっても、そうやすやすとは放送、それも個別の番組を任意に配信するというサービスを実現することは困難に違いない。

 映像コンテンツにも対応した新iPodもきっとヒット商品になるに違いない。しかし、一生聞いても飽きないくらいの楽曲数を溜め込めるほどの大容量HDDを有していても、いっぱいになるほどのダウンロードをする人はいまい。やはり、映像コンテンツを取り込み、自由に利用できるようにならなければ、それは過剰なスペックといわざるを得ず、その存在意義は薄くなる。

リビングの大型テレビの「未来」イメージはどこに

 さて、もうひとつのポイントとして、日本のお家芸である家電製品でも中核的な位置を占めるテレビを巡るものがある。今や多くの先進国では、大型薄型テレビは豊かな生活を象徴する存在としてリビングルームにはなくてはならない存在となっている。

 20世紀末には「テレビv.s.PC」といわれ、家庭内でのエンターテイメントパワーステーションとしての地位をどちらが獲得するのか、という議論がよくなされた。例えば、ソニーとMicrosoftという対立構図において、だ。

 ただ、その後、テレビ(と、家電系セットトップボックス(STB)をまとめる)とPCのそれぞれのポジションにおいて圧倒的な存在感を示すに到るPlayStation 2とWindows XPの登場で、その緊張関係はいったん緩和された印象があった。が、テレビの大型化やデジタル化は急速に進行したのに対して、テレビそのもののインテリジェント化はあまり進行しなかったために、今度はテレビのソウルメイトであるゲーム端末を巡る戦いにその勝敗は委ねられることになった。Xbox 360とPLAYSTATION 3のライバル関係だ。

 そこに、ゲーム機としてではなく、PCの完全な延長機器としてAppleはiTVを導入しようとしている(以前、Mac互換のPipin@Markというバンダイが出したゲーム機があったが、今回は敢えてゲーム機能を与えることなくAirPortベースのように純粋な接続装置として定義されている) 。

 このような状況では、いかにサイズは大きく、かつ薄く、そしてきれいな映像を映し出すことができてもテレビはテレビ=基本的な提供価値は依然として放送受像端末にとどまり、Xbox 360やPLAYSTATION 3、あるいはWiiやiTVのような高度な価値提供が可能な機器に従属する、非インテリジェントな装置としての位置づけを甘受するしかなくなる。

 仮に、そのテレビとゲーム機、あるいはSTBという関係が、シャープのAQUOSファミリのファミリンク、あるいは松下電器産業のVIERAとDIGAをつなぐVIERA Linkといった閉鎖系になっていれば、PCの侵入を排除することはできるが、基本的にホームネットワークは標準化を前提とすることで提供価値を高められるという発想のため、閉鎖系は否定されるべきものとなるだろう。であれば、いよいよPC勢はXbox 360やiTVを介してTVに接近することになる。

 が、さまざまなアプローチが大型化し高精細化したテレビに対してなされたとしても、もし仮にそこで利用可能なコンテンツや経験が限定されていたとしたら・・・、われわれのリビングルームはどうなってしまうのだろうか?ゲームを頻繁にする人を除き、そもそもPCによるテレビへのアプローチを云々する議論以前に、日本ではiTVのようなネット経由での映像コンテンツを楽しむための装置を導入する根拠がなくなってしまう。高性能になって、過剰な性能を無駄使いする第5世代iPodと同様の運命にあることにはならないか。

 別にIPによる映像配信サービスではなくともいい。これまでとは違う価値を今こそ発信する、といったような勢いが生じない限り、2011年を超えてもテレビはテレビのままであり続け、この国は映像コンテンツのガラパゴス諸島になってしまいかねない。これを危惧せずにはいられないのは僕だけだろうか。

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